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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
五章 王子と武芸大会
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5-2. いざ、武芸大会へ

武芸大会開催です!






  


常にないお祭り気分を味わって、わくわくそわそわと過ごしている内に、あっという間に武芸大会の日になった。



  

当日は警備や食事の担当者らが総出で駆り出され、出場する武官や主催の面々が忙しなくしている。

 

メイメイたちのような運営に関わっていない文官は休日だ。

以前のメイメイはそんな事情も知らずに休みを享受していたらしい。


  

最近は、ソユンの姿を全く見掛けなくなった。

現場を仕切ったり王子の出場に向けた補佐を行ったりで、いつも以上に多忙だという噂をよく耳にする。


(みんなが揃って人や店の多さを指摘するくらいだから、今年の準備の大変さはひとしおなんだろうな……。おいたわしいソユン様……) 


せめてその分大会を心から楽しむいい観客になりますからねと、会場の方向に念を向けておくメイメイである。




 

 



「準備はできた?今日は、はぐれないように頑張ろうね!」


「うんっ!……うぐ、宿舎出てすぐの道ですらもう人がいっぱいいるね。腕、組んでも良い?」


「もちろんよ。さあどうぞ」


 

同じところで暮らす恩恵を受け、アンリとは部屋から一緒に会場まで行くことができる。

家族みたいとほっこりしつつ、いざ行かんと宿舎から繰り出すと、まず普段は見かけないくらいの人が歩いている。

 

はぐれたらまずいぞと、お言葉に甘えてメイメイがアンリの腕にしがみついたのは正解であった。

会場に行くまでの道は、さらに人でごった返していたからだ。


  

「なんかもう、宮廷の忙しい時の使用人通路みたいになってない……?」


「まさにその通りね……。昨年はここまで多くなかったと思うんだけど、やっぱり殿下の効果はすごいのね」



人の多さの割には皆ぞろぞろと同じ方向へ向かうので、しっかり同行者と一緒にいられれば、それほど大変な道中ではなかった。 

むしろ周りが武芸大会の話で持ちきりなので気分も盛り上がり、会場に着く頃にはすっかり観戦用の心構えに仕上がっていった。




 

会場付近ももちろん大変な混みようで、始まる前なのにすでに熱気と歓声に満ちていた。

メイメイ一人だったら怖気付いて入り口の時点で踵を返すような、大層な賑わいである。

 

立ち見は大変だろうと伝手を使ってうまいこと端っこの方の席が取れたので、先に座席の場所だけ確認しに行くことにする。





 

「わたくしの贈り物を受け取ってくださる?」


「ありがとうお嬢さん、もちろんいただきますよ」


「わ、わたしの編んだ髪紐です!どうか今日はこちらをお使いになって」


「わたしの手巾もどうか持っていてください!」

 


各々の出場に備える武官たちもあちらこちらにいて、着飾った女性に囲まれていた。

 

きらきらしい女の人たちが我こそはと声を上げ、我先にと贈り物を渡したがる。

きりっと精悍な武官はそれに如才なく対応したり、初々しくあたふたとしていたり、人それぞれだ。

 

そんな光景が広がっている。


 

これは大会前恒例の行事で、お目当ての武官に手巾や装飾品を贈るというのが、本日の女の子たちの頑張りどころらしい。

いくつもの贈り物の中から見事選ばれ、身に纏ったり武具に括り付けられたりすることを祈る、そんないじらしい女心は見ているだけできゅんときた。

 


(こういうのって物語の中だけの話かと思いきや、実際に身の回りで起こることもあるんだ……。やっぱり外出を厭わず、たまには外に出て色々と見聞きしないとだね……!)

 

ふんすとやる気に満ちたメイメイは、座席に向かいがてら、そんな新鮮な人間模様を篤と観察する。



「すまない、今日は彼女からの贈り物だけを身につけると決めていて……」


「ありがとう、きれいな石細工だね!……ん?ああ、君もありがとう。珍しい色の石だね、嬉しいよ」


「あら、あなたも手巾を? 素敵な花の刺繍ね!わたしのはほら、少し不格好でしょう?あの人猫が好きだなんて可愛いことを言うから、図案を一から作って……」



どうやら出場者の受け取り方もまちまちで、特定の一人だけから貰う者もいれば、みんなから受け取る者もいる。

さらに、渡す物が被った女性たちは可愛く険しく、牽制のし合いをしているようだ。

 

大会前に、すでに戦いは始まっていた。



 


  


そんな集団を抜けて歩き進めると、広い会場では端っこの方だが会場全体が見渡しやすい、そんな席へたどり着く。

満遍なく見たい初観戦には特に向いているであろう、なかなかいい位置である。

 


「ここまで来るのも一苦労だったから、合間に食べ物を買いに行くより、今のうちに買っておいた方がいいかもね!」


「そうね、先に飲み物とちょっとしたつまめるものでも買っておきましょうか」


名案だと二人で頷き合い、いざ出店が立ち並ぶ区域へ向かう。


 

会場へ向かう道中や入り口で人の混雑を目にしていたから、二人ともそれなりの覚悟を決めていた。


しかし―――

 


「メイメイ、こっちよ……!もうちょっとだから頑張って……」


「あわわわ………は、はぐれるのだけはいやぁ……」



大会直前というこの時間に食べ物を求める人の群れは、これまたすごかったのだ。

 

何十もある出店はところせましと並んで行列を抱えており、湯気や煙がところどころで立ちのぼる。

人の声や調理の音がこの空間を埋め尽くし、静かな瞬間はない。 

後ろに並ぶ人たちは果たして何を目当てにしているか分かっているのだろうかと思ってしまうほど。

 


想定外の混雑に目を丸くしたメイメイたちは、一度は諦めて席に戻ろうかとも考えた。

しかし、結局周りの熱意に感化され、同じように飲食物を求める険しい道を選択したのであった。


人がひしめき合い、右に左にと身体が持っていかれそうになる中で、何度もはぐれそうになりながら、二人で手にした食料を懸命に守りきる。


 


「メイメイ、一番混んでるところは抜けたよ!ほら、座席も見えてきた……」


「……はー、ようやく出てこられたね!人混みに酔っちゃうところだったぁ……」


「あら、観覧席もさっきより人がたくさんになってきたわねぇ……」


「ほわ、本当だ!さっき席の場所を確認しておいて良かったね。……ふう、ようやく着いたー!」



わけもわからず何かしらの食料を調達して、へろへろになりながら席まで戻ると、やり遂げたという妙な達成感に包まれて、二人顔を合わせて称え合った。


  

目についた行列に並んだため狙って購入したわけではない品々は、落ち着いて見てみると普段なら選ばないようなものだったが、こういう行事ごとの醍醐味な気もするので、十分に満足である。

 

鶏の香草焼き入りの蒸し饅頭はもうもうと湯気を立てて食欲をそそり、こんがりと焼かれた玉蜀黍は香ばしくつややかだ。

いつかアンリが買ってきたものとはおそらくまた別の種類の乾燥果実は、一口齧ると強い甘みを感じ、異国情緒豊かでわくわくしてしまう。

 

軽めに済ませた朝食の補填も兼ねて、アンリと少しずつ分け合って食べる。


 

「もう今の時点でこんなに楽しいなんて、今日は来てよかったよ!一緒にいてくれてありがとう……」


「そう言ってくれて嬉しいわ。初めて食べるものも、こうやって一緒に分け合うと面白いわね」


「うん、面白い……。アンリ、これからも仲良くしてね……」


「え、どうしたの? もちろん仲良くしましょうね」



大会前から楽しさのあまり感動するメイメイは、こうして一緒にはしゃげる友の存在に、改めてしみじみするのであった。




  


  


「そういえばさっきの贈り物合戦、すごかった!当事者からしたら大変なんだろうけど、見ている側からしたら思わずときめいちゃうよね!」


「どきどきするわね!……皆さん素敵だったけれど、ふふ、もしソユン様が武官だったらどんな光景になっていたのかしら」



あとはもうこの会場のざわめきを楽しみながら開始を待つだけになったので、メイメイたちはゆっくりお喋りをして時間を潰すことにした。

先程の活気に満ちてきらきらした集団を思い出してはしゃいでみせると、アンリが妄想しがいのある話題を投下する。



「高嶺の花すぎて、逆に誰も寄ってこないとか?なんかもうありきたりな品物じゃ恐れ多いし」


「でもせっかくこうやって話しかけても許されそうなお祭りの日だもの、みんな機会を逃さず取り囲むくらいする気もしない?」


「確かに……!でも周りが自分を巡って競い合うのは嫌がりそう……。うーん、平和的に、抜け駆けなしの連名で贈り物をされるとか!」


「今も非公認とはいえ親衛隊が結成されているくらいだから、かなりありえそうな話ね……」


「高貴なお姫様たちも混ざっているだろうから、きっととんでもない量になるんだよ。華やかな品々に囲まれて柔和に微笑んでいらっしゃる姿、想像できるもん……」


 

そんな〈武官ソユン様〉の話で二人盛り上がっていると、会場の入り口でどっと一際大きな歓声が聞こえた。


遠目から見ても分かる、まとう雰囲気のきらびやかな集団。


 


 

―――いよいよ待ちに待った、王子殿下御一行の入場である。







 

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