その7
破壊しつくされた王都。
王城もまた辛うじて且つて城であった面影だけを残し瓦礫と化していた。
その玉座の間に残っている煤汚れた椅子に座りセフィラは崩れ落ちた屋根から見える空を見つめた。
「ピーター…もうお前のことも断面しか思い出せなくなっている」
しかもそれは穏やかで優しい記憶ではない。
そんなものはもう記憶の片隅にも残っていない。
思い出すのは無残に殺されていく姿だけだ。
セフィラは破滅の紋章を見つめ笑みを浮かべた。
「そろそろモンスターが復活し始める頃だな」
もう一度モンスターを束ねるボス達には消えてもらわなければな
そう言って立ち上がり
「さあ、終末の宴を再開させてやろう」
と喉元でくぐもった笑いを零した。
同じ頃、エルダスから他国へ通じる街道を封鎖し近隣の国の民は戦場から離れるようにコーリコスやその近隣諸国へと移動し始めていた。
しかし、大半の民は自らの国を守るべく防波堤となる軍の後方支援を申し出て残っていたのである。
西と南と北と。
セフィラが率いるモンスターの軍勢が何処に進軍するか。
フィーアは他の聖女にノースクロスを頼み前線へと向かっていたのである。
そのコーリコスの王城で出産を控えたリリア・ルーカスの元に一人の男が姿を見せた。
リリアの部屋を警護していたドリュアスは戸口に姿を見せた男を目に
「ああ!」
お前…無事だったのか!!
と声を上げた。
男はドリュアスの肩を軽く叩きながら
「藁は全部だめになったけどな」
と言い
「リリア・ルーカス殿の様子は?」
と聞いた。
ドリュアスは視線を伏せ
「やはりショックが大きかったらしく…食事も」
と言い
「臨月だというのに」
本当に
と涙を滲ませた。
その時、扉が開きコーリコスの侍女が
「すみません、道を開けてください」
リリア様が産気づかれました
と医師を呼びに走り去った。
男は扉の向こうで己の命と引き換えに子供を誕生させようとしているリリアを一瞥し窓の向こうの空へと視線を向けた。
「…今まさに破滅の紋章と世界が抗戦を始めようとしている時に産声を上げるとは」
運命の子だな
南の街道で破滅の紋章を持つセフィラの引き連れたモンスターの軍勢と各国の有志の軍勢が対峙していたのである。
空は青く不思議なほど澄み切っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。