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新米勇者の冒険譚  作者: Arno
2/2

魔道士マーリンと秘密基地

短いです。前回よりきっと短いです。

半分以下かと思われます。

「何かお困りかな?って言ったのさ」


凛と響く声…誰のものかは言うまでもなかった。

シルク生地のような良質な黒いローブ、

その隙間から少し見える金髪。

誰なのかはすぐ分かるけれど、本当に驚いた。

まさか別れてすぐに城下町なんかで会うとは

思いもしていなかったし。

…ってそうじゃなくて、

僕はそう、困ってるんだった。

彼女─女の人かは分からないけれど─の

その言葉…というか

助け舟に乗っかって、僕は大きく頷き

彼女に案内を頼んだ。

彼女に一歩近づき、

地図を広げて彼女に現在地を指し示す。


「えっと…ここなんですけど、

閉店ってなってるんですよ」


そして、木枠で囲まれたガラス戸に掛かっている

『CLOSED』の看板に再度目を遣り、

それと共に指をさしてそう訴える。

ここが閉店している理由…

細かく言えば、定休日でもない日に

営業していない理由を

彼女が知っているといいなぁ…なんて、

密かに考えつつ、不安を抱きながらも僕は

彼女にそう問うた。

すると彼女は、フードから唯一見えている

その口許に笑顔を浮かべて、

僕よりお店に近い方に立ち

人差し指をくいくいっとやり僕を先導する。

彼女についていって、

建物と建物の間の狭い隙間を

一列に行軍して通り抜けると、

言うまでもなくそこはお店の裏側。

裏口があるわけではない…

ここに来てどうするのだろうか?


「えっと…?」


頭の中がハテナでいっぱいである。

思いっきり首を傾げて彼女を見つめていると、

本人は笑顔のまま、そっとローブの袖から

細い指の揃った手を出して、その煉瓦の壁…

お店の裏側の壁に手を触れる。

僕も後ろから覗き見ると、

何だか仕掛けがあるようだった。

彼女の触れた煉瓦は、他のものより少し

不自然に黒ずんでいて、苔むしているのだ。

彼女はその煉瓦を押し込むように触れる。

すると煉瓦は少し奥に引っ込み、

その途端、そのお店の裏側の石壁が

ゆっくりと右側に引っ込むように動きだす。

石壁式自動ドア…?

なんてジョークは置いておこう。

魔法か、はたまた単なる

からくりかは良く分からなかったが

このお店の店主さんがどんな人なのか

余計想像がつかなくなった。

何故って、こんなしがない喫茶店の裏口に

大層な仕掛けを用意して待っているのだから

相当なやり手だろうというのに、

この城下町の小さな喫茶店をやっているだけ。

何というか、

物好きで平和主義者なのかもしれない。

僕はゆっくりと開かれる石の壁を見つめながら、

同じような感性の人に会う、

そんなワクワクした気持ちを僕は抱いていた。

やがて石壁が動き終わると、

数メートル程の短い通路が見えた。

これも壁や囲いは煉瓦を積み上げてできている。

中は薄暗いが、松明ナシでも

相手の顔の位置くらいは

手に取るようにわかる明るさだ。

そしてそんな通路の奥に、

これまた重そうな木製の扉がある。

僕らはそれに入っていこうとするが、

魔道士さんはその通路の出入口に

立ち止まって動かない。

足音が1人分足りないことに気がついて、

僕は足を止めて振り返る。

ついてこないのと目で問いかけると


「私の出番じゃないでしょ?」


と軽くいなされた。

数歩後ろで逆行を浴びながら

ひらりとで手を振る影絵のような姿に、

反論の一言も出ない。

そんな僕に満足げな顔を浮かべて、

彼女はひらりと身を翻す。


「あぁ、そうだ。私はマーリン。

いつかまた、生きて会えるといいね。」


なんとも不穏な台詞だが、

マーリン…と、神話の魔女の名を持った

彼女が言うと全く嫌な空気がしない。

寧ろ、悪戯っぽく、そして冗談っぽい。

けれどその言葉は僕の心に強く響いた。

いつまでも頭の片隅に残りそうな、声だ。

そんな彼女が去り際に見せた瞳は笑っていた。

少しくすんだ群青色で、

きらきらとして綺麗だった。

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