6-4. 真相を明かされます
追加したタグについて、活動報告にて少しご説明しています!
王子とのやりとりを思い出してしまったメイメイは、中途半端に王子のことを話題に出しては言いよどみ、なんとも煮え切らない態度を取っていた。
大切な王子のため、そして目の前でもそもそするメイメイのために、ソユンは美貌と甘い言葉でメイメイを惑わせ、事情を聞き出すことに成功した―――…。
若干の語弊はあるかも知れないが、そんな流れでメイメイは、記憶の限り細かく、王子との会遇にまつわるすべてを伝えるに至った。
ソユンと別れた後の、おそらく意図的な出会い。
メイメイとソユンの関係についての追及。
そして、王子自身とソユンとの、とある関係性について。
(王子に内緒にしろとか言われていないし、伝える相手も当事者のソユン様ご本人だし、これって伝えても大丈夫だよね……?)
ぺらぺらと口を動かしながら不安になるメイメイだったが、ソユンの真面目な表情を見るに、きっと問題はないだろう。
「へえ、殿下がわざわざ……」
否定する、笑う、誤魔化す、あるいは揶揄されたと不快に思うか。
恐れていたのは、この繊細な話題に不用意に首を突っ込んだせいで、彼を傷つけてしまうことだった。
しかし、緊張しながら様子を窺ってみても、ただ疑問に思っているような、少しだけ神妙そうな顔をするばかりで、特にそのどれにも当てはまらなかったようだ。
今までこんな風に考え込む姿を見たことがなかったので、初めて見る表情にメイメイはなんとなく不思議な心地になる。
「うーん……、いまいち意図が分からないな。 赤毛ちゃんに対してわざわざ言う旨味はないはずなのに……」
きれいな形の顎に指を添え、視線を伏せて独りごちる彼は、自分の主がなぜ私に伝えたのかということに疑問を覚えているようで、内容に対しては否定する気配がない。
メイメイがそわそわと息を潜めて次の言葉を待っていると、それに気がついた彼はあっさりと首肯した。
「まあでも、殿下に抱かれているのは本当のことだよ」
「だっ……!? 」
あまりにも衝撃的で、とっさに大きな声を上げてしまった。
言葉は続かず、口もぱかりと開いたまま。
メイメイは王子のことをほとんど知らないが、あれだけ身分が高くて評判もいい人だ。
意味のない嘘はつかないだろうとは思っていた。
けれど、ソユン本人から肯定されると、それが現実味を帯びた、なんとも生々しいもののように感じられる。
はっきりした言葉を使われたなら、なおさら。
(だって、今、だ………、抱………!? )
「あれ、詳しくは説明されていないのだっけ。 噂が変に広まってしまってもよくないから、一応ここだけの話にしてくれるかな? 」
「あっ!? そ、それはもちろんです! 絶対に誰にも言いません……!」
メイメイの頭はまだ先ほどの余波から立ち直っておらず、条件反射で答えた。
もっとも、少しでもソユンが困ってしまう可能性を作るのは、メイメイだって全く望むところではない。
誠実に事実を伝えてくれたソユンのためにも、もちろん誰にも言わないに決まっている。
決まっているのだが、もう少し深掘りしてもいいだろうか。
メイメイは、話を詳しく聞かないことには持ち前の逞しい想像力が暴走して、もっとてんてこまいになってしまう気がした。
「えっと、……お二人は恋人同士、なのでしょうか?」
聞きながら、もう少し婉曲に聞いたほうが良かったかもしれないし、そもそもこの話は終わりにすべきではないのか、と混乱してきた。
メイメイは同世代の友達との恋愛話ですら、片手で数えられる程しか経験を積んでいない。
また、お高い身分特有の婉曲表現なんていうものにも馴染みがない。
それなので、格別に高貴で事情もありそうな二人のことを、こうやって気軽に聞いてもいいものなのか、さっぱり分からない。
「あ、あのっ……、お答えいただくのは、差し支えなければで全然よくて……。 あっ、もちろん この話やめにしていただいても、全く問題ありませんので、その……、なので………」
「赤毛ちゃん落ち着いて、大丈夫だよ。 それで、その質問に対しては、違うというのが回答だ」
すっかりいつものおっとりな雰囲気に戻った男は、これまた大したことではなさそうに否定した。
落ち着きのないメイメイを宥めるように、声だってとても穏やかだ。
(か、……身体を、交えることもあるのに、恋人ではない……。 えっと……、これって、……いわゆる大人の遊びの関係ということ? 王子と八大貴族のご子息が? この国の軍事の要と、最も位の高い官僚の一人が……?)
頭が追いつかず目をぱちぱち瞬くばかりのメイメイに、言葉を選ぶように口元に手を添えながら続ける。
「……うーん、閨と恋愛を結びつけるのも当然か。 どう言えばいいか難しいな。 赤毛ちゃん、この話続けていてもいやじゃない?」
「もちろんです!」
大きく返事をしてから、さらに言い募る。
「そ、それに、本当に、誰にも言いません! ただわたしは、わたしは……ソユン様のことを、もっと知りたいだけだから……」
メイメイには、言葉を選ぶ心の余裕も、ソユンを独占していられる時間の余裕もない。
どもりながらも率直に言葉を紡ぐと、不出来な妹を見守るような温かい視線とともに、ありがとうと告げられた。
「ジフン様から結婚という選択肢を遠ざけるための、盾みたいな役割をしてるんだよ。 王太子殿下とジフン様が異母兄弟という立場でいらっしゃること、それと、ジフン様が武官からの圧倒的な支持を受けていることが、残念ながら権力の均衡に影響を及ぼしていてね」
「た、盾……?」
メイメイにも分かるように、かいつまんで説明してくれることにしたらしい。
努めて軽く、なんてことないみたいな顔をして、目の前の青年は言葉を連ねた。
「殿下は聡明な兄君であらせられる王太子殿下を立てるためにも一歩引いて、結婚をせず子供やこれ以上の後ろ盾を作らないことを示したい。 それをてっとりばやく証明できるのが男色である宣言で、いちばん近くにいて信憑性もあり、使えそうだったのが僕だったということだね」
ちなみに、ある程度の役職につく貴族たちには意図的に噂を広めているけれど、あくまでも噂止まりに過ぎないから、こうして直接確認されたのは赤毛ちゃんが初めてだよ。
けろりとそう告げるソユンに対して、メイメイは混乱が深まるばかりだ。
(しょ、衝撃が大きくて、熱が出ちゃいそう……)
実際にその夜、メイメイは発熱して寝込んだ。
(王子とソユン様……、どういう気持ちで一緒にいるんだろう……)
寝台に横たわってうつらうつらしながら、考え込む。
メイメイはあまり嗜まないが、同性同士とか身分差だとか、一筋縄にはいかない恋愛を主軸にした物語も、一定数存在している。
実際に読んだこともあるから、一応知ってはいるのだ。
だから、もしそういう感情を二人が持ち合わせているのなら、まだ理解できる。
恋愛未経験のメイメイには刺激が強すぎるだけで、そのうち慣れるだろう。
しかし、彼らの間にはそんな空想じみた感情ではなく、ソユン自身が気にも留めない自己犠牲や献身が横たわっているように感じた。
メイメイをいちばん混乱させているのは、ソユンのそういう態度かもしれない。
あくまでも、王子のため。
そういえば、あのソユンが疲れて見えたのも、王子のために頑張っていたからではないか。
(ソユン様は王子の女除けのためにご自身を使っていることに、なんの躊躇いもなさそうだった。 普通こういう関係には感情が入るものだと思うのに、王子からどう思われているかも気にしていないみたいで……)
前々から感じていたことでもある。
彼は人を優しく思いやる一方で、自分のことに関してはどことなくぞんざいだ。
人から向けられる好意も、彼には正しく届かず、通り抜けていってしまう。
そう感じることが、メイメイはなぜだか遣る瀬なく、物悲しいのであった。




