断章 頬を汗が伝った。
みなちゃんと二人で親友を誓い合ったあと。
電車の時間が迫っていたみなちゃんを慌てて見送ったあーしは、なんとなく家に帰るのが嫌で、ふらふらと彷徨っていた。
あちこちをうろうろした挙句、あーしは、さっきのベンチに戻ってきていた。
みなちゃんが座っていたところに腰かけてみる。
温もりはもうなかった。時間が経ったから当然だ。
空には雲一つない空は赤みを帯びている。
そのまま視線を上に。天頂の方と至ると、名前も知らない星が輝いている。
そのままぼうっと、空を眺めていた。
しばらくたって、自分の頬を汗が伝っていることに気づいた。
今日は暑かったから仕方のないことだ。
それに、色々あったし。
ちょっとくらい疲れていても、多めに見ていいだろう。
だから、これは汗だ。
どこから流れていたとしても、これは汗だ。
絶対に汗だと、そう思い込むことにした。
流れるまま、流すだけ流した。
少したって落ち着いてから、瞼を擦って、最後の一滴をぬぐい取った。
もしかしたら、化粧が落ちてしまっているかもしれない。
……でも、あーしにはそんな仮面、もうそんなに必要ないのかと思った。
幼馴染には、その仮面のことを気づいてもらえないし。
みなちゃんとは、同じ仮面を被ってるから意味なんてほとんどないし。
色々なことが起きたんだ。と、そのことを理解してやっと。
「終わったんだ」
と、気づく。
周囲の変化の果てに、初めて自分が取り残されず追いつくことができた……んだと思う。
でも、全然ピンとこない。客観的にはすごい変化していたのかもしれないけど、あーしの気持ちはまだ渦中にいるような感じがする。
ただ、確かに、あーしは今、みなちゃんのことを諦めきれている。それは事実だった。
今までよりちょっとだけ、一人で生きていける気がする。
結局のところ、あーしがみなちゃんに向けていた感情は、やっぱりただの憧れで、依存だったのだ。
一度諦めをつけてしまえば、思っていたほど寂しいものでもなかった。
でも、
もう一回だけ、ほんのちょっとだけ泣いて。
それから、公園の蛇口で顔を洗って、あははと笑う。
――これでちゃんと、失恋できた。