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変わり者の将軍は男装姫を娶る  作者: 雪野みゆ
第六章
24/27

6-5

 敵は全員、山賊のような格好をしていた。


 一見、山賊を装っているが、戦場を駆け回っていた彩姫にはそれが偽装だと分かる。


 気配を絶ち、彩姫と芳磊は物陰から敵の様子を窺う。


「本当に山賊ではないのだね。どうしてだ?」


「強いていえば勘です」


「李翔みたいなことを言うのだね。だが、まあいい。彩姫を信じよう」


 彼らはこれから先ほどまで彩姫たちがいた場所に向かうと言っている。


「なるべく数を減らします。父上はここを動かれませんように」


 そう言うと、瞬く間に彩姫は姿を消す。


「離れるなと言ったり、離れたり、どちらなのだ?」


 やれやれと芳磊は肩を竦めた。


 彩姫は縦横無尽に動きながら、矢を放つ。


「何だ! どこから放ってきている!?」


 四方八方から矢が放たれるので、敵は狙いを定めることができない。


「囲まれているぞ! 円陣を組め!」


 これこそ彩姫の戦法だ。


 矢を放っているのは複数人だと思わせて、敵を一か所に集めるのだ。


 実際、矢を放っているのは彩姫一人ではないのだが、半数以上の矢は彩姫が放っている。しかも百発百中だ。


「よくやった。黄彩」


 単身正面から乗り込んできたのは李翔だった。


「うわあ! 李翔だ!」


「怯むな! 矢を放て!」


 敵は急いで矢を番えるが――。


「遅い!」


 李翔の矛が前方にいた者を寸断する。


 さらに返された矛の柄でまた吹っ飛ばされた。


 たったの二太刀で円陣を組んでいた者たちは壊滅状態だ。


「ば、化け物!?」


 こうなると逃走するしかない。


 だが、後方には紫の軍旗が立つ。


 皇帝直属の軍の証である。


「禁軍か?」


 前方には化け物ような李翔。後方には禁軍が控えている。


 襲撃者たちには打つ手はない。


 だが、襲撃者は悪あがきをする。


 こっそりと矢を番え、李翔に向けて放つ。


「李翔様!」


 彩姫は急いで矢を番えるが間に合わない。


 だが、襲撃者が放った矢は李翔に届く前に砕け散った。


 矢が矢を砕いたのだ。


 李翔の後ろには芳磊が弓を構えていた。


「父上!」


 芳磊の弓の腕はどうやら戦場でも通用するものらしい。


「詰めが甘いよ、李翔」


「うるさい! あれくらい矛で叩き落とせたのに余計なことするな」


 襲撃者たちは禁軍によって一網打尽にされた。


 大露の港はもう目の前だ。


「おっさん、いつの間に禁軍を呼んだんだよ?」


「出立する前に禁軍を大露に派遣しておいたのだよ」


 随分と用意周到なことだ。


「禁軍はどうやって位置を把握したんだ?」


「白耀が飛んでいるのが見えたら、そこに来いと命じておいた。白耀の合図までは分からないけれど、そこに彩姫がいるのは確かだからね」


 そこまで読んでいた芳磊に李翔は戦慄する。


「おっさん、あんた本当に妖術が使える妖怪なんじゃないのか?」


「化け物に言われたくないのだよ」


「誰が化け物だ!」


 芳磊は舌を出す。


「大体、正面突破とかお前はバカなのか?」


「絞め殺す!」


 ぎゃあぎゃあとケンカをしている李翔と芳磊は放っておいて、緋和国行きの船に乗る愁たちに彩姫は別れを告げる。


「愁様、青藍、白蘭。元気で」


「彩ちゃん、ここまでありがとう」


 愁は涙を流している。故郷へ帰りたがっていたが、彩姫たちとの別れがつらいのだ。


「姉上。格好良かったです。私も姉上のように強くなります」


「青藍。貴方は男の子なのだから、愁様と白蘭をしっかり守るのですよ」


「はい。姉上」


 泣くまいと思っていたが、もう二度と会えないかもしれない弟妹をしっかりと抱きしめる。


「あ……あね……姉上」


 今の声は青藍ではない。


「白蘭?」


 一度、青藍と白蘭を離し、顔を見つめる。


 白蘭は瞳いっぱいに涙を溜めていた。


「姉上。姉上! 姉上!」


 白蘭は彩姫に抱き着く。


「白蘭。声が出るようになったのですね」


 彩姫はもう一度白蘭をしっかり抱きしめる。


「姉上。わたくし、大きくなったら、もう一度姉上に会いに来ます」


「うん。待っている。待っているわ、白蘭」


「そして、姉上の後宮に入ります」


 しんと静まり返る。


「え……と……それは無理だと思う」


「白蘭。声が出るようになったのだな。良かったのだよ」


 白蘭を離すと芳磊の方へ走っていく。


「父上!」


「よしよし。そうだ。愁。これを……」


 芳磊は懐から薄紫の披帛を取り出し、愁に渡す。


「これは?」


「麗の物だよ。それしか持ち出せなかった。すまない」


 愁は披帛を抱きしめると、ほろほろと涙を流す。


「十分だわ。ありがとう、磊ちゃん」


 出航する船を見えなくなるまで見送り、彩姫は涙を拭う。


「さあ、皇都へ帰ろうか? 朝廷の掃除をしなければいけない」


「はい。父上」

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