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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
72/159

13-04

 よくやった。次はそうしないように 04


「まだ、言いますか」スピリトの声が裏換えに聞こえて、小河の水が跳ね飛ばして、小屋にヒビが入った。


「穢の器ですよ!例え、奇跡が起きて、生き抜いて意識が戻ったとしても、普通に生活できると思いますか!感じないほうが楽だということもあります!人間は妖精と違って、短い人生には"時間で解決"はできないです!………………すみません、少し取り上せていたようです。ここで、折衷して、"形"を変えて、生かしてあげてはいかがですか?」


「っふ、自殺以外認めませんだと言いましたね」


「それはどういう……?」揺れが静まり、立てた毛がほっとした。自分を落ち着かせようとしてるように、ふわふわの毛を舐めてそう聞いたが、スピリトはその質問に答えていなかった。


「"形"を変えてまで生き延びろうとします?往生際がわりいですね」スピリトは下を向き、足元まで歩いてきた白いふわふわにそう言って、嘲笑な顔でその弱さと臆病さを見下した。


「そう…ですね。それは本当、おっしゃる通りです。妖精王-スピリト・ファシノさま」


「っふ、イヤミですかね?」


「いいえ、滅相もないです」滑らかでキラキラ輝く白い毛並みが風に撫でて、颯爽に海唯のほうへ歩いてきた。



 パタパタ、柔らかいものが水面を踏んでる音。アレから感じる気配は異端だ。その歩みは不気味で、水面を踏みしめる音はまるで死者の足跡のように響く。周囲には花々の香りと緑植の匂いが漂いながらも、奇怪な異物がそこに混じり込んでる異様感が収まらない。


 それでも、指一本さえ動けない海唯は怖がる必要がない。それは、スピリトがいるからじゃなくて、アレから切迫な実害が感じないからだ。


 いつもなら、海唯は人の表情と仕草で"目的"を判断してるだが、眼球すら動くこともできない今で、何故かアレの目的がなんとなく分かってるようになってた。


 魔力の微動が触れた手からじわじわと海唯の思考へ流れていく。それはアレの感情か?アレの記憶か?

 まるで、真っ暗な空間で無理やり見たくない映画を見せられてるような感じだ。評価するなら、今まで見てきた退屈な物語の中で一番くだらなくて、最高だった。


 海唯はそれを静かに見ていて、その中に……いいえ、その続きに彼女が探している答えがあるかもしれない。



 スピリトは腕を組んで、我慢してるようだ。ここへ海唯を連れてきたのはこの白い毛玉に見てもらうためだが、この白い毛玉にしか"人間"を助けられないだと分かってるだが、


「余計なことはしないように、ね」


 脅かしのような言葉を聴いて、白い毛玉の耳はピクっと動いた。


「ペンダントを出します。ほかは何もしません」


 そしたら、ふわふわな肉球で海唯のズボンを叩いて、叩いて、やっとポケットの中にいるだと探し出してから、難しく、ゆっくりと、鼻で突いて、突いて、口で紐を咥え、青磁(せいじ)色のペンダントをポケットから出した。


「割れた宝石…ですか?」


 それが原因で、海唯の魔因子が消えたのか?スピリトは疑問な表情でそのペンダントを受け取った。


 そして、その瞬間、割れ目が長く、深くなり、幾つかの破片に砕け散って、それと同時に、海唯の魔力が一気に膨らんだ。魔法を使ってないのに、凄まじい魔法のさざなみが感じ取れる。


 魔法のさざなみとは術者の魔法が周りを影響した時のことを指してるだが、魔法を使っていないとしてもささなみを感じれるなら、それは魔力は体の許容量を超えて、外へ溢れ出したのだ。


「この宝石は持ち主と繋がっているように設計していました。魔因子が囚われ、魔力が奪われても生きていけますように、(わたくし)があげていましたが……どういう経緯か、この子の手に落ちていましたね」


 それを聞いてて、スピリトの顔色はますます不機嫌になっていたが、白い毛玉は勝手に話しを進めていた。


「その際に持ち主が危険な目に遭ったですかね、宝石がこの子から魔力を吸い取っていて、限界値を超えていまして……持ち主が持っていなければ、どれだけ魔力を吸い取っても持ち主へ届けませんだというのに、改良の余地がありますね」


「それとは何の関係があります?」


 スピリトは砕け散った宝石をひと握りで宝石を粉末にした。キラリときらめいた小粒が風に吹かれ、ここの植物の養分になって、目で見えるほどの育て具合だった。


「無力な弱者にだけ犠牲にするのがおかしいだと思いませんか?」白い毛玉が苦笑いでスピリトを見て、そう言った。


「…………若いですね…あの戦争で起きた本当のことを何も知らないからそう言えます……」


 犠牲こそが聖魔法の始まりだ。彼女は強いられて聖女だとか担ぎ上げられたことは事実だが、その王座を登ったことで世界のあり方を変えた。憎しみと死体しか残されない戦を満ちた世界を変えてくれた彼女が、最後もで足掻いていて、自分の声を届こうとしていた。そんな彼女は決して弱者ではない。


 そう思っているスピリトだが、あそこにいなかった者に分からせることは無理だとも分かる。だから、スピリトは言葉を飲み込んだ。


 白い毛玉が海唯の手を潜り、頭を撫でさせようとしてるようにふわふわな体をこじって、海唯の掌の下に座った。


「……確かに聖魔法のようですが……この子の魔力が色々混ざっていますので、不安定な状態です。ここには自然からの魔力はないため、ぶつかり続いた魔力が少し緩和しているかもしれません。今から魔力を制御する方法を教えます……と言っていますが、手本を見せてあげるしかできませんね。後はこの子次第です」


 そう言って、白い毛玉は海唯の魔力の流れをゆっくりと循環させようとしてるが、まさか自分がその魔力に飲まされるなんて思わなかった。


 それは奇妙な感覚だった。魔力は一つの流れのはずだが、海唯のはお互い相容れなくて無数な魔力が無理やり一つに揉まされてたようだ。


 そんなゲテモノに白い毛玉の魔力がどんどん蝕まれて、体の中を潜り滾る魔力はトゲのように全神経を刺さる。縛られて、潰されそうになった時に、魔力は鉛のように固まってから、凄く鮮明な感触の元に少しずつ粉々に削られる。ずっとその繰り返し。終焉が見えない、無限の苦しみ。


 白いふわふわという"形"が呑まれ、消された。




 暫くの静かさを破ったのは連続でデカイくしゃみだった。


「ハックチュー、うっわ!水?川?何だ?ここは」


 立ち上がった海唯は濡れた服を絞って、置かれた環境を見回り、今の状況を確認して、鼻水をすすいてからスピリトを見た。


「もう一人いるだろう?なんか、ふわふわしてるような?」


 海唯は手の感触を再現しようとしてるように、ソレの大きさとか、ふわふわ感とかを手振りしていた。


「!?……ええ、あなたが追い返したんですが」


 そこでスピリトは初めて知った。"器"の状態になった者は意識があって、感触もあるが動けないし、声も出せない。感じるまま、穢の侵食をただ黙って、受け入れされて、体を焼かれ、ちぎられるほどの痛みを耐えながら死んでいくことを。


 器になれば死ぬではなく、器にされたら死にたくなるのだ。


「追い返した?私が?……まいっか。なんか体軽くなったし、暖かくなったし~」


 海唯はすぐ、スピリトがまた気むずかしそうな顔をしてるのを気づいて、絶対こいつまた何か面倒なことを考えてるのだと思った。


 髪を布のように絞って、全身を犬のように水を払ってから海唯はトンっと座って、スピリト、もとい、依頼人に刃向かえることに謝った。


「ああ~アレはな、ん~持病のようなものって考えてていいよ!なんか知らないけど怪我も治ったし、ヨウセイオウ?って寛大な心を意味したいい響きだと思います!」


「知らない単語のような言い方ですね」


「そんな奴が見込んだ女だ。始まりの聖女だっけ?そいつは決して弱者ではない」


「!?」これは何度目だ?自分が欲しい言葉がいつも、海唯の口から話してくれる。だから、それを聴いてスピリトはびっくりしたが、笑ってしまった。


「おお!やっぱ、お前は胡散臭い微笑みのほうがしっくりくるな~」


「何ですか、それは」


「だから、無駄な言い争いより、直接実験したほうが早くない?」


 海唯のニヤニヤを見て、嫌な予感をしたスピリトだが、間に合わなかった。スピリトの見たことがない黒い物を高く持ち上げて、海唯が指を押したと見た瞬間、爆音が響き、幕が蜘蛛の糸のように裂けた。


 ああ、アレは何回か前のループで見た。目が追いつけない速さで人の血肉を簡単に抉れるモノだ。確かに、金属のような材質だったが、そんなモノが二重結界の幕を破られるのか?って、あまりの衝撃で、穢が入ってきたことにボーッとしてて、全然どうでもいいことを考えてしまったスピリトだった。


「って!違う!大丈夫でした?どこか痛いことありません?頭くらくらしません?」


 穢が生きてるように割目の隙から潜り、海唯のもとで集め、高く上げた腕からゆっくりと全身へ張り付く。それを見て、スピリトは手で鼻口を覆い、慌てているようだが、近づくどころか、後ろへ退けていた。


 それこそが普通の反応だ。幕の外にいるのは希釈されていない、そのままの穢だ。個体によっての反応は少々違うが、少しでも触られたら即死するケースもあった。


「ん~なるほどね~」

 ---分からん!


 幕のヒビが自動的に塞ぎつづ、自分を囲む穢というモノが透明になってて、体に浸透しつづのを見て、海唯はそれっぽいことを言った。


「結果オーライだね~」


 それを見て、スピリトは信じなさそうな顔で海唯の腕を見て、頬を揉んで、腰を掴んだら持ち上げて揺れてきた。


「本当に大丈夫でしたか?」


「そのようだな~」


「本っっっっっっっ当にあんたは!何考えてるんですか!会話だけで穢はどれだけ危険なモノだって推測できるでしょう!もう二度と、こんな危ないまねしないで!」何も知らない海唯の笑顔を見て、スピリトは大きいため息をした。


 こいつ怒ってるって、海唯はこの程度の認識しかない。だから、海唯はスピリトの怒りの原因が"自分が死んだら、また新たな聖女が召喚される"だと考えた。それは正しい。でも、それだけじゃないってことは海唯は知らない、いいえ、例え、丁寧に言葉で説明しても彼女にとっては理解のできないことだろう。


「んじゃ、これから聖女が死ぬたび、自分を咎めるのか?どうしようもないから執着になるんだよ」


 その一言で、スピリトはもう、海唯に何も言い返せない。


「依頼を受けた以上、私をお前の武器だと思えばいい」


 また、最初に会った時の、あの綺麗で完璧な笑顔になった。でも、スピリトはもう分かった。彼女なら"もう二度、聖女が現れない"という依頼は確実に実現できる。それと同時に、彼女もまた最後の聖女となる。


 つまり、聖女が死ぬ運命だったら……




 よくやった。次はそうしないように 完



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