16.悦楽
気が付けば就寝前の点呼の時間だった。
きっと彼女が一番記憶に残っているのは、一番初めだったからなのかもしれない。
そうだろう、初めては特別だ。
痛みも、恐怖も、驚きも——全部が鮮やかで、どれも色あせない。
私にとってもそうだ。最初のあの温度、あの重さ、あの目の動き。
指先にまとわりついた温もり、断ち切った瞬間の抵抗、呼吸が潰れる音。
二度と同じ形では手に入らない。だからこそ、頭の奥で何度も反芻する。
形が崩れていく瞬間。
声が途切れる瞬間。
温度が沈む瞬間。
全部が、まだ、私の中で動いている。
時々、その記憶が胸の奥からせり上がってきて、喉の裏に金属の味を残す。
それを飲み込みながら、私はただ、書き続ける。
そういえば、私を担当した刑事に聞かれたな。
「反省しているのか——」
反省している? しているさ。
だが、それはきっと彼が望んだ形じゃない。
彼らのいう反省は、きっと後悔と同じ意味だ。
でも私は後悔なんてしていない。
ただ、もっと上手くやれた、と考えているだけだ。
もっと手際よく。
もっと正確に。
もっと、美しく。
今の私なら、
もっと綺麗に。
もっと丁寧に。
もっと深く。
もっと長く愉しめるように。
それが反省だというのなら、私は確かに反省している。
だが、この反省は終わらない。
むしろ積み重なっていく。
層になり、形を変え、次の時を待ち続ける事になる。
きっと君達は知ることがないまま人生を終えるだろう。
市販されている肉では味わえない暖かみ——
禁忌を犯している興奮——
圧倒的優位に立つ悦楽——
踏み込まないほうがいい、
知らないほうがいいなんて
野暮なことをいうつもりは毛頭ない。
知りたいことをあきらめ、
敷かれたレールを走り、
何も生まれない人生を歩みたいなら
そこで傍観者になる事をお勧めする。




