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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
三章 恋愛とか将来とか
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3-2. 美貌の役人の休日

本題のお悩み相談は次回に…







「先日ぶりだね、赤毛ちゃん」


 

そう言って優しい微笑みを浮かべるのは、会いたかった人、ソユンだ。



(いや………、期待していたとはいえ、まさかここでまた会える日が来るなんて……。それも不意打ち!!それも向こうからの声掛けっ……!!)

 

内心大喜びのメイメイだが、出会いのあの日からひとつ、成長したことがある。


  

「ソユン様、遅ればせながら。今日もいい日でございます!」


  

それは、出会い頭の体たらくを早めに挽回するということだ。


会うたびにときめいて挙動がおかしくなりがちなのは変わらずとも、きちんと礼法に則った挨拶をして仕切り直すくらいはできるようになったのだ。

今もぱっと立ち、襟元を正して略式の礼を取る。

 

ソユンが鷹揚に頷いて応じ、座るよう促すのに見惚れながら、メイメイはいそいそと長椅子に腰掛け直した。


  


(こういう、本当に高貴な人が放つ特有の威厳みたいなやつを見るのが好き……。普通の偉い人にやられても怖いだけだろうから、ソユン様に限るけど!)



生まれつき挨拶は受ける側で、許しは与える側の立場なんだと分かる、自然な気高さ。


ふとした仕草一つ取っても品がよく、まるで夢見る少女メイメイが憧れていた、物語の中の王子様そのものだ。 

王子様は綺麗で賢く、周りに傅かれるのが似合うというのが定石で、ソユンはぴったりその条件に当てはまる。

 

そうした姿を見るたび、メイメイはなんだか物語の登場人物の一人にでもなった心地になって、思わずわくわくと心を躍らせてしまう。

 


例えば今日のメイメイは、地方勤めのとあるしがない役人になったというごっこ遊びを、脳内で瞬時に繰り広げている。

視察に来た王子様をもてなすために精一杯仰々しく出迎えるのだが、不慣れな役人の野暮ったい接待にも王子様は動じず、先ほどのように雅やかに応えてくれるのだ。



(その王子様に憧れて頑張っているうちに出世して、中央の役人になるの。それで、いつか王子様の危機の時に颯爽と助けに来るという胸熱展開に……!うーん、少し飛躍しすぎかな……)

 

 


「今日はお休みの日だったのかな?」

 

「は、はいっ!昼過ぎに買い出しに出かけて、今はその帰りに一休みしているところでした!ソユン様は……」

 

「僕も今日はお休みだよ。夜に出かけるのだけれど、その前に少し散歩をしようと思ってね」

 

「そうだったんですね!折良くお会いできて嬉しいです……!」


  

ソユンを見掛けるたびに妄想を繰り広げていたら、会話への意識の切り替えも徐々に上手くなってきた。

 

ただソユンの眩さにはいつまで経っても慣れることなく、いつも通り浮かれていることへの気恥ずかしさから、少し目を伏せてしまう。

すると、視線の先に自分の服装が映り込み、メイメイははっとした。



(ふ、服はちょうどお気に入りのやつ……、よかった!でも、ちょっとした買い物だからって、頬紅もはたいてないし髪も適当に結っちゃってた……。いつもより顔色悪いし窶れてる、とか思われたらどうしよう………)



手を頬に当ておろおろしながら、さりげなく視線をつつっと持ち上げる。

 

目の前に見えるのは、いつもながら完璧な美貌と、優雅でありつつもいつもより着重ねの少ない寛いだ服装だ。

それに、最高位の要職であることを示す藤色の宮廷服ではなく、今日は淡い柳色の薄絹を纏っていた。



  

「なんてこと……!? い、いつもの優美さと高貴さの同居したお召し物もお似合いになるのに、さらに淡いお色だと、儚く柔らかな印象が強まるんだ……。もしかして、柳の精霊なの……!?……ふう、爽やかなお色とこの美貌の組み合わせが絶妙だとは新発見……。これは目の保養すぎる……」 


「褒めてくれてありがとう……?赤毛ちゃんはいつも可愛いね。……あ、僕たちの服、色合いが似ていてお揃いみたいだ」


「ぐっ………!!」



考えたことがそのまま口に出ていたことに対する羞恥心もさながら、可愛いという言葉や、極めつけのお揃いとかいう恐れ多くも胸をときめかせにときめかせる言葉の衝撃には、小物メイメイは耐えられない。

思わず胸のあたりの生地をくしゃりと掴み、前かがみになってしまった。


これで本日二度目だが、座っていて本当によかった。

さすがに倒れるところだった。




―――そもそも、よく考えてみると、ソユンはいつも鏡でこの美貌を目にしているはずなのだ。

道端の女官の服装や顔色が多少よれよれしていたところで、そんなのは些末なことだろう。

 

そう気づいて、メイメイは今日の自分のなりを気にしてくよくよするのをやめた。



 

  

 

「さっきは浮かない顔をしていたね。何か悩み事でもあるのかな?」


開き直って視線を目の前の人に戻すと、そんな彼は心配そうに表情を曇らせて顔を覗き込んできた。


優しさ、百点。 

洞察力、百点。

少し眉を下げた憂い顔、百点。



(……じゃなくて!えーっと、悩み事……)

 


目の前の人に心を囚われすぎて、かえって目の前の人との会話がままならなくなりかけるメイメイである。

内心頭を抱えそうになりながら、どうにか意識を会話に向ける。


  

「その……、実は、結婚のことなのです。ソユン様」 


「あれ、結婚するの?」


「し、しないですっ……!! 全然、まだまだっ!……でも、その………」



内緒話を打ち明けるように先ほどの問いに答えると、意図しない捉えられ方をされて、慌てて否定する。

 

誤解されてもおかしくない切り出し方をしたくせ、やけに取り乱してしまった。

今日のメイメイは、いつも以上に平常心が霧散する。



(……今日は色々と初めての経験が多くて、頭の処理が追いついてないのかも。休日にソユン様の方から声を掛けてもらえたとか、私服を見れたとか。それに今ほら、こうやって座った姿勢からその輝かしい美貌を見上げるなんて状況も初めてだし……。え、斜め下から見たソユン様ってなんてお綺麗なの………)



そうやって本日の非日常な体験を羅列していると、なるほど世慣れない少女メイメイが平常心を保つには難しい事柄だらけではないか。

今日目にする諸々がメイメイにとっては刺激が強すぎたのだと、この心のいつにない混沌加減も納得だ。


  



一番動揺したのは結婚すると誤解された時だが、メイメイは無意識に、それについて考えるのをやめていた。

心の奥底で静かに波打った未知の感情には、さりげなく蓋をして。





気を取り直して、頼れるお兄さんな顔をしている有能な高官様に、せっかくなので頼ってみることにする。

 


「よ、……よろしければ、少しだけ話を聞いていただけると嬉しいな、なんて………」


「いいよ。隣、座っても?」


「も、もちろんです!!すみません、恐れ多くも立たせたままで……。どうぞこちらへおかけくださいっ!……あ、ソユン様、お時間は大丈夫ですか? 私は何も予定がないので気軽に言ってしまいましたが、そういえばこの後ご予定もおありだとか……。その、申し訳ありません、お願いしておいて今更ですが………」



立たせたままで、都合も考慮せずに突っ走ってしまったと、大慌てで猛省のメイメイである。

今日は喜ぶ姿か慌てふためく姿しか見せていない気がする。



(……いや、それはいつもか)



「ありがとう、大丈夫だよ。そうだな……、この空が茜色になるくらいまで少し話そうか。今日は歩いてきたのかな?」


「あっ、はい!近場でしたので……!」


「夕暮れだし、宿舎まではまだ距離があるだろう?馬車を呼んでおこうか」


「では、私があちらの出口まで呼んでまいりますね。明るいうちにすぐ戻りますので、しばしご歓談をお楽しみくださいませ」


「ありがとう。助かるよ」


  

メイメイが一人で地味に落ち込んでいる間に、有能な高官様は一言断りを入れて彼女の隣に腰掛け、有能そうなお付きの人はてきぱきと去っていった。


(さりげない気遣いも、百点……!)

 

ちなみに今日は終日お休みのため、一緒にいた人も家の侍従らしい。

後ろ姿を見てみると、なるほどいつもの人たちと服装が違う。


  

ソユンの隣に座って横顔を見る経験も初めてのことで、もちろん大いに見惚れたが、その辺のメイメイの心情はもう割愛しておく。

 

なんならそれよりも、外の風に晒された椅子に座らせて申し訳ないという気持ちが強くて、せめて手巾を何枚も重ねた上に腰を下ろしてもらえばよかったとちょっぴり後悔したメイメイである。



 






将来のことをと真面目になったそばから大はしゃぎなメイメイ(✧ω✧;))


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