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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
九章 変化
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9-4. 実家で恋愛談義をします


ソユンへの贈り物としてちょっと苦手な刺繍に挑戦したメイメイです♡







「よ、ようやく完成したよぉ……! これ、何の花か分かる?」



美しい絹の手巾を真上に掲げて喜びの声を上げたのは、ここ最近ぬいぬいちくちくと刺繍に精を出していたメイメイである。

 

仕事終わりに自室へ駆け込む生活もこれで終わりだと思うと、自然と口角も上がる。

うきうきと手巾を渡すと、同室の相棒は拍手で称えてくれた。



「まあ、綺麗ね! うーん、花弁がしっかりしていて可愛いから……、桔梗かしら?」


「うっ、実は藤でした……! えへへ、まあソユン様には藤だと言ってから渡せば何とかなるはず!」

 

刺繍は苦手なので、出来栄えもやはり。

 

しかし、ここで落ち込む姿を見せると優しいアンリを慌てさせてしまう。

メイメイは肩をすくめておどけてみせると、そのまま言葉を続けた。


「ほら、高貴で上品な雰囲気が、ソユン様にお似合いかと思って」



それに、甘い香りがする。

そう心の中で呟くと、先日ソユンの香りをいつもより強く感じた出来事を思い出した。


――彼が髪の毛を下ろしていたからか、それともいつもより近くにいたからだろうか。


初めて触れ合った唇の感触や、頭の後ろに添えられた手の大きさ、こちらを見上げて弧を描いた蠱惑的な目元。

そんな記憶がまじまじと頭に浮かび、メイメイはぽっぽと顔を赤らめる。


 

「う、うわあ……!」


「あらあら、メイメイったら可愛い!」


思わず熱くなった頬に手を当てて悶えると、アンリの明るい笑い声が弾けた。


あとは、後日ソユンにこの手巾を渡すだけ。





 

「メイメイさん、明日はお休みでしたね?」


「あ……」

 

ソユンへ贈り物を渡すのを待ち遠しく思っていたある日、文書課の副長に声を掛けられて、メイメイは口をぽかんと開けた。


 

(そういえば、お誕生日から少し空けたらお会いできるかもって、適当にお休みを取っていたんだっけ……)


申請したことはすっかり頭から抜けており、声を掛けられなければ明日も出勤するところだった。


「……お休みが続いちゃうし、しばらくはソユン様もお忙しくて会えないみたいだから、帰省でもしようかな……」


ということで、メイメイは突発で実家に帰ることにした。






「ごめんね、事前の知らせもできなくて」


実家の門を潜ると、笑顔の両親と弟が出迎えてくれた。

帰るたびに、やはり安心する空間である。



「いつでも楽しみに待っているから、気軽に帰っておいで。……おや、メイメイ、いつもより大人びて見えるね。身長が伸びたのかな?」


「ありがとう、でも身長はたぶん変わってないよぉ」


家の廊下を歩きながら、しみじみ眺めてくる嬉しそうな父親に突っ込んだり。

 


「ちょうど今日、珍しい乾燥果実を市場で買ってきたのよ! あとは脂の乗ったいいお魚も! ほら、たくさん食べてね、メイメイ」


「ありがとう、でもそろそろおなかに入りきらないかな……」


食事の席であふれんばかりの皿を並べさせて笑う母親に、待ったをかけたり。

 


「あねうえ、おそいよ! はやくこっちにきてっ!」


「お、弟よ……。お姉ちゃんね、ご飯の後はそんなに走れないんだよ……」


走り回る小さな弟を何度でも追い掛けさせられ、ぜえはあと息を乱したり。


 

久々に両親にめいっぱい世話を焼かれ、逆にすっかりやんちゃになった弟の面倒を見て、メイメイは大いに実家を満喫したのであった。





そうして夜はのんびり自室に籠っていると、母親がいそいそとやって来る。


「メイメイ……、気になる子とかできた?」


「えっ……! な、なんで? 別にそんな……」


どうやら恋愛話のようだ。

思い切り動揺して目を瞬かせると、訳知り顔の母親はふふんと微笑んだ。


「母親の勘よ。お父さんも少し気づいていたみたいだけど、あなた少し雰囲気が変わったから」


冗談めかしているが、目つきはとても穏やかだ。

さすがに相手はあなたたちがお気に入りのソユンだよ、なんてことは言えないが、メイメイは少しだけ語ってみることにした。




「じゃあメイメイは、その彼のことがとっても好きなのね」


上手な相槌に乗せられて色々話すと、母親はうんうんと頷いた。


「……気づいたらね、大好きになっていたみたい。憧れなのかなって思っていたんだけど、それだけじゃなくて。もっとずっと一緒にいたいし、もっとわたしを見ていてほしいんだあ……」



そこまで言うと、メイメイはとうとう抱えた膝に頭をぐりぐり押し付ける。


「うへえ……! こういうの話すのって、ちょっと照れくさいね……」


「わたしは嬉しいわよ。初めて娘とこんな話ができて」


もじもじする娘の頭を、母親はそっと撫でた。

ゆっくりと顔を上向けると、温かく目を細めてこちらを見守る顔がある。


「それに、幸せそう。……彼とこれから素敵な思い出を作ってね、いつでも応援しているから」



二人並んで月を見上げながら、母娘はしばらく寄り添って座っていた。






「……弟は、この寒さの中、元気いっぱいで、……可愛いです。わたしよりも、体温が、高くて……、抱きしめると、外でもほかほかなのです、よ……」


母親が自室に戻っていったあと、メイメイはソユンに会いたくなった。

そうは言ってもすぐに会えるわけではないので、想いを持て余して手紙をしたためている。



「うう、だめだ! これだと日記を送り付けているみたい。もっとこう、情緒的な美しい文章を書きたいのに……!」


親への手紙を書くのに慣れすぎて、良い具合の文面にならない。

メイメイはぶつぶつと呟きながら、ああでもないこうでもないと頭を抱える。


そうしてしばらく悶々と悩んでから、潔く立ち上がった。


「こうして考えていても埒が明かないし、気晴らしに散歩でもしよう……!」


ちょうど、細い月がなんとも趣深い夜だ。

美しい夜空を眺めて散策するうちにいい話題が思い浮かぶだろうと、メイメイは自室を後にした。






薄暗い領地の片隅では、ひっそりと身を隠す人影がある。

仄かな月明かりの下、彼女が屋敷から遠ざかっていくのと、馬に乗った男が急いで屋敷に近づいていくのは、ほとんど同時のことだった。




 


メイメイ一家もっと書きたいところです(*´ω`*)

赤ちゃんだった弟も、喋って駆け回るようになりました✨



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