22.令和22年2月8日 午前2時38分
樹海の入り口に近づくと、闇がさらに深く、静けさが圧し掛かるように感じる。
車のエンジン音が、まるで世界の音を消し去るようだ。
車の中から目を凝らし、あたりを観察する。
霊峰富士の冷たい風が窓を揺らし、私はその空気を感じ取る。
そして、ふと目の前に現れたのは、ターゲットにふさわしい人物だった。
長身で、少し肩を落とし、頼りない歩き方をしている。
手にはコンビニ袋がぶら下がり、思考の中でどこか漂う空気が、「死を求めている者」そのものだと確信させる。
私はエンジンを切らず、そのまま車の窓を少しだけ下ろす。
闇の中で、彼の姿がこちらに向かって近づいてくるのをじっと見ている。
歩幅が小さくなり、やがて目が合う瞬間が訪れる。
私は冷静に、そして低い声で言った。
「死ぬのか?」
その言葉は、今までのどんな言葉よりも簡単で、しかし心の奥を突き刺すものだった。
彼は少し驚いたように立ち止まるが、こちらからの問いかけに答える様子はない。
私は気にせず、続ける。
「だとしたら私は止めはしない。ただ、死ぬ前に少し手伝ってくれないか?」
言葉はさらりと、無理なく流れた。
その問いかけに、彼は動かない。
返答があるまで、私は静かに待ち続けた。
不安や警戒を感じ取ったのだろうか、彼はじっと目を合わせたまま何も言わない。
「用事が終わったら、ここまで送ってやる。約束しよう。」
その言葉に、男は小さくうなずいた。
それは、私にとっては既に次の段階への移行を意味する。
車のドアを開け、彼を迎え入れる準備が整った。
私はエンジンをかけ、静かに走り出す。
目的地まで、まだ少しだけ道のりはある。
だが、今やその道のりは彼の運命を辿らせるためにしか過ぎない。




