序章
一見ありきたりかもしれません。
暖かい目で読んでくれると嬉しいです。
ねぇ。
君は、自分の欲に呑まれない自信がある?
君は。
君は_
────────────────────
蒼空。
天を穿つかのような重低音の鐘の音が
鋭く大きく鳴り響く、一国の王宮。
城壁の周りには、
誰かがベランダに出てくるのではないか
と思っているのか、今か今かと
もみ合ってそれを待ち構えている国民達。
と、それを押し退けようとする護衛の兵士。
警告、羨望、信仰、 愚弄。
どんな言の葉も、自由に、そして行き場もなく。
互いが互いにぶつかり、打ち消しあって、
喧騒となって飛び交っている_。
────────────────────
一転、王宮の中では、
外とはまるで似つかない静寂と、
しぃんという音だけが空間を満たしていた。
栄えある玉座に坐するは、
一級品のマントに身を包んだ国王。
その前に跪くのは、この世界の
『 勇者 』一行。
1人目は青い髪の剣士、
2人目は黒と緑色の服の魔法使い、
3人目はダンデライオンの瞳の大男。
キラキラ輝く金色の刺繍が施された
レッドカーペットは、彼らの足元から
一段上の玉座の足元まで紡がれている。
天を穿つ鐘の音は、13回目を鳴り終えた。
ふいに、面を上げよと、
決まり文句であろう国王の低い声が響けば、
彼らは口を固く結んだ、真剣な顔持ちで
その顔を静かに上げる。
────────────────────
「 はあぁぁあ… 」
王宮の廊下にて。
ド緊張していたその糸がぷつんっと切れた感触、
礼儀も作法もすっぽり忘れて、
僕…ことセイヴは盛大に溜息をついて、
すとーんと肩を落として猫背になる。
国王陛下の居らっしゃる部屋よりかは
まだ周りの目が厳しい訳ではない。
色々と情報過多で頭がぷっつんしそうだ。
そのままとろとろと、仕方なく僕は歩く。
何故か、先程までの喧騒は消え失せて
誰1人として城壁の近くには居ない。
僕は歩きながら、国王陛下のお話を反芻する。
まず僕らの目的は『魔王』という曲者を
僕の剣で叩き斬ること、が最終目的らしいのだ。
この世界はいわゆる、
『魔王』に侵略されていて荒廃しきっている。
唯一の「 オアシス 」であるこの国から、
歴代の『勇者』、というか
『聖剣』を引き抜いた者を排出している…
そして7代目の勇者が僕、ということらしい。
…というか!!
そんなこと以前に。まさか僕が勇者だ、なんて。
山村生まれの僕にはそんな力もなくて、
勇者なんていうのはある意味で
縁も関係もないと思ってて、
母から聞いた御伽噺に登場するだけの遠い存在…
つまり。子供なら誰しもが夢見る、
憧れのヒーロー、みたいな存在だった。
ずっと小さい頃に、勇者になる、と、
叶うはずのない夢を母に告げて、
それっきりだったのに。まさかの、まさかだ。
今この僕の腰にある…聖剣もそうだ。
触ることすら叶わないと思っていたのに。
そんな混乱した頭のまま、
項垂れた僕はちらりと左側に目をやると、
隣を歩いている魔法使い_幼馴染のロットは、
そんな僕を見てにこにこ笑っていた。
…大男のへルックも同じような感じ。
…ん?待てよ。魔法使い…魔道士…
そうだ、あの人は誰だったのだろう。
国王陛下の隣にいて、
黒いローブを身にまとってすらりとした立ち姿。
ずっとにこにことしながら僕らを見ていた。
すごく静かで、なんだか不思議な人…だった。
多分女の人だ。フードを深く被っていたから、
断言できる訳では無いけれど、
少し見えていた金髪の横髪が、
すごく綺麗できらきらしていた_
…あぁ、駄目だ駄目だ。
斜め方向に思考回路がひん曲がってしまった。
放心状態からふと戻ってみて、前を見れば
もうそこは城外と城内の境目、
堀にかけられた吊り橋の上だった。
「 何だったんだろう… 」
僕はまた半分放心して、ぽつりと呟いてしまう。
さっきの魔道士さんのことなのだけれど、
左右に直立不動で立っている
門番のふたりに聞かれてしまった。
驚いた様子の兵隊さんたちに
思いっきり謝ってから
僕は慌てて、国王陛下から聞いた場所…
情報屋だったかな。…へと向かい出す。
────────────────────
「 ここ…だよね? 」
僕は城下町の一角に建っている一件の喫茶店、
「 タロット 」 を見上げていた。
ちょっとお洒落で、落ち着いた雰囲気の…
そう、ここ。ここのはず…なのに。
「 閉店…? 」
「 CLOSED 」 の
小さな板がドアにぶら下がっている。
今日はやっているはず、と教えて貰ったのに?
僕は何度も何度も、地図の中にあるお店の名前と
そのお店の看板を見比べていた。
仲間のふたりは呆れた様子で僕を見ている。
暫くして僕は諦め、明日にしようと思いつき
その場から踵を返そうとする。
ふと、灰色の石で整備された城下町の道を
一望してみれば、沢山の人が行き交っている。
冒険者の人や、商売人の人、貴族の人。
僕がその景色を興味津々に見渡していると、
ふと僕の前を横切る人影があった。
黒いローブを着こなして、すらりとした体つき。
フードを深く被って、目元はよく見えないけれど
きっと女の人だろうという、
静かだけれど不思議な雰囲気。
そして、早足で歩く彼女がなびかせる髪は
金髪ですごくキラキラしていて…
「 何かお困りかな? 」
「 … えっ!? 」
短いですがご容赦ください。
誤字などありましたらご指摘願います。