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18.偶然と必然

私は何度も紙を広げ、鉛筆の芯を折りながら、方法を考え続けていた。

あの夜に使った倉庫は、偶然の産物ではない。

数週間前から目をつけ、錆びついた南京錠を取り替え、床に防水シートを敷いておいた。

ただ、準備は万全ではなかった。

排煙の流れ、音の響き、血の飛び方。

やって初めて分かる不備がいくつもあった。


だからこそ、次はもっと改善できる。

もっと綺麗に。

もっと丁寧に。


私は紙に「改良点」と大きく書き出した。


・炉の温度が安定するまでに時間がかかる → 予熱が必要

・袋の厚みが不足 → 二重では足りない、三重にする

・血痕の処理に手間がかかった → 床材を交換し、吸収しない材質に変える


そして対象。

倉庫は私が準備したが、彼女は偶然だった。

だが偶然は、計画を試すにはちょうどいい。

次は「誰でもいい」では済まない。

声の高さ、肉の付き方、骨の丈夫さ。

想像しながら、条件を一つひとつ箇条書きにしていく。


初回は準備と偶然が交差した結果に過ぎなかった。

だが二度目からは違う。

全てを選び、全てを整え、全てを私の望む通りに——必然として組み上げる。


私は知っていた。

改良こそが反省の証であり、反省こそが次への道だと。

この作業を続ける限り、私は決して止まらない。


私は偶然に委ねることをやめた。

次に手をかける対象は、必然でなければならない。


紙に記した三つの条件を反芻する。

三十から四十代の男。

妻と子がいること。

社会的な立場は問わない。


候補を見つけるのは、難しくなかった。

平日の夕方、公園に足を運ぶと、子どもを連れた父親たちが必ず姿を現す。

グラウンドの端でボールを追う声。

ブランコを押す手。

笑い声。

そのすべてが、私にとっては「観察対象」に変わった。


最初は遠巻きに眺めるだけでよかった。

だが、日を重ねるごとに、自然と目が特定の人物を追うようになる。


黒いスーツに疲れた表情を残したまま、子に向けて笑顔を作る男。

腕時計の縁が擦れている。

鞄には仕事の資料が詰まっているのだろう。

その姿は、私が求めていた条件に限りなく近かった。


私は記録をつけ始めた。

帰宅する時間。

妻が迎えに来る頻度。

子どもの年齢。

車の有無。

そして、自宅の場所。


夜、地図を広げ、赤い印をつける。

そこから職場への動線を線で結ぶ。

駅から自宅までの間にある薄暗い路地を何本もなぞる。

その過程が、何よりも愉しい作業だった。


選定はすでに始まっている。

対象を削ぎ落とすのではなく、条件を重ねてゆくことで一人に収束していく。


偶然ではない。

必然だ。


私は息を吸い込み、紙に新たな言葉を記した。

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