表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

豆まき

作者: ゑいすけ
掲載日:2026/02/07

リモート仕事ができるようになったことをきっかけに、俺は思い切って田舎に家を借りた。

リビングからは街を見下ろす広い庭が見える。

晴れた日は木々の影や、遠くの建物までよく見渡せて、気分がいい。


節分の日、少し意気揚々として窓を開けた。


「鬼は──外! 福は──内!」


この家の周囲には、民家がない。


撒いた豆が庭の土をかすかに弾く音がした。

そして、続いて、何か、かすかに聞こえた気がした。


目を凝らす。

庭から地続きの、なだらかな下り斜面の向こうに、町の明かりが見える。

雪が疎らに積もっているのは、低めの草の上。

もちろん、辺りには人の姿も、猫の姿も、何もない。


「……気のせいか」


手に握った豆をもう一度撒く。


ぱらぱらと庭に豆が散る。


「鬼は──外! 福は──」


ぱら ぱらぱら こつ こっ… …


数度目、窓の明かりの方まで、豆が返ってきた。


思わず体が跳ね、窓を慌てて閉める。

心臓がざわつく。


ガラス越しに外を見ても、やはり誰もいない。

庭は白く、丘も町も静まり返っている。

それでも、庭の明かりの中には、豆がいくつか落ちている。


手から落としたのか、と手元の袋を見た時だった。


コツン コツン カツン


「えっ、あっ、ワァッ!?」


間近から聞こえた物音に、俺は弾かれたように後ずさる。

窓ガラスに、小さな物がぶつかっている。

室内の明かりで、一瞬、白っぽい小さな粒が見えた。


豆だ。


誰かが、俺のまいた豆を、暗闇から、投げ返している。


――翌日、早々に不動産屋へ行くと、あっさりと別の物件を紹介された。

しかし、担当者は事情を聴いても不思議そうに首を傾げるばかりだった。


「なんの曰くもないですよ。前の借主だって、町に引っ越しただけですし」


帰宅すると、リビングの床に、豆が落ちていた。


数時間前、朝食を取ったときも、家を出るときにも、なかったはずだ。


背後で、かすかに豆が落ちる音が聞こえた気がして、俺は家を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ