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変わり者の将軍は男装姫を娶る  作者: 雪野みゆ
第七章
25/27

7-1

 朱徳妃は玉座になぜ彩姫がいるのか、理解できなかった。


「主上。何故彩姫殿が玉座にいるのですか? すでに公主ではないというのに……」


「黙れ、朱徳妃。余が呼んだのだ。異論は許さぬ」


 御簾の向こうにはすでに重臣たちが揃っているので、芳磊は声を抑えているが、それでも重圧感がある。


「良いではありませんの、母上。姉上が元公主であっても、父上が許されたのですから」


「……玲寧」


 玉座には玲寧公主も呼ばれていた。


 通常、公主が公の場に姿を現すことはない。降嫁をする時ですらベールを被るので、顔は見えないのだ。


 だが、今日は彩姫も玲寧も顔を隠していない。


 玉座には皇帝の椅子と皇后の椅子がある。


 皇帝の椅子には当然芳磊が座り、その横に彩姫が立つ。


 そして皇后の椅子には朱徳妃が座っている。本来、皇后以外は座れないのだが、後宮の最高位にいるのをいいことに、その座に腰かけていることがしばしば見られた。


 朱徳妃の横には玲寧が立っている。


 玲寧は今日も鮮やかな薄紅色の襦裙を纏っている。結い上げた髪には金歩揺と薔薇そうびが飾られていた。李翔が見れば「孔雀姫」と言うことだろう。


(あれは玲寧の武装なのですけれどね)


 心の中で彩姫は呟く。


 やがて御簾が上がったので、彩姫は背筋を伸ばす。


 重臣たちが一斉に叩頭する。その中には李翔の姿もあった。


「皇帝陛下。万歳。万歳。万々歳」


「皆の者。頭を上げよ」


 皇帝の合図で重臣たちが一斉に頭を上げる。


「呉皇貴妃! なぜここに!?」


 声を上げたのは朱石燕だった。


「石燕殿。控えられよ。あの方は彩姫公主であらせられる」


 窘めたのは丞相である劉信だ。


「……申し訳ございませぬ」


 石燕が見間違えたのも無理はない。


 彩姫は正装すると呉氏にそっくりなのだ。


「しかし、彩姫公主は蔡李翔殿に降嫁されたのではないか? 臣下に降嫁された公主が何故玉座に?」


 なおも言い募る石燕を制したのは芳磊だった。


「余が呼び寄せたのだ。異論は許さぬ。石燕」


 皇帝の威圧に石燕は言葉に詰まり、跪礼をする。


「本日は朝議の前に朝廷の掃除をせねばならぬ、劉信!」


「はっ!」


 皇帝から「掃除」と言われ、本当に掃除をするのかと多くの重臣たちが首を傾げている。


 李翔だけは下を向いて、ひっそりと笑っていた。肩が震えているが、末席にいる大将軍を気に留める者はいない。


 尤も彩姫だけはその様を玉座から眺めていたのだが……。


 劉信が恭しく盆に乗った一枚の書状を玉座へ差し出す。


 立ち上がった芳磊は書状を手にして読み始める。


 曰く。

 白蓮皇国の機密情報を紫桜国に渡す褒賞として、紫桜国の丞相にせよ。

 さすれば紫桜国の国王を廃し、王位に就ける手助けをしよう。

 まずは約束として我が国の公主玲寧を嫁す。


 と言った内容を芳磊はすらすらと読み上げていった。


 そして、書状を重臣たちの前に掲げる。


「これは朱石燕の文字だと思われるが、皆はどう見るか?」


「確かに石燕殿の文字です」


 最初に声を上げたのは彩姫の祖父である呉浩潤だ。


「でっち上げだ! 主上、今一度ご考察を!」


 石燕は芳磊に拱手をする。


 玉座では玲寧が口をへの字に曲げていた。


「わたくし、紫桜国へ売り渡されるところだったのね。母上はご存じだったの?」


「売り渡すなど……其方の幸せを考えてのことでしょう」


「敵国に嫁ぐことが?」


 冷ややかに返されて朱徳妃は黙する。


「玲寧。事実だとしても、きっと父上がお許しにならなかったでしょう」


 おそらく、石燕が強硬手段に出ようとしても、芳磊は全力で止めただろう。


「……そうね。姉上」


 玉座の下では石燕が必死に弁明を続ける。


「まだ、白を切るのか。石燕。其方の取引相手とやらは紫桜国の王弟か?」


 ビクリと石燕の肩が震える。


「図星か。残念だったな。紫桜国の国王は弟の企みに気づいて断罪したそうだぞ」


 くくくと芳磊は含み笑いをする。


 人の神経を逆なでするのが上手いのだ。


「今朝、早馬でこれが紫桜国から届いたぞ。其方宛だ」


 劉信から受け取った包みを芳磊は石燕に投げつける。


 中から飛び出したのは、王弟に宛てた石燕の書状だった。


 それを見た石燕はブルブルと震えだす。


「あの……ブタめ。書状は処分しろと言ったのに……」


「向こうのブタ……王弟は其方ほど用心深くないようだな。それとも余程信用されていなかったのではないか?」


「最早、これまで!」


 石燕は素早く芳磊を拘束すると、懐に隠し持っていた短刀を芳磊の首筋に当てる。


「皇帝を失いたくなくば、道を開けよ!」


 重臣たちが道を開ける中、一人だけ石燕の前に立ち塞がっている者がいた。

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