表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/38

16.悦楽

気が付けば就寝前の点呼の時間だった。

きっと彼女が一番記憶に残っているのは、一番初めだったからなのかもしれない。

そうだろう、初めては特別だ。

痛みも、恐怖も、驚きも——全部が鮮やかで、どれも色あせない。

私にとってもそうだ。最初のあの温度、あの重さ、あの目の動き。

指先にまとわりついた温もり、断ち切った瞬間の抵抗、呼吸が潰れる音。

二度と同じ形では手に入らない。だからこそ、頭の奥で何度も反芻する。


形が崩れていく瞬間。

声が途切れる瞬間。

温度が沈む瞬間。

全部が、まだ、私の中で動いている。

時々、その記憶が胸の奥からせり上がってきて、喉の裏に金属の味を残す。

それを飲み込みながら、私はただ、書き続ける。


そういえば、私を担当した刑事に聞かれたな。

「反省しているのか——」

反省している? しているさ。

だが、それはきっと彼が望んだ形じゃない。

彼らのいう反省は、きっと後悔と同じ意味だ。

でも私は後悔なんてしていない。

ただ、もっと上手くやれた、と考えているだけだ。

もっと手際よく。

もっと正確に。

もっと、美しく。


今の私なら、

もっと綺麗に。

もっと丁寧に。

もっと深く。

もっと長く愉しめるように。


それが反省だというのなら、私は確かに反省している。

だが、この反省は終わらない。

むしろ積み重なっていく。

層になり、形を変え、次の時を待ち続ける事になる。


きっと君達は知ることがないまま人生を終えるだろう。

市販されている肉では味わえない暖かみ——

禁忌を犯している興奮——

圧倒的優位に立つ悦楽——


踏み込まないほうがいい、

知らないほうがいいなんて

野暮なことをいうつもりは毛頭ない。


知りたいことをあきらめ、

敷かれたレールを走り、

何も生まれない人生を歩みたいなら

そこで傍観者になる事をお勧めする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ