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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
83/160

16-02

 人は誰しも心のどこかにクソガキが居座っている 02


 その本が残した言葉に、三人が息ピッタリに顔を上げて、ウルバニに疑問の視線を向けた。


「……すみません。私もよくわからないんですが……」ウルバニは本を見て、何かを考えていた。聖女召喚と共に連れこられた"付き物"の魔法量を計る時《封じられた五感》の反応も変だった。


 あの時、"付き物"は気絶した状態で倒れているから、そいつの手を動かしてページを開いたのだ。そこで初めて"開いたのに何も出てこない"状況を見て、ウルバニは本に聞いてた。


『どういうことですか?魔力がないとでも言いたいのですか?』


 そしたら、本はゲラゲラっと笑って『"魔力がない"というレッテルとは、お前ら人間には好都合ではないか!ゲラゲラゲラ~』


『魔力がないなら、召喚陣を通れないはずです。封じられた五感!ちゃんと説明してください!』


『っち!この人間が起きたら、また出直してこい!……ゲラゲラ、起きれるかどうかは分からないんだがな!』


 "付き物"が起きたらもう一度魔力量を測ってもらうと思ったウルバニだが、もう脱獄された知らせを受けたうえ、国王さまももう"代わり"を見つかったので"付き物"の捜索を中断したのだ。


 そして、その"代わり"が今、自分の前に座ってる。


 地下牢に放り込む前に、ウルバニは"付き物"の状態をざっくり検査した。確かに魔力の流れがないとは言え、もっと他に、異質なモノが流れている。そのような流れが海唯の身にもあった。この前、クレイン王子と共にB級魔道具を借りたいと言いに来た時に、海唯の魔痕から感じた。


「海唯さん、あなたが魔法科の手伝いに来てくださるたび、あなたの魔力について研究しました」


「え~そう?別にいいよ」


 ここの人にとって、魔力とはDNAのようにプライバシーに関わる問題なので、研究するにはあからじめ本人の承諾が必要らしい。だから、ウルバニは何だか申し訳なさそうな態度で言ってたが、海唯にとって自分が持っている"魔力"というモノにもっと詳しく分かれるチャンスだから特に気にしていない。それに、彼女が自分の調査報告を覗いて、魔法科が"魔因子の異常化が続いている"という意味の分からない結論に至ったってことも分かった。


「ご理解いただきありがとうございます。そこで、言い難い話ですが、呑喰天帝(マンジャレ)について、何かご存知でしょうか?」


 ウルバニの話にアキレスもクレインも疑問な顔をしてるから、海唯ならもっと分かる訳がない。


「あっ!今までのどの文献でもその姿を見当たらないから、私が名づけました名前です。アレはとても"人"とは思えない気配をしていて、突然現れて、痛みや苦しみ、怪我や傷跡などすべてを食い付くすモノなので、私は呑喰天帝(マンジャレ)と呼んでいます!その他にもう一つ気になるところですが、確かに目の当たりに現れたはずなのに、どうにもその姿を思い出せないですよ。まるで、記憶ごと食われましたように。アレは確かに存在するということだけ覚えています。とは言っていますが、他にアレを見た人はいないため、本当はただの私の幻覚かも疑ったことがありましてね、でも実際……」


「ウルバニ、言ってることがまったく分からん」


 どんどん早口でテンションを上げてきたウルバニの話が、ますますズレていて、何を話そうとしてるのかも分からなくなてきたから、アキレスはため息をして、どこまで続くか分からない語りを止めたのだ。


「コッホん、申し訳ありません。つまりですね。海唯さん、あなたの血を少しだけいただけませんか?《封じられた五感》が言いました"毒"ということに目星があるかもしれません」


 ---…………ああっ!そういう手も有ったか!


「いいよ~魔法科に協力するって約束だしね~」


 この国の国王さまは最初から聖女を帰らせるつもりはない。そもそも、帰れるかなんて国王自身も分からないし、聖女の召喚陣が反転できるかどうかも曖昧だし、白玉の記憶から見た魔法陣もただ"成功に見せかけた"だけのまがい物だ。


 加えて、"この時代"の魔法科は異世界宛の転送陣の研究をしていない。それもそうか、魔法を使って異世界から来た人なんて事実が見つかれたら、核のような恐怖均衡と同じで、一歩間違えたら戦争だ。


 それに、例え穢を浄化したとしても、聖女が死ぬ確率も高いということを国王さましか知らないだと、海唯はなんとなく勘付いた。


 だから、"彼女の心臓"を守るために、代案があるならいくらでも歓迎だ!




 海唯の後をついて、部屋の外でうろついてるエルバを見かけても、ただ通りかかってるほかの職員たちは繁忙の仕事をこなしていく。


「そこのあんた」だからエルバは適当に一人を捕まえてきた。


「えっ…エルバさま。何かご用でもありますか?」声をかけられた人は何だかびっくりしたようだ。


「ええ、忙しいところ申し訳ないですが」


「いいえ!とんでもないです。どうなさいましたか?」


「先、魔法科に入ったあの双黒の者。ウルバニさまとはどういったご関係ですか?」


「双黒……海唯さんですね。彼は最近から時々魔法科の手伝いに来てもらっているだけです」


「ええ、そうですか……私も何かてつ」


「あっ、すみません!まだ用事があるので先に失礼します」


 周りの忙しさはまるで彼女だけに関係のないことのように、何があっても必ず彼女の手伝いを必要としないうえ、ずっと、不審な姿でうろちょろしてる彼女に問いをかける人もいない。


 ドアの向こうから騒いてる声を聞いて、彼女は礼儀なく頬をドアに張り付いて、耳を立てて聞いている。


「え~やだよ~、何で私が行かなきゃなんねーんだよ」


「そりゃ、俺が行きたいから」


「んじゃ勝手に行けやー」


 海唯がドアを開いたら、彼女は「ぎゃっ」ってびっくりして、開きの勢いと共に海唯の懐に転けた。


「えっと…誰だお前?」


 エルバは急いで離れて、謝ろうとした時、海唯のその超~失礼な問いに怒った「なっ!?あんた、私と先ほど会いましたわ!名前が分からないならまだしも、誰って何よ!誰って!失礼な人ですわ!」


「あ~その気持ち、分かる。俺も腹立った」クレインも頷いてそう言った。


 部屋の奥にいるアキレスもウルバニも同じこと訊かれたことあるから、思わず心の中でクレインを賛同してた。


「あ、クレイン王子、ごきげんよう。先ほどは何か揉めているようでは?」


「……こんにちわ」明らかに相手が誰なのかを分からない顔をしてるが、向こうが挨拶してくれたから礼儀正しく返事したクレインであった「こいつがフロンティエラ区に行かないって言うから」っと、海唯を指して文句言ってた。


「いや、だから自分で行けって話だよ」


「それでしたら、私は手伝えますわ!」


 それが何かの合図のように部屋の奥にいるウルバニはトンっと立ってきて、仕事に忙している魔法科の職員たちもビタっと動きを止まった。


 この場になぜそうなるのかを知らないのは、海唯とクレインとアキレスだけだろう。


「おお~じゃ任せるよ」何も知らない無邪気な微笑みで、面倒事を人に押し付けようとした海唯だった。


「はいですわ!」


「おい、待って!……」ウルバニが海唯を止めろうとしたが、話した言葉は溢れた水のように戻れない。あわあわしてるウルバニを変と思って、海唯は「なんだ?」って顔してるだが……もう間に合わないのだ。


 エルバは鈴のようにはっきりした声で唱え、両手で同時に文字を書きながら魔法陣が徐々に現れてきた。


「空の狭間に眠る扉よ。風の流れに隠された扉よ。我が命に従い、目指す場所へと繋がれ!」


 魔法科の人々も誰しも慌てて、物を片付いてて、魔獣や魔石など大事なモノをきっちり閉まっていながら、逃げるように撤退してる。部屋の奥にいるウルバニも慌てて、アキレスを連れて、なるべくエルバから離れようとしたが……


 部屋の真ん中の位置に細かい彫刻を施した銀色のドアが現れて、それが開いたらブラックホールのように周りにいる人々をその中に吸い込んでしまった。


「わおぉー!!!なんなんだ!ー」


 もう体の半分ブラックホールの中に居た海唯はありえない顔で逃げたクレインの足を掴んだ。


「はー!?離せや!貴様が招いた結果だ!俺様を巻き込むなー!」


 クレインは一番に逃げようとしたが、自分から行きたいと言い出したし、こうなるには知らないとは言え、海唯を一人残したのはちょっと義理がないと思ったし、良くないと思った。なんて、一ミリも思ってなくて、容赦なく海唯の手を払おうと蹴ってるのだ。


「ふっさけんなー!言い出しっぺはお前だろうがー!」


「達者に生きな!俺は貴様の犠牲を忘れない!……あっ」


 飛んできたアキレスとウルバニは見事に、必死に窓側を掴んできたクレインにぶつかり、皆仲良くブラックホール、もどい、エルバの異質魔法によって作られた転送陣に吸い込まれたのだ。




 周りは真っ黒だ。そして、ヌルヌルして、湿気が酷くて、足場も何だか不穏だ。


「ぷはぁー…けほっ、けほっ……どこだここは?」


 目を瞑って、先に瞳孔に暗闇を慣らした海唯は周りを見てる。


 足場も周りの壁のようなモノも、柔らかい肉のようだ。でも、動いてるようで、ぬるぬるしてて、登ることができない。

 風の流れは感じない。でも、低く響いてる音があるから、酸欠は心配ないようだ。

 地面のあっちこっちに死骸のようなモノが散らかっているが、ただのゴミにでも見える。侵食か破損が酷すぎて、いったい何だったのかを分からない。


 情報が足りなさ過ぎて、危険はどこから来るのかも分からないなら、さっさと離れるのが賢明だが……


「……よっしゃ!有った!」


 泥水をかっさらてるような感じだが、海唯はようやく落とされた銃を拾い上げた。そして、一連の銃の清掃を始めたのだ。


 他に落とした物はなし。ストレッチをしてから、海唯は思い切りその柔らかい壁を刺して、切り裂いた。連動につれ海のように脈打ってるように、先より低くて鮮明な音が密閉空間に響きまわり、「ゴロンゴロン」っと不気味な音と共に、すべてを巻き起こす洪水が襲う。


「ははっ、ゴェッー!……臭った水だ…」


 水が退けて、どれくらい飛ばされたか分からないほど周りの景色は変わってない。でも、今度は人の声が聞こえた。



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