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24.6月のマーメイド【side-光希】前編

 今回は主人公・加賀君と同期の女性騎手・光希ちゃんのお話です。

彼女の恋の行方はどうなってしまうのか!?(注:いやそういうんじゃないからw)

前編・後編でお届けします。

 彼が()()()()でトレセンから姿を消してから、1か月が経った。


 最初は競馬とは全く無関係なワイドショーのTVカメラまで押し寄せて、どうなってしまうのか?と思われた状況だったけれど2週間後、1()()()()()が伝えられた事で事態は急展開を迎え、風向きはそれまでとは全く違う方向へと流れ出した。


 でも、だからといって彼は戻ってこないし、今までのように顔を合わせる事もない。


 6月に入って、彼が幾つか縁のある厩舎で調教を開始したとは聞いていたし、全く不通だった携帯電話も繋がるようにはなったみたいだけど『心配かけてすまなかった。もう大丈夫だ』とメッセージに返信があったきりだ。

 

 

「別に用なんて無くても電話しちゃえば良いじゃないの?それかアパート行くとかさぁ」

「だって、まだ大変な時期で誰とも話したくないのかもしれないし」

「まったく~、光希は幾つになっても不器用だなぁ。心配させっぱなしの加賀君も加賀君だけど」


 電話で愚痴を聞いてもらっている相手は競馬学校で同期だった、今では2児の母のレイカだ。彼女の父親の所有馬に私が乗らせてもらったのを機に、今ではたまに電話で話すような仲になっている。


「あ! じゃあさ、こういうのどう?再来週のマーメイドステークスで勝ったらさあ、勝利ジョッキーインタビューで告白しちゃうの。

 『この勝利を今苦しんでいる私の()()()()に捧げます。彼がこの勝利を見て立ち直るきっかけになって欲しくて頑張りました』ってさ。馬しか興味ない加賀君でも、インタビューぐらい見るでしょ?」

「ちょっと! そんなの出来るワケないじゃない!? 人の悩みを楽しんでない?」


 そう、大体そんな事が出来るくらい度胸があるなら『別に用は無いけど大丈夫かなと思って』と連絡を取るのもアパートまで押し掛けるのも簡単だ。そういうキャラじゃ無いから悩んでいるというのに。


 でも、たしかにレイカのいう事には一理あった。同期として、同じ騎手として頑張っている姿を見せる事が今の彼には何よりの応援に違いない。



 とはいってもレイカからの縁で乗せてもらえた馬、レイカプリンシパルはまだ私が手綱を取ってから勝てていないのも現実で、特に前走ヴィクトリアマイルは有力馬の集うG1レースだった事もあり結果7着とかなり苦戦していた。


 だけど、レース結果とは別のところで着実に良くなっている、という手ごたえはあった。最初はちぐはぐだった馬と私の呼吸も少しずつ合うようになってきているし、『馬主の威光とはいえ何でこんな女に?』と言いたそうな雰囲気だった厩舎スタッフさん達も少しずつ協力的になってくれている。


 そしてレース前の最終追い切りを終えた私に、なんと初めてのインタビュー依頼があった。


「初めまして、()()()()()()()()新堂 紗耶香(しんどう さやか)と言います。まだWebで細々と記事を書いているだけの身なので認知度は足りないけれど、よろしくお願いします」

「いえ、そんな。私なんかがこうしてちゃんと取材で取り上げてもらえるの、初めてですから」


 新堂さんとは年代が近い事もあってか、話はお互いの私生活の事にまで及んでインタビューは大いに盛り上がり、予定の時間を大幅に上回った。すっかり打ち解けた雰囲気の新堂さんがそういえば、という感じで質問を投げかけてくる。


「そうそう、芦名あしな騎手は加賀 流星(かが りゅうせい)騎手とは同期でしたよね。ようやく騎乗停止期間が解けて活動を再開されたと聞いているのですが、何か連絡などは取り合っていますか?」

「いえ……それが……」



 新堂さんがとても話しやすかったのもあって、私は目の前に居るのが『記者さん』である事をついつい忘れて、『同年代の女性』として今の胸の内をつらつらと話してしまっていた。心配しているのだけど何の反応もない事、未だに連絡を取りそびれている事、今は同期の私が頑張っているところを見せる事でしか、今の自分に彼を応援する手段はないと思っている事も。


 真剣に話を聞いて相槌を打っていた彼女はひとしきり話を聞き終えると、こちらをまっすぐに見据えてこう言った。



「芦名さん、リトル・マーメイドの物語って覚えているかしら?」

「マーメイドって言うと童話の人魚姫の話でしたっけ?」


 おぼろげな記憶だけれど、母が読み聞かせてくれた童話の本の話が思い出される。確か、人間の姿で王子の隣に居られる代わりに声を失った人魚姫が、最後は王子の愛を手に入れる事は叶わず、かといって王子の幸せを奪って海に戻る事も出来ずに泡になって消えてしまう悲しい物語だ。


「それじゃなくて、名作アニメ―ション映画になったお話の方よ。そっちの人魚姫はね、王子を助けてあらゆる困難に立ち向かい、最後は悪い魔女を倒して王子の愛を掴み取るの! 芦名さんの気持ちを聞いていたら私、猛烈に今、まさにその物語に立ちあっているような気分になった! 」


 そう話した新堂さんは目を輝かせ私の手を両手でガシっと掴むと、期待に満ちた目で告げた。


「私は芦名さんや加賀君、西では横浜優馬君が頑張っているアナタたちの世代に、勝手にだけど凄く期待しているの。

 

 この世界で色んな人を取材してると本当に色んな人に会うわ。馬の事を少しも大切にしていないと思えてしまう馬主や、そんな人の言いなりになっている調教師。


 それを見ているからか、上を狙って自分が頑張る事も、馬を頑張らせることも考えていない様な騎手だっている。少し目立った若手が出てきたら、自分が追い付かれない為に陰口と揚げ足を取る事しか考えない様な停滞したおっさん騎手なんかもね。でも、そんな現状に叶うなら、あなた達が風穴を開けて欲しいってそう思ってる」



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