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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
三章 恋愛とか将来とか
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3-4. 将来像は人それぞれです

ブックマークをしてくださった方がいらっしゃいますね!

このお話に興味を持ってくださったのかなと思うと、とても嬉しいです…♡


いつもお読みくださる方々に少しでもいいなと思っていただけますように…









「―――また、連絡を、待ってるね……、と」



 

部屋に戻ってから、手紙はすぐに書き終えた。

前向きな娘らしい内容になっていて我ながらいい感じだと、メイメイは満足げな顔をして読み返す。


  


「ただいま、メイメイ。あら、それってこの前の手紙の返事?」


「あ、アンリおかえりっ!返事を考えるのにだいぶ時間がかかっちゃって、ようやく書き終わったところだよー。……ほら!前回こんな内容だったから」 


「いつもすぐ返しているようだから、珍しいなって思っていたのよ。見せてくれるのね………え、お見合い!」

 


それもこれも、相談相手が素晴らしかったからだと心をほくほくさせている間に、同じくお出かけ帰りのアンリが声を掛けてきた。

 

例の手紙と書き終えたばかりのそれを手渡して、そうなのと頷く。


 

「ただでさえ人見知りなのに、結婚なんて意識しながら男の人に会うのはこう、精神的な負荷が大きすぎるというか……。でも親がおすすめしてくれている理由も分かるから、きっぱり断るのも違うかなと思うし、どう答えたらいいか、実はちょっと悩んでたんだ。結局、まずは段階を踏みたいから、小規模な趣味の集まりなるものに参加するところから始めたいなーって書いてみたの!」

 

ソユンに話したようなことをざっと説明すると、頼もしい相方は隣に腰掛けて二通の手紙を見比べ、素敵ねと微笑んだ。


 



「そういえば、趣味の集まりってアンリも参加したことあったりするの?」


「ええ、いくつか。編み物の会は王都の女官もよく参加してるのよ」


「え、そうなんだ!わたし今まで全然知らなくて……」


「ふふ、ここに来たばかりの頃に誘ったことがあるんだけど、メイメイ毎日くたびれてて外出は無理だよーって言ってたわ」



そういえば、買い物以外のお出かけにも誘ってもらったことがあったような気がする。

楽しみながらも日々くたくたのメイメイは、社交へのお付き合いに加わる気力もなく、よく元気なことだと彼女らの後ろ姿を眺めていた、かもしれない。


つくづく誘いがいのない友人である。

今さらながら、ごめんねとありがとうを伝えておく。 

 

 

「お、王都でも何かあれば参加してみようかな……、アンリがいれば安心だし。編み物は才能がないから無しとして、ほかにどんな活動に参加してるの?初心者にも易しそうな集まりってあったりする……?」


「そうねぇ、絵画とか書道は好きかしら?分からない?……うーん、経験がなくて不安なら、お花見したりお化粧の仕方を試してみたりするような集まりもあるわ。それと―――…」

 

アンリが羅列していったのは予想以上の数の活動で、メイメイは大人しく田舎での読書会から始めようと決意を新たにした。

 

 


 

その後も話題は尽きず、メイメイがよく冷えたお茶をさっと注いで差し出し、ゆっくりお話しましょうの布陣を整えると、アンリも心得たように頷いて、手に持っていた籠から可愛らしい缶を取り出した。


小皿に乗せてお裾分けをしてくれたのは輸入物の乾燥果実で、今のところは王都でしか入手できないものらしい。

 


「美味しい……!アンリ、いつもこういうのに詳しいし、外れたことなくてすごいぃ……」


「親が新しい物好きだから、影響されたのかしら」



メイメイのくれるお茶やお菓子も好きよと、果実を一粒摘みつつ笑い掛けてくれる彼女は、王都にほど近い北部の一般貴族で、幼い頃からの婚約者がいる。

家族とも婚約者とも仲がよく、頻繁に互いの家を訪問し合う、家族ぐるみの仲だそう。


結婚したら彼の家に移り住み、共に領地経営や社交に励むことになっているアンリは、抜かりなく領主夫人の勉強も進めつつ、実際の社会経験を積むために、こうして出仕することを決めたのだとか。

本人の性格としても新しいことを体験するのが楽しいらしく、いつの間にやら知り合いを増やしてどこかへ出かけていることも多い。

 


メイメイのこれまでの生き様と比べると、もはや人生何回目だろうと思うほどの社交力と活動量で、話を聞く度にしみじみ感心してしまう。


もう一種類の果実も口にしてその美味しさに驚いていると、そもそも、とアンリ。


 

「人見知りって言うけどこうして仲良くしてくれるのも早かったし、職場の男性とも話せてるじゃない?」


「でも、職場の人と仕事のことを話すのと、知らない人と将来のことを意識しながら世間話をするのじゃあ、こっちの気の持ちようが全然違うんだよぉ」


「それはそうね……」


「アンリは婚約者さんとどうやって仲良くなったの?年頃になったらふと結婚のこと考えて気まずくなったりしちゃわない?」


「物心ついたときからよく一緒に過ごしてて、気づいたら仲良くなっていたから、敢えて意識したことはなかったわね。もうそれが自然で当たり前のことみたいに考えてるというか……。そういえば、小さい頃からの付き合いがない場合って、どうすれば異性と気楽に知り合えるのかしら……」



興味のままに質問攻めをしていると、それは考えたことがなかったわと、顎に手を添えて考え込んでしまった。

自分のことのように向き合ってくれる様子に嬉しくなりながら、一緒にああだのこうだの話し合う。




 

「なに、恋愛話?」

「楽しそうね、私たちも交ぜてよ」


と、部屋に戻ってきた他の同室の子たちも会話に混ざってきたので、みんなの恋愛観についても聞いてみた。

気づけば入り口付近にいた別室の子たちも参加していて、わいわいと盛り上がる。


 

彼女らがしてくれた話は、よく読む小説で少女たちのするような恋愛話とはちょっと違ったけれど、育った環境や意識の違いが知れて面白い。

 

というのも、


 


「今度王都に住む叔母が顔合わせの場を設けてくれるから、それに参加する予定なの。メイメイとは少し違って、複数人でのお茶会よ。わたし、王都で絶対誰かとのお付き合いを楽しんでやるって意気込んで来たから、いい機会だと思ってる」


「わたしも家族からそうやって声をかけられたことがあるけど、二回だけ参加してからは行ってないな。女官の仕事が向いている気がするの。すでに爵位や領地は姉や兄が継いで頑張ってくれているから、わたしはここで出世を狙ってるんだ!」


「会うのが気恥ずかしいなんて可愛い。私は早めに結婚して家に入ろうかと思ってたけど、地元で交際してきた人たちは、どうにもしっくりこなかったのよね。今はここに勤めている人と付き合っているけど、まだ明確な将来像を描けるほどでもないから、今後もいろんな人と会いつつ、どう生きていくか決めるつもりだわ」


「実はわたし、王都に来る前からの恋人と最近婚約しましたっ!……えへへ、季節が変わる頃には仕事もやめて、彼の家に行く予定なの」


「え!? おめでとう!!」




―――などおめでたい告白を挟みつつ、話していくにつれ、恋愛や将来に対する考えは本当に人それぞれなのだと分かったからである。

 

メイメイが読む小説の主軸は恋愛なので、物語に登場する少女たちは恋に振り回され悩みながらも楽しく過ごしていたけれど、現実の女の子はさらに逞しく冷静で、しかしその一方で愛らしく、色々なことを考えて暮らしているようだ。

 




「最近ぼんやりしてるのをよく見掛けてたけど、手紙のことで悩んでたんだね。悩みは解消した?手伝えることがあれば教えてね」  


「うん、ありがとう。でも頭の整理もついてお返事も書けたし、もうすっきりしたよ!」


「それはよかったね」


 

こういうのは早いほうがいいと、手紙を手に早速配達依頼をしに行く。

 

メイメイの宿舎は、管理人に渡せば毎日手紙の配達をまとめて引き受けてくれるのだ。

宿舎から出ずに手紙の授受ができるから、とても便利で助かっている。


 

(それにしても、ようやく返事が書けた。今回は少し日数が空いてしまったから、あんまり気にしていないといいけれど……)


少しだけそわそわしながら管理人室へ到着し、管理人のおばさまに手渡すと、久しぶりの手紙ねと話しかけられた。

特に手紙を頻繁に書くメイメイは、まだ来ないのかなとおばさまにまで心配されていたらしい。

 

照れ笑いをしてお礼を伝えると、先程通って来た廊下を辿った。


 

 

夕刻ソユンにも相談に乗ってもらったこともあり、将来のことを考えるのにも前向きになってきた。

いい兆候だぞと満足げなメイメイは、恩人ソユンのことで一つ気になることができたことを思い出す。

 

部屋に戻ると、寛いでいた仲間たちに聞いてみた。


 

「ソユン様がご婚約されてないかって?私もそう聞いてるよ。けっこう意外だよね」  

 

「独身主義なのかしらね?」



当の本人も言っていた通り、決まった恋人や婚約者といった女性はいないらしく、メイメイと同じようにみんなも不思議に感じてはいたようだ。



「……それにしても、ソユン様にあれだけの地位があってよかったよね。なかったら高位貴族のお姫様たちが権力に物を言わせて婚約をもぎ取ってたに違いないもの」


「確かに!あんなに優しい美人さんだもん、しがない一般の文官とかになってた方が大変だっただろうね」


「それじゃあ、ソユン様がお選びになるとしたらどんな方だと思う?」


「わたし!」 


「夢見るのも大概にしなさい」


 


いつものようにくだらない話になだれ込んで、ぐだぐだとお喋りを続けながら、ふと、アンリに目が留まった。

 

先程メイメイが質問を投げ掛けた時、アンリが不思議な表情を浮かべていたように見えて、小さな違和感を覚えたのだ。

 

こういう話の時、あらゆる情報に通じているアンリがその答えを教えてくれることが多いのだが、みんなで首を傾げ合っていた時、彼女は特に口も挟まなかった。 

知っていたら、誰それが婚約相手の有力候補だとかこういった事情で結婚していないだとか教えてくれそうなので、きっとアンリも知らなかったのだろう。

 

それ自体は何の問題もないのだが、それでもいつもだったら知らないことについて興味を持って、すぐに会話に加わりそうなのだ。

それなのに、十秒にも満たないであろうわずかな間とはいえ、関心を寄せるどころか躊躇うような素振りを見せたので、かなり珍しく感じたのである。


 


「メイメイが考える、ソユン様にふさわしい相手はずばり……?」


「えっ、わたし!? え、えーっと……、こう、限りなく高貴な感じの………、もう隣国のお姫様とかしか思いつかないよぉ」 


「あっ!言われてみれば、その説が一番濃厚かも! ソユン様みたいにお綺麗な方が姫様、とか言って華奢なお姫様抱きしめたりしたら、物語みたいで素敵じゃない?」


「ソユン様はこの国の宝なんだから、他国になんて行かせないよ!」


「私たちの想像上でソユン様が取り合いになっちゃった……」 


「あははっ」


 

その引っ掛かりも、メイメイに話が振られ、アンリも楽しげに笑っているのを見ると、自然と頭から離れていった。

けらけらとふざけ合う少女たちの笑い声で、今夜もこの部屋は満たされる。



そうして皆が寝支度を終え、メイメイも布団に横たわって目を閉じる。

ふと頭に浮かぶのは、今日最後に話していた恋愛談義のことである。


 

(こうして楽しく笑い合いながらも、みんな将来をちゃんと見据えてた。……ソユン様だって、誰かと添い遂げたりお試しで付き合ってみたりなんてことを、考えた夜があるんじゃないかな……)


 

彼がもし恋愛とか結婚だとかをするとしたら、果たしてどんな人がどんな風に愛されるのだろう。

 

とんでもない美女で、思いやりがあって、とびきり高貴で優秀な女性(ひと)にちがいない。

そんな素敵な彼女を、外で見せるものとは違う一層特別な表情で、愛おしげに眺めるのだろうか。



 

想像して一瞬心の奥がちくりとした気がしたが、気のせいだ、きっと。








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