3-2. 休日の邂逅と打ち明け話
本題のお悩み相談は次回に…
「先日ぶりだね、赤毛ちゃん」
そう言って優しい笑みを浮かべるのは、会いたかった人、ソユンだ。
(期待していたとはいえ、まさかここでまた会えるなんて……。それも不意打ち! それも、向こうからの声掛けっ……!)
内心大喜びのメイメイだが、出会いのあの日からひとつ、成長したことがある。
「ソユン様、遅ればせながら。今日もいい日でございます!」
それは、出会い頭の体たらくを早めに挽回するということだ。
今もぱっと立ち、襟元を正して略式の礼を取る。
ソユンが鷹揚に頷いて応じ、座るよう促すのに見惚れながら、メイメイはいそいそと長椅子に腰掛け直した。
(こういう、高貴な人が放つ特有の威厳みたいなやつを見るのが好き……。ソユン様に限るけど!)
生まれつき挨拶は受ける側で、許しは与える側の立場なんだと分かる、自然な気高さ。ふとした仕草一つ取っても品がよく、まるで夢見る少女メイメイが憧れていた、物語の中の王子様そのものだ。
そうした姿を見るたび、メイメイは自分が物語の中に入り込んだような心地になる。
「今日はお休みの日だったのかな?」
「はいっ! 昼過ぎに買い出しに出かけて、今はその帰りに一休みしているところでした! ソユン様は……」
「今日は昼で仕事を切り上げたんだ。夜に出かけるのだけれど、その前に少し散歩をしようと思ってね」
「そうだったんですね! 折良くお会いできて嬉しいです……」
休日に偶然会えたなんて状況に乙女心が疼き、気恥ずかしさから少し目を伏せてしまう。
すると、視線の先に自分の服装が映り込み、メイメイははっとした。
(ふ……、服はちょうどお気に入りのやつ……! でも、頬紅もはたいてないし髪も適当に結っちゃった。いつもより萎びてる、とか思われたらどうしよう……)
手を頬に当て内心おろおろしながら、さりげなく視線をつつっと持ち上げる。
目の前に見えるのは、いつもながら完璧な美貌と、優雅でありつつもいつもより着重ねの少ない寛いだ服装だ。
それに、藤色の宮廷服ではなく、今日は淡い柳色の薄絹を纏っている。
「なんてこと……!? いつもの優美さと高貴さの同居したお召し物もお似合いなのに、さらに淡いお色だと、儚くて柔らかな印象が強まるんだ……。も、もしかして、柳の精霊!?」
「褒めてくれてありがとう……? 赤毛ちゃんはいつも可愛いね」
「ぐっ……!」
考えたことがそのまま口に出ていたことに対する羞恥心と可愛いという言葉への面映ゆさに、思わず胸のあたりの生地をくしゃりと掴み、前かがみになってしまった。
これで本日二度目だが、座っていて本当によかった。
さすがに倒れるところだった。
そもそも、よく考えてみると、ソユンはいつも鏡でこの美貌を目にしているはずなのだ。道端の女官の服装や顔色が多少よれよれしていたところで、そんなのは些末なことだろう。
そう気づいて、メイメイは今日の自分のなりを気にしてくよくよするのをやめた。
「さっきは浮かない顔をしていたね。何か悩み事でもあるのかな?」
開き直って視線を目の前の人に戻すと、そんな彼は心配そうに表情を曇らせた。
「その……、実は、結婚のことなのです。ソユン様」
「あれ、結婚するの?」
「しないですっ……! ぜ、全然、まだまだっ!! ……でも、その……」
内緒話を打ち明けるように答えると、ソユンがきょとんと首を傾げた。
思わぬ誤解に、慌てて否定する。
――紛らわしい言い方をしたくせ、やけに取り乱してしまった。心の奥底で、メイメイも気づかない未知の感情が揺れ動いて。
こほんと一つ咳払い。
気を取り直して、親切で有能な高官様に頼ってみることにした。
「よ、……よろしければ、少しだけ話を聞いていただけると嬉しいな、なんて……」
「いいよ。隣、座っても?」
「も、もちろんです! すみません、恐れ多くも立たせたままで……、どうぞこちらへっ!」
いそいそと隣の座面を払って、ソユンを見上げる。
その時、先ほどより色を増した空も見えて、メイメイはあっと声を上げた。
「そっ、そういえばソユン様、お時間は大丈夫ですか? わたしは暇ですが、ソユン様はこの後ご予定がおありだとか仰っていたような……。お願いしておいて今更ですが……」
「ありがとう、大丈夫だよ。そうだね……、この空が茜色になるくらいまで少し話そうか。今日は歩いてきたのかな?」
あわあわと胸の前で手を握り合わせ、しどろもどろに問いかける。自分の迂闊さに、地味に落ち込んだ。
しかし、目を伏せたメイメイに柔らかな声が降り注ぎ、またすぐに視線を上げる。
面倒見のいいお兄さんのようにうんと優しい笑顔が見えて、メイメイはどぎまぎした。
「あっ……、はい、近場でしたので!」
「夕暮れだし、宿舎まではまだ距離があるだろう? 馬車を呼んでおこうか」
ソユンがそう言うと、彼の侍従がにこやかに主へ提案した。
「では、私があちらの出口まで呼んでまいりますね。明るいうちにすぐ戻りますので、しばしご歓談をお楽しみくださいませ」
「ありがとう。助かるよ」
そうして気遣いのできる高官様は彼女の隣に腰掛け、有能な彼の侍従はてきぱきと去っていったのであった。




