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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
三章 恋愛とか将来とか
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3-6. 美貌の役人の恋愛経験が気になります

いつもお読みいただきありがとうございます(ˊᵕˋ)


エピソードタイトルに挙がった人に、ちょっと意外な(?)一面があるという話です









 

宮廷の門を抜け、通い慣れた通勤路を朝とは逆の方向へ歩く。

その道中、メイメイは黙々と考えていた。


先ほどまで話をしていた、ソユンについてだ。



(ご自身が結婚に不向きなお立場だとお考えだからこそ、結婚に結びついてしまいそうな感情に一線を引くために、自然とああいう他人事のような受け入れ方をしている、と……)

 

 

普段周囲に向ける優しさを知っているからこそ、向けられる情に関しては、妙にあっさり捉えているように見えていた。

周りを軽んじているわけでも傲慢なわけでもなく、なのに自分に向けられる好意に関しては、感度が低くて無機質というか。

  

興味がないのだと考えていたが、話を聞く限り、興味を持たないようにしていると表現したほうがしっくりくる。 

結婚関連の考えや姿勢については、納得だ。




―――それでは、ソユン自身の()()()はどうなんだろうか。

 

結婚なんてずっと遠い話だったもっと幼い頃は、恋愛に憧れを持つこともあったのか。

それともその高貴な血筋ゆえ、元々結婚や恋愛についてそんなに理想を持っていなかったのか。


 

(今度はソユン様の考えじゃなくて、お気持ちが気になってきた……。無理しているようには見えなかったけど、絶対いろんな人に恋心を向けられていそうな人が、誰かと連れ添うことは全く眼中にないなんてことあるかな……?)



メイメイだって結婚は全く将来の選択肢として考えていなかったが、それは人付き合いがとにかく苦手だったからだ。


しかし、ソユンのように他人との交流を楽しめる気さくな人でも、恋愛ごとに必ずしも意欲的なわけではないのかもしれない。

 



  

  

気づくと自室に着いていたメイメイは、その後もふんふんとソユンの考察を続ける。

 

メイメイの今日の勤務時間は通常より短いため、まだ部屋には誰も戻ってきていない。

そのため、考え事に引き続き没頭するには、とてもいい環境だった。



(………よく考えたら、誰かと付き合ったことくらいは、あるかもしれない)



メイメイは文机の前に座り、腕を組みながら真面目な表情だ。


メイメイが結婚についての考えを問うたのだから、ああいった回答が返ってきたのだ。

恋愛経験を聞いたわけではない。


ソユンの身分に気兼ねしないくらい高貴な女性ならば、さすがにそのうちの一人くらいは今までに思いを告げたことがあるのではないか。

対するソユンは想い人がいるわけではないようだったから、強く乞われたら一度付き合ってみようという運びになってもおかしくない。

 

それすら一切ないならば、高嶺の花を極めた今に至るまでの、ソユンを取り囲む環境にいた女性には、漏れなく屈強なる自制心があったに違いない。

 


(結婚は考えていないとかお試しでとか強めに言われて断る理由がなければ、ソユン様も一度くらいってなりそうじゃない?……いや、でも一度でも付き合えたらなんで別れるのって話だよね。高貴なお姉様が相手なら、やっぱり政略結婚をすることになったとか……? 物語なら、本当の気持ちに気がついてその結婚を止めたりするんだけど、ソユン様ってそんな情熱的な性格じゃなさそうだし……)



若干失礼なことを考えているメイメイである。

  

引きこもりの少女期に恋愛物語を読み漁ってきただけあって、考えれば考えるほどいろんな想像が膨らむ。

結局その日の午後は、ソユンの恋愛観を専攻とする学者のように、そればかりを考えて過ごしたのであった。





 

その日の夜の食堂にて。

 

アンリはしばらく実家に帰っていて不在だったので、一日中気になっていたことを、その場にいた同室の子たちに聞いてみた。

 

メイメイが知る限り、アンリがいちばんの情報通ではあるが、この()も親衛隊の一人だ。

何かしら知っていることはないかな、と興味本位に聞いたのだ。



すると、


「ソユン様のこれまでの交際相手? 将来を考えるような相手かは分からないけど、そういう関係になった相手くらいなら何人もいらっしゃるみたいよね」


そんな当たり前なことを今さら、という顔でさらっと言われた。

 



「さすがにわたしたちみたいなのは馴れ馴れしくするのも恐れ多いけど、ある程度の立場になってくると、ぐいぐい迫っていく人も多いからねぇ」

 

「そうそう!あの方も身分にはそれほどこだわらないみたいだからね。婚約者もいないから、それこそ八大貴族のお姫様からある程度の上級女官まで、ひとときのお付き合い程度ならけっこういるみたいよ」

 

「ほら、例の色気がすごいあの人なんて我々親衛隊の間では有名よね……、ええと、確か八大貴族の分家で西部にあるカン家の前当主夫人!嫁いでそれほど経たないうちに独り身になられて、その辺りから長く付き合いが続いてるんだとか。今でもたまに親しげにしていたっていう目撃情報を耳にするくらいよ」

 

「あんまり人前では会わないところが、かえって仲の深さを感じさせない?」

 


そして、ちょっと驚愕発言が続きすぎだ。

待ってほしい。


確かに我が国では王族でもない限り、未婚のうちの交際についてはどうこう言われることもない。

しかし、それにしてもだ。

あの若さで、心当たりのある相手がたくさんいそうなのは、どういうことなのか。

 

  

混乱しているところに追い打ちをかけるように、女官歴はメイメイよりも短い新入りの子まで、そういえばこの前私の指導役の方と親しくなさるところをお見かけしました、なんて告げてくる。


 

「えっ、そんな身近なところでも目の当たりにできちゃうわけ!?」

 

「えっと、参考までに、親しくとはどの程度……」

 

「人前にいたわけでもなく、たまたま見かけてしまっただけなので、他の方には言わないでくださいね!ただこう、すれ違い様に指を絡ませ合っていたように見えまして……!」



少しあわあわと恥ずかしそうにしながら話す彼女に、わーとかきゃーとかいう楽しげな声が上がる。


 

「うわ、予想以上にそれっぽい場面だったわ……!羨ましい……見たかった………」

 

「付き合っていらっしゃるのかと思って、駄目元で先輩に聞いてみたら、そういうわけではなくて親しくしてもらっているだけだと仰っていたので、やっぱり噂は本当なんだと思って」

 

「仕事上接点が多いと得よね。そこまでうまく出世できればの話だけど」

 

「頑張ったらソユン様付きになれないかなー」

 

「ソユン様なんて高官中の高官なんだから、そばに侍るのも中位以上の階位は必要だもんね……。それか護衛武官。まずは勉強するか身体を鍛えるかしかないわ」

 

「武官の選択肢もあるんだ………」


 

ぎりぎり想像できてしまう生々しさに、いまだ衝撃を受けているのは見たところメイメイだけで、あとの面子はいつものように、思い思いに駄弁り始めた。


流石に陽気にお喋りに加われる精神状態ではなかったので、手紙が来てないか確認してくるとかなんとか適当なことを言って、一旦その場から離れた。




 


(ソユン様、誰かと恋愛したことあったんだ……。しかも全然こちらの想定外の人数っぽいし、みんななんだか知ってたし…………)


宿舎の廊下を当てもなく彷徨いながら、メイメイは一人心をわやくちゃにしていた。

 

そんなメイメイだって、あの運命的な初対面の時くらいはさすがにソユンを一男性として意識してしまったのも事実だが、それだって現実味のない夢物語の感覚で、今日の午後に想像していた時も、本を読んでいるような心地だった。


あくまでもソユンの恋愛事情は空想に留まり、高貴な女性という登場人物にその相手役を任せて妄想を楽しむ、そんな風に。



元々自分でこういう話を振るような性格でもないから知らずにいただけで、ソユンの女性遍歴って普通に知られていることなのか。


(ちょっと穿った見方をしているだけで、実際はわたしのようにただよく話す女性がたくさんいるという程度だったり……?それで親しい女性が多いと思われているとか)

 

ただ、残念ながら目撃情報が、それ以上の親しさを告げてくる。


(それじゃあ、あんなお忙しい合間を縫って、めちゃくちゃ恋愛を謳歌してるってこと……?)


 

興味本位での質問のせいで、当初想定していた以上の情報が押し寄せ、混沌に落とされた心地だ。

なんでか落ち着かず、焦燥感、妙なざわつき、どう形容したらいいのか分からない初めての感情が頭を占める。


結局手持ち無沙汰に歩いたはいいものの、食堂に戻るまでの間にその気持ちは収まらず、みんなが他の話題で盛り上がる間も悶々とし続けた。


 

 

そのせいで頭が冴えて寝付けなかったから、翌朝は寝不足でつらかった。





 


 

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