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その2

東の地は緑が豊かな大地であった。

しかし、今。

その地は炎と血の赤に染まっていた。


エルダスの国の西を守っていたアンドル・ルーカスは遠くに見える黒い軍勢に顔を顰めた。

「王都が既に陥落してエルダス王が亡くなった事は伝え聞いているが」

ここを破られたらエルダスだけの話ではすまなくなる


…国内への侵攻を止めるための砦が国外への侵攻を止めなければならなくなるとは…

「皮肉と言えば皮肉だな」


側に控えていたリリアはアンドルの腕に手を伸ばすと

「アンドル…しかし相手は破滅の紋章を持っている者です」

まして私たちの領土は狭く兵も少ない

「勝つことはできません」

民たちも逃げ始めています

と告げた。


「私と…逃げてください」

公爵の名前など捨てても構いません

「卑怯と言われたならば私が無理やり願ったと公言しましょう」


…だから生きてください…


アンドルは静かに微笑むと福与かなリリアの身体を見つめそっとお腹にキスを落とした。

「リリア、それからまだ見ぬ我が子よ」

お前達は私の未来の希望だ


…愛している、誰よりも…


アンドルは側に控えていた兵を見ると

「お前は…」

と告げた。


兵士は敬礼をすると

「わ、私はド、ドリュアスと申します」

と告げた。


黒い髪をした細身の兵士であった。


アンドルはリリアの背を優しく押すと

「我が子と我が妻を頼みたい」

と告げた。


ドリュアスは敬礼をしたまま

「し、かし」

公爵さまは

と聞いた。


アンドルは剣を擦ると

「我が領土にはまだ逃げきれていない多くの民がいる」

全員を救う事は出来ないだろう

「なのに私や家族だけが逃げることは出来ない」

せめて私くらいは命を賭して

「奴らの行く手を阻み一人でも多くの民を逃がさねば」

と微笑んだ。


リリアは足を踏み出し抱きつくと

「では私も…貴方と共に命を賭します」

と泣き崩れた。


アンドルはキスをすると

「リリア、お前の命だけではない」

私とお前の愛の結晶の命が掛かっている

「逃げてくれ」

と言うとドリュアスを見て

「妻を連れて行ってくれ」

頼む

と告げた。


ドリュアスは頭を下げると

「かしこまりました」

と言うとリリアを丁寧に立たせた。


アンドルは扉を開き戸の前に立っていた兵に

「お前もドリュアスと共にリリアとお腹の子を安全な場所へ」

頼む

と告げた。


警備についていたトーマスは敬礼すると

「かしこまりました」

安全な場所へお連れしましたら必ず戻ります

「それまでどうか…どうか…ご無事で」

と告げた。


しかし…ドリュアスとリリアともうトーマスが馬車で城を出て暫く走った背後で紅い炎が空を焼くように立ち昇った。


その炎の中でアンドルはセフィラと対峙していた。

「お前が…破滅の紋章を持つ者か」

だがこれ以上、先には行かせぬ

「我が命に掛けても」


周りではモンスターが兵士たちを駆逐し戦況は既に見えていた。


セフィラは酷薄に笑うと

「愚かな男だ」

と蔑み

「…負けることが見えているのに戦うか」

矜持か?

それともただの無謀な勇気とやらか?

と嘲るように言うと

「俺の知っている愚かだった奴と同じだな」

と心で呟くと、突っ込んできたアンドルの剣を剣で受け止め

「その愚かさに敬意を表してやろう」

とアンドルの剣の力を吸った剣で薙ぎって折り、その剣先をアンドルへと振り下ろした。


アンドルは倒れ落ちながら瞼に浮かぶ妻の姿に手を伸ばした。

「リ、リア…」

そして…まだ見ぬ我が子よ


生きろ

愛しているから…未来を…


セフィラはその命の灯火を失おうとしているアンドルを見下ろし

「残念だが…そのお前の妻と子の命も貰う」

エルダスの王家の血が少しでも流れる者を生かしておくわけにはいかない

と冷徹に言うと、腕を前へと振り下ろし

「追え!」

あの馬車に乗る者だれ一人生かしておくな!

と告げた。


モンスターは城を出ると走る馬車を追いかけ始めたのである。


セフィラは強く一歩を踏み出しかけて肩越しにアンドルを見つめた。

「…安心しろ」

お前がお前の愛する者達を待つ時間は短い

「世界の生きとし生けるものも…その内に追いつくだろう」


そう呟いて、セフィラは炎に巻かれた城を出ると黒いユニコーンに乗り走らせた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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