表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/38

19.完璧な場所

倉庫が近づくにつれて、胸が高鳴るのがわかる。

ここに足を踏み入れる度に、まだ冷たさが残っている空気と、薄く沈んだ血の匂いが絡み合って私を迎え入れる。

その感触が、まだ終わっていないことを告げるように、胸の奥をざわつかせる。


耳が自分の心音を拾い上げるほどに、静けさが増してくる。

目が慣れてくると、いたるところが気になってくる。

壁のひび割れ、床の小さな木片、天井の錆。

目の前に広がるのは、私の「実験場」であり、同時に「舞台」である。

ここには、相手の恐怖心を落ち着かせるものが何もないのだ。

何も不安を和らげるようなものは置いていない。


恐怖というのは、一度落ち着き、飲み込んだ後のほうが、より効果的なスパイスとなる。

たとえば白い壁紙、柔らかな椅子、穏やかな音楽。

そうしたものがあれば、相手は「まだ大丈夫だ」と錯覚するだろう。

だが、ここにはそれがない。

相手に与えるべき安心感を、私はあえて排除している。


光の加減、影の向き、冷気の中に溶け込む音、全てが計算されている。

倉庫の内部は静かだ。

鉄の柱、コンクリートの床、汚れた窓から差し込む僅かな光。

そこに、わずかな足音が響き、私の声が反響する。

この反響も、無駄に大きくしないほうが良い。次回はもっと音を吸収する素材を持ち込まなければならない。

ただでさえ、相手が声を発した瞬間、反響はその数倍に増幅されるからだ。


私は足元を確認し、前回床に残った血の痕を追う。

生温かい血液が乾いてカピカピになったあと、その痕跡が薄く残っていた。

今度は、血液が残らないようにする。

血を吸わない床材に変え、できるだけ後処理を簡単にする。

それに加え、空気清浄機も持ち込むべきだ。匂いが全てを台無しにする。

あの生々しい匂いが何日も倉庫内に残ったままだったことを、私は許せなかった。


照明も再考しなければ。

手元の明かりでは暗すぎるし、天井から垂れ下がる光も不安定だ。

次はより強力で、目に優しい光を導入する。

その光で表情を読み取らなければ、楽しみは半分になってしまう。


私は手のひらで鉄の壁をなぞりながら、次に何を持ち込むべきかを頭の中で整理する。

音を吸収するために布、明かりを安定させるためのランプ、消臭を徹底するための機材。

それだけでは足りない、なにかしら心理的に揺さぶりをかけるものが欲しい。

何か、目の前で見せつけるだけで、相手をぐっと引き寄せるものが。


「準備が整ったとき」こそが、私が最も興奮する瞬間だ。

一つ一つ、確実に。

前回は偶然、今回は必然。

次は、私の望むものを手に入れる番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ