2-5. いつもと違う手紙が届きました
前回の会話の続きです!
ソユンが仕える王子の話題になった時、それも称賛した時の、ほんのり嬉しそうな顔。
それが示すものは―――
(ソユン様ってもしかして、王子殿下のことをすっごくお慕いしてるのかな?)
なんならソユンのことを褒めた時よりも、素で嬉しそうな顔だったように見えた。
それならば、メイメイがこれからすればいいのはただ一つ。
王子の話、それに尽きる。
「うん?王子殿下がどんな方か?」
「はい!こうして勤めてしばらく経ちますが、王族の方のことは全然存じ上げないことばかりで。実は前々から気になっていたんです! ……へへ、ソユン様がいつも王子殿下のお近くにいらっしゃると聞いて、それならきっとお詳しいソユン様に、せっかくなので少しお聞きできればと……!」
――ちょっと嘘をついた。
前々から気になっていたなんて事実は、ない。
ソユン自身、本来であれば雲の上の人なのだ。
さらに身分の高い王族なんて、何の接点もないし、全然知らないことばかりだし、遠い存在すぎて興味を持ったことすらない。
望みは、先ほどのソユンの表情をもっと見ることだ。
照れ笑いとも誇らしげともいえる、思わず胸がきゅんとなるようなあの顔は、メイメイが推測するに、王子の話題を出した時に現れた。
ならば、王子の話を盛り上げることでソユンの希少な表情をさらに堪能できるかもしれないと、メイメイは企んだわけである。
ついでに、ソユンと一番多くの時間を共にしていそうな人物を知ることで、ソユンの周辺知識を身に着けるという狙いもある。
メイメイは、ソユンのことならいつでもとても知りたいと思っている。
なんにせよ今気になり始めたというのは本当なので、大目に見てほしい。
「宮廷に勤める者として素晴らしい姿勢だね。感心するよ」
「うぐっ……!え、えへへ、それほどでもないですぅ……」
ソユンの邪気のないお褒めの言葉は、メイメイを少しばかり後ろめたくさせた。
そんな自業自得の良心の呵責に苛まれるメイメイであったが、耐えた甲斐あったかと聞かれると、答えは是である。
「どういうことを知りたい?」
「えっと、まずはその、お人柄などでしょうか。ひと言で表すなら、どんな方だと思っておられますか? こう、凛々しいとか強いとか……」
「うーん、ひと言ね……。聡明な方、かな」
(あ、いい笑顔……!)
さっそくいつも以上に自然体な笑みがほころび、メイメイはしめしめと喜んだ。
「もちろん、凛々しくお強い方でもあるよ。将軍職に就かれること自体、直系の王族として滅多にないことだからね。それに、近衛と治安隊をどちらも兼任して武人として指揮するというあの方の立場は、前例のないものだし。君もこの辺りは習ったのかな?」
「残念ながら、王族の方それぞれのされていることについてはそれほど詳しく習っていないんです……。詳細にというよりは、概要を幅広くといった感じでした! ……それにしても、王子殿下はとっても珍しいお立場ということでしょうか?聞いた感じ、なんだか特別感があるといいますか……」
普段のメイメイなら、そんな人に仕えるソユンは素晴らしいなどと言ってしまいがちだが、今日は意識して王子に焦点を当てた相槌をしてみる。
効果はあったようで、いい子だねと言わんばかりの優しい笑顔を向けられた。
それだけでも満足しつつあったメイメイだが、ソユンの言葉は続く。
「元々近衛は武系貴族、治安隊はそれ以外が統括する慣習で、歴代の将軍職は非武人の準王族の方が就いていたんだよ。王子殿下は武人として、将軍職を担いながら両隊をも直接束ねる統帥になられたんだ」
「な、なるほど!王子殿下がとってもお強い方だったから、名実ともにこの国の全武人を率いるお立場になられたと……。前例にないことなら、さぞかし王子殿下がすごい方だったということなんですよね……!何か決め手とかあったんでしょうか?」
「昔殿下の訓練を担当していた両隊長が、率先して国王陛下に奏上したというのがいちばん大きいかな。殿下は今よりももっとお若い頃から、剣の腕前だけでなく、洞察力も判断力も飛び抜けていらっしゃって、周りをよく率いる素質を持つお方だったんだ。だから早くに多くの実績を重ねられて、天性の才能だと言われていたな……。そうそう、それぞれの小隊長から隊長に至るまでが揃って殿下の下に付きたいと声を上げて、殿下はそれを承諾されたんだよ。彼らの期待や誠意に応え、ご自身にできることに最善を尽くし、国王陛下を始め、ご家族を支えたいと思っていらっしゃるんだ。周りの考えの及ばないところまで思慮深く目を向ける、ああいった姿勢を保ち続けるのは並大抵のことではないと思うよ……。うん、だからひと言で敢えて表すとしたら、聡明な方かな」
(―――是、というか、……期待をずいぶん上回ったというか。まさか、こんなに活き活きとお話してくれるソユン様を堪能できるとは思わなかったな………!?)
表情もそうだが、ソユンがこれほど言葉を発しているのを初めて見た。
メイメイは王子の人となりをまずもって知らないので、内容自体に関して言えば、女官になりたての頃におじいちゃん文官が熱く語っていた王族豆知識を聞いているような心地になったが(ソユン様ごめんなさい)、目をきらきら輝かせて話すソユンはとても新鮮で、習いたての剣を振り回すメイメイの幼い弟のように胸にぎゅっとくる光景だ。
味を占めたメイメイは、今後もっとソユンのツボにはまる話題を見つけて、たくさん話してもらおうと心に固く決めた。
王子のことに偏らず、うまいことソユンに刺さるような話の種を見つけてやるのだ。
(とはいえ、ソユン様を前にすると絶対に話したくなっちゃうし、なかなか難しい気もするけど……。でも、これからは意識して、聞き役にも回ってみせる!………三回に一回くらいは……)
もっと熱く語ってくれてもよかったが、話に夢中になっていたというよりは、質問に対して丁寧に答えてくれただけで、それに少し熱がこもってしまったという程度なのだろう。
一通り王子の素晴らしい人柄について述べると、ソユンはメイメイに話を振ってきた。
巧みな相槌に乗せられて、いつも通り楽しく話している間に、あっという間に正午になる。
去っていくソユンの後ろ姿を見送り、メイメイは王都で買い物を済ませに市場へ向かった。
(ソユン様って、めちゃくちゃ王子主義というか、王子様大好きっ子だったんだなぁ……)
家族への土産物を購入し終えてほくほく顔のメイメイは、宿舎に戻りがてら今日のことを思い返す。
前から仕事に熱心だとは思っていたけれど、あんな風に慕い尊敬する人の補佐を任されているのだと考えると、自然と熱も入るというものだろう。
今日は久々のソユンを一人であんなにも堪能できたので、本当にいい日だった。
そのうえ、今まで遥かに遠い存在だった王子の人間性やソユンの新しい一面も知れて、有意義すぎる休日を過ごしてしまったとしたり顔。
宮廷で勤めてはや一年と少し。
メイメイが王子を見かけたのは、三回ほどしかない。
それも、かなり遠くから眺めた程度だ。
一回目は別のお供を連れて足早に室内に入るところで、あとの二回はソユンと二人でいる場面であったと記憶している。
遠いうえにたくさんの人に囲まれている姿だから、それほどはっきり目視できた訳ではないが、メイメイはけっこう目がいいのだ。
未だに会うたびに見とれてしまうほどの美貌を誇るソユンはもちろんのこと、彼がお仕えする王子ジフンも凛々しい美丈夫で、そんな二人が大勢にかしづかれて颯爽と歩く姿はたいへん華々しいものだった。
王子は将軍という立場にふさわしく堂々としていて、厚みのある鍛えられたすばらしい身体つきだそうだ。
背丈はほとんど変わらないソユンはすらりとした体格であるから、並ぶとなおさら際立つ。
王都や下町では、ソユンと同じく、姿絵が飛ぶように売れるらしい。
初めて王子を見かけた時は、何かあったのか険しい顔をしており、体格の良さや身分の高さもあってたいそう厳めしい印象を受けた。
しかし、二度目三度目、ソユンを隣に連れていた時はそれが真逆になった。
ある時は回廊を抜けて馬車に乗り込むまでの間、はたまた政務棟からいつかメイメイが迷い込んだ私的な区域へ戻る瞬間、王子は笑って楽しげに、傍らのソユンと言葉を交わしていたのだ。
一度目とは状況も異なるのかもしれないが、かなり親しい仲なんだろうと見受けられ、主と親しそうなソユンに対し、畏敬の念を強めたのを思い出す。
ソユンが王子を慕うように、王子もきっとソユンに気を許しているのだろう。
微笑ましいことである。
「メイメイ、お手紙が届いてるみたいよ」
「本当だ!今度は何が書いてあるのかな。今日はちょうどソユン様に会えたから、書くことがたくさんあるんだぁ!」
「あら、よかったじゃない!メイメイ、おめでとう」
「ありがとう!アンリに話したいこともたくさんだから、後で聞いてね!!」
湯浴みを終えて自室へ戻ると、仕事上がりのアンリエッタが声を掛けてきた。
彼女は明日お休みを取っているので、もう少ししてから浴場に向かうらしい。
いつもよりのんびりだ。
送り主はやはり親。
今回は、前回に引き続き母親の筆跡である。
父も手紙を書いてはくれるが、基本的には母が送ってくれることが多い。
文机の前に座って、いそいそと封を切る。
―――メイメイが同じ職場にいる異性の方とも親しくお話できるようになって、楽しく過ごしているようで、嬉しく思います。…………今度の休みはいつでしょうか。隣の領地にとても頼りがいのある優しい青年がいるのですが、一度会ってはみませんか。あなたが幼い頃に一度会ったことがある子ですが、覚えていますか?……まだ早いと考えるかもしれませんが、今後誰かと支え合って生きていくというのも一つの選択であり、穏やかで誠実な人なら、メイメイときっと気が合うと母は思うのです―――
「うわ…………」
世話焼きの母親の熱意を感じて、思わず声が漏れる。
にこにこと嬉しそうに、あれこれ考えているのが容易に思い浮かんだ。
目の前にいたら、期待のこもった目でこちらを覗き込んできたことだろう。
要はこういうことだ。
―――帰ったらお見合いさせてもいい?
次回から少しずつ、恋愛や好きだのなんだのそういう話題が出てくるようになるかと思います(*´ω`*)




