3-4. 将来像は人それぞれです
宿舎でのガールズトーク回です✨
「――また、連絡を、待ってるね……、と」
部屋に戻って、手紙はすぐに書き終えた。
前向きな娘らしい内容にできたと、メイメイは満足げな顔をして読み返す。
(これも素晴らしい相談相手のおかげ……)
「ただいま、メイメイ。……それってこの前の手紙の返事?」
封の準備をしていると、同じくお出かけ帰りのアンリが部屋に戻ってきた。
「そうだよ! かなり遅くなったけどね。ほら、前回こんな内容で……」
「あら、見せてくれるのね。……え、お見合い!」
例の手紙と書いたばかりのそれを手渡して、そうなのと頷く。
頼もしい相方は隣に腰掛けると、順番に手紙を読んだ。返事を見て、素敵ねと微笑む。
「へえ、手芸の会は王都の女子に人気なんだ! アンリが参加している会には何人くらい女官がいるの?」
手紙に封をしながら、気になる趣味の集まりについて聞いてみた。アンリは指を折って考える。
「刺繍の会には九人で、編み物の会は六人かしら……。王都は色々な集まりが開催されるから楽しいわ」
「アンリがいるなら王都で参加しようかな……! 手芸以外だとどんなものがあるの?」
「ほかに人気なのは絵画や書道。気楽に参加するなら、お花見やお化粧の会もいいわね。それと――」
予想以上の数の活動はなじみがないうえに、メイメイに不向きな華やかさだ。
「んん、やっぱりおとなしく田舎で読書の会から始めてみるね!」
ところで、そんな活動的な彼女には、幼い頃から仲のいい婚約者がいる。
領主夫人としての勉強も進めつつ、実際の社会経験を積むためにこうして出仕することを決めたのだとか。
「アンリは婚約者さんとどうやって仲良くなったの? 年頃になったら、結婚のことを考えて気まずくならなかった?」
「そうねえ……。物心のついたときから一緒にいて、自然と?」
「なに、恋愛話?」
「楽しそうね、私たちも交ぜてよ」
二人でああだこうだ言っていると、部屋に戻ってきた同室の子たちも会話に混ざってきた。
気づけば別室の子たちも参加していて、恋愛観についてわいわいと盛り上がる。
「今度王都に住む叔母が男女混合のお茶会を主催するから、それに参加するよ。絶対に王都の人と結婚するって決めて女官になったくらいだし、楽しみ!」
「わたしは恋愛には興味がないかも。今は出世が夢だよ」
「二人とも、なんか格好いい……」
真逆で潔い意見に、メイメイは目をぱちくりした。
「今は宮廷に勤めている人と付き合っているけど、結婚するかは微妙なところ。今後もいろんな人と会って、どう生きていくか決めたいの」
「これから色々試していくのもいいね。わたしもまずは少しずつって思ってるよ! ……ちなみに誰と付き合ってるの?」
「あはは、秘密!」
メイメイが読む小説は主に恋愛ものなので、物語の少女たちは恋に振り回され、悩みながらも楽しく過ごしていた。しかし現実の女の子はさらに逞しく冷静で、しかしその一方で愛らしく、色々なことを考えて暮らしているようだ。
少しして別の話題になってからも、みんなでだらだらと寛ぐ。不意に、ソユンについて一つ気になったことがあるのを思い出した。
「ソユン様って、決まった恋人や婚約者はいらっしゃらないのかな?」
聞いてみると、肯定が返ってきた。婚約が解消されたとか、そういった複雑な過去もないらしい。
「ソユン様にあれだけの地位があってよかったよね。なかったら、高位貴族のお姫様たちが権力に物を言わせて婚約をもぎ取ってたに違いない!」
「確かに! 想像もつかないけど、もしただの一般文官だったらすごく苦労しそう」
本当に想像がつかないねと笑っていると、別室の子が目を輝かせた。
「ソユン様がお選びになるならどんな方だと思う?」
「ええ……、とにかく完璧な人がいいでしょ? だから――」
(……ん? アンリ?)
ふと、何やら微妙な表情をしているアンリに目が留まった。
いつもの彼女は知っていたら教えてくれるし、知らなかったら興味を持って会話に加わる。
少し考え込むような素振りは珍しいぞと、メイメイは首を傾げた。
「メイメイが考える、ソユン様にふさわしい相手はずばり……?」
「えっ、わたし!? え、えーっと……。こう、限りなく高貴な感じの……、もう隣国のお姫様とかしか思いつかないよぉ」
「言われてみれば、その説がいちばん濃厚かも! 隣国の姫に婿入り、なんだかしっくりくるわ……」
「ソユン様はこの国の宝なんだから、他国になんて行かせないよ!」
「私たちの想像上でソユン様が取り合いになっちゃった……」
その引っ掛かりも、メイメイに話が振られ、アンリもまた楽しげに加わったのを見ると、自然と頭から離れていった。
けらけらとふざけ合う少女たちの笑い声で、今夜も宿舎は満たされる。
やがて夜も深まり、各自寝支度を整える。メイメイも、布団に横たわって目を閉じた。
ふと頭に浮かぶのは、今日の恋愛談義だ。
(みんな、将来をちゃんと見据えてた。ソユン様だって、誰かと添い遂げたり交際してみたりなんてことを、考えた夜があるんじゃないかな……)
彼がもし恋愛とか結婚だとかをするとしたら、果たしてどんな人がどんな風に愛されるのだろうか。
――空想の中で、ソユンの隣に美しい女性が並び立つ。
とびきり高貴で賢明な彼女は、誰が見てもお似合いだと思うだろう。
そんな素敵な彼女を、外で見せるものとは違う一層特別な表情で、ソユンは愛おしげに眺めるのだ。
想像して一瞬心の奥がちくりとした気がしたが、気のせいだ、きっと。




