6-1. 気まずい現場に居合わせました
迷子も多かったメイメイが、今や廷内あちこちを回るお仕事も任されるようになりました!成長っ(*´ω`*)
「この前新しく来た子に、ここでは私語厳禁だなんて叱られたわ。そんなに声も大きくなかったし、周りにお貴族様だっていなかったのに、神経質になりすぎよね」
「ここが静かすぎる場所なのも悪いよな。裏の使用人通路や厨房辺りはうるさいくらいだけど、表はわりとどこも静まり返っていて。 ちょっとの物音でも目くじらを立てられるというか」
「確かにね! わたしがここに来た頃はどこでも騒がしいほど賑やかだったのに、最近はいちいち堅苦しいったら……」
(話す場所さえ変えれば怒られないのでは?)
思わず心のなかで突っ込みを入れたのは、衛生部の書類をここ雑務棟を始め、あちこちへ届ける任務を引き受けたメイメイである。
廊下の曲がり角に差し掛かった時に、小部屋から出てきた下級使用人らがそのまま立ち話を始めてしまったのだ。
道中はきれいに掃き清められていたから、きっと掃除が終わってこれから片付けに向かうところなのだろう。
(……この区域をまとめるのは、最近新しい中級女官に変わったばかりだったっけ)
同じ衛生部に所属する先輩女官で、元々の実家の位も高く上昇志向のある意欲的な人だと聞いたことがある。
この使用人たちは長年働いてきたようで、いわゆる新顔からの厳しいお叱りに不満を覚えているようだ。
控えの間まで我慢できれば誰も文句を言わないと思うが、納得できないという気持ちは抑えようとしてもうまくいかないものだったりもする。
せめてもう少しだけ周りに気を配って、誰も―――特にメイメイが―――いないところで発散してくれればありがたいなと、メイメイは小さくため息を吐いた。
ここを通りかかったのが件の女官ならどうなっていたことか。
(それに、立ち去ってくれないと、わたしもここから移動できないんだよなぁ………)
残念ながら、メイメイの本日最後の目的地へ向かうには、この廊下を使う必要がある。
しかし通路をちょうど塞ぐように立っていられて通れそうにないし、かといって今声をかけるのも気まずい。
彼らだってもう少ししたらさすがに気が済むだろうと、メイメイはひとまず角の物陰に留まり、去るのを待つことにした。
「……今の王太子夫妻は仲睦まじいみたいだけど、それにしては未だに明るい話題が聞こえないからね」
このまま大人しくやり過ごしたかったのだが、しばし壁に寄りかかって待っている間に、彼らがよくない話題に移っていくのに気がついた。
―――王太子夫妻の間に、まだ子供がいないことを言っているのだ。
声高に話していいことではない、正直下世話な話題でもある。
少し待つつもりが、さらに出て行きづらい雰囲気になってしまった。
どうしようか悩んでいる間にも、声高に話は進んでいく。
しかし、メイメイにとっては間がいいことに、そして彼らにとっては不運なことに、大して時間も経たないうちに、それを聞き咎める声がこの場に割って入ってきた。
「姦しく無駄口を叩く場所ではない。品位のない話なら尚の事。高貴な方がお通りになる時刻であることも失念していたのか」
向かいの通路からぞろぞろと歩いてくるのは、服装からするに中級官僚たちのようだ。
お喋りに夢中になっていた彼らだけでなく、隠れていたメイメイもその接近には気がついておらず、びくりと肩が揺れた。
メイメイのような一般階位の女官を取りまとめる担当官の、そのまた上司にあたる存在の登場に、物陰のいち女官も思わず背筋をぴんと伸ばす。
(見えてないだろうけど、一応ね……)
先頭にいた文官が険しい顔で問い詰めると、使用人たちは一斉に頭を下げて隅に避け、口々に弁明し始める。
「も、申し訳ございません!」
「ちょうど掃除を終えたところで!すぐにでも持ち場へ戻ります、大変失礼いたしましたっ……」
「気持ちを新たに励んでまいりますので、ど、どうかお許しくださいませ」
先程の不満げな表情はさっと改まり、顔面蒼白と言っても過言ではない。
何度も頭を下げながら手をそわそわと擦り合わせ、心なしか後ずさっている。
メイメイほどの女官に見つかったところでなんの問題もなかったろうが、一定以上の身分の貴族官僚に見咎められるとなると状況は変わる。
宮廷では、基本的に貴族か否かで待遇や業務内容、持てる権限が明確に区別されている。
貴族はちゃんとした伝手があればよほどのこと―――それこそ王族の私的空間に無断で立ち入ったりとか!――がない限り安泰だ。
しかし、貴族家出身の者でなければ、失態を犯すとすぐに解雇や懲罰に至ることも大いにありえるのだ。
規定の服装を見る感じ、この使用人らは庶民出だから、焦った態度は罰を恐れてのことだろう。
しかし、いくら反省した素振りを見せても、王族を悪く言うのは職務怠慢より大事に捉えられるものである。
先ほどの話を聞かれていたからには、ある程度の罰は避けられない。
「お前たちの処遇は管轄の担当者に委ねる。……いつまでそうして道を塞いでいるつもりか。ついて来なさい」
まとめ役であろう文官が急き立てるように彼らを連れて行く。
残された役人たちも、隣の棟に繋がる回廊に向けて深々と頭を下げてから、ささっと道を空けた。
その視線の先にいたのは、見知った顔の―――…
(ソユン様だ……)
彼らに鷹揚に頷いて応える艶美な青年は、こちらへと向かってくる最中だった。
(そういえばさっき、高貴な人が通る時間とかなんとか言っていたっけ。 ソユン様のことだったんだ……! )
メイメイだって出掛ける間際にそんなようなことを言われた気もするが、うっかり失念していた。
下手するとメイメイも道の妨げだと叱られていたかもしれない。
気を取り直して、ひそりと物陰からソユンを眺める。
待ち伏せをしたわけでもないのに、こんなに近くで見掛けられるなんて、足止めされていてよかった。
片手に一冊の本を持って優雅に歩くソユンは、それだけで一枚の絵画のように美しい。
そんな彼は、少し物憂げに、役人に連れられる使用人たちへ視線を向けていた。
「……おや? 赤毛ちゃんだ」
再び視線を前に戻したソユンは、すぐにメイメイに気がついてくれた。
ぶつけられるメイメイからの視線が、少し存在を主張しすぎていたのかもしれない。
表情を和らげ、やあ、と声をかけられる。
「ああいうの、あまり気分がいい会話ではないね。それで通れずにここにいたのかな?」
「え、ええ、妙な場面に出くわしてしまったなと少し困っていて。……ソユン様、お久しぶりでございます。お会いできて嬉しいです……! これから、どちらへ向かわれるんですか?」
前回顔を合わせたのは武芸大会の直後だから、実はかれこれもう三月ほど空いている。
ちょっとした問題こそあれ、こうしてばったり出くわすことができたので、喜びはひときわ強く。
さらに、いつもは補佐官や護衛官に囲まれているソユンが珍しく今日は一人だったため、これまた貴重だ。
「書物館だよ。 赤毛ちゃんも同じかな? よければ一緒に行こうか」
「えっ、ぜひっ!!」
メイメイの手元の書類といかにも用事の途中という様子から、目的地にあたりをつけたらしい。
ありがたいお誘いに飛びついてした返事はというと、予想以上にとても大きく響き渡った。
もうだいぶ先の方まで進んでいた先ほどの役人の一人が、思わずといったように振り返る程度には。
さすがに食い気味すぎたかな、と強い羞恥心を感じたのは一瞬で、今日も元気で可愛いねと向けられるふわりと優しい笑みですぐ帳消しになる。
その笑顔だけで、かいた恥と比べても十分お釣りが来るだろう。
へへ、と照れ笑いを返してあとに続いた。
前回のお話は、これまで読んでくださっている方々からすると、だろうなという感じか意外だったのか、印象が気になる回でもあります。
もしよろしければ気楽に反応などくださると、とてもうれしいです…♡




