19.完璧な場所
倉庫が近づくにつれて、胸が高鳴るのがわかる。
ここに足を踏み入れる度に、まだ冷たさが残っている空気と、薄く沈んだ血の匂いが絡み合って私を迎え入れる。
その感触が、まだ終わっていないことを告げるように、胸の奥をざわつかせる。
耳が自分の心音を拾い上げるほどに、静けさが増してくる。
目が慣れてくると、いたるところが気になってくる。
壁のひび割れ、床の小さな木片、天井の錆。
目の前に広がるのは、私の「実験場」であり、同時に「舞台」である。
ここには、相手の恐怖心を落ち着かせるものが何もないのだ。
何も不安を和らげるようなものは置いていない。
恐怖というのは、一度落ち着き、飲み込んだ後のほうが、より効果的なスパイスとなる。
たとえば白い壁紙、柔らかな椅子、穏やかな音楽。
そうしたものがあれば、相手は「まだ大丈夫だ」と錯覚するだろう。
だが、ここにはそれがない。
相手に与えるべき安心感を、私はあえて排除している。
光の加減、影の向き、冷気の中に溶け込む音、全てが計算されている。
倉庫の内部は静かだ。
鉄の柱、コンクリートの床、汚れた窓から差し込む僅かな光。
そこに、わずかな足音が響き、私の声が反響する。
この反響も、無駄に大きくしないほうが良い。次回はもっと音を吸収する素材を持ち込まなければならない。
ただでさえ、相手が声を発した瞬間、反響はその数倍に増幅されるからだ。
私は足元を確認し、前回床に残った血の痕を追う。
生温かい血液が乾いてカピカピになったあと、その痕跡が薄く残っていた。
今度は、血液が残らないようにする。
血を吸わない床材に変え、できるだけ後処理を簡単にする。
それに加え、空気清浄機も持ち込むべきだ。匂いが全てを台無しにする。
あの生々しい匂いが何日も倉庫内に残ったままだったことを、私は許せなかった。
照明も再考しなければ。
手元の明かりでは暗すぎるし、天井から垂れ下がる光も不安定だ。
次はより強力で、目に優しい光を導入する。
その光で表情を読み取らなければ、楽しみは半分になってしまう。
私は手のひらで鉄の壁をなぞりながら、次に何を持ち込むべきかを頭の中で整理する。
音を吸収するために布、明かりを安定させるためのランプ、消臭を徹底するための機材。
それだけでは足りない、なにかしら心理的に揺さぶりをかけるものが欲しい。
何か、目の前で見せつけるだけで、相手をぐっと引き寄せるものが。
「準備が整ったとき」こそが、私が最も興奮する瞬間だ。
一つ一つ、確実に。
前回は偶然、今回は必然。
次は、私の望むものを手に入れる番だ。




