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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
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10-03

 三回言われても分からない奴には体で教えてやろう 03


 丸く縮めた体から平穏な呼吸を届いてきた。両手で頭を抱えてるような変な寝相だから顔はよく見えないが、アキレスは何故かその姿に身に覚えがある気がした。


 瞬きして、視界はボヤけていない。ちゃんと見えてる。

 拳を握って、開いて、失くしたはずの腕が今ではちゃんと繋がってる。

 足の感覚も戻した。

 っていうより、体が軽くなってきて、怪我が嘘のように、魔力すら回復した。


 そして、傍から届いた血の匂い。魔力のさざなみが段々散っているけど、確かにその変な寝相をしてる人からの匂いだ。


「おい、君っ……」


 アキレスは手を伸ばしてるが、海唯に触れそうになる際、一瞬で避けられた。

 先まで深く眠るはずの海唯だが、何かを察知したように一気に後ろへ跳んで、壁へぶつかった。

 重くて低い音がしたので、壁にぶつかる重さは何となく分かるが、ただじーっと自分を見つめて、手をナイフへと伸ばす海唯を見て、アキレスは経験したことのないはずの記憶に襲われてきた。


「っう!」


 記憶の中の自分は今と同じ状態で、その黒い髪をしてる人も出てきた。でも、顔はよく見えない。というより、それはただ黒い煙に包まれるだけの人だった。


「待って!」


 窓から飛び降りようとしたから、アキレスは咄嗟に海唯を掴んだ。

 反射で掴んだのはいいが、反抗されてここで暴れたら困る。アキレス自身も何故かは知らないが、今ここで掴めないともう会えなくなる気がした。


 だから何だ?ふっと出てきた疑問に、アキレスは"第二の奴らを救える人かもしれない"という言い訳で、この疑問を抑えた。


 意外なのは、腕を掴まれた海唯はただ突っ立っていて、アキレスの手を払っていない。ひと握りで折れそうな細い腕だから払える力がないのか?それでも、その真っ黒な瞳はまだじーっとアキレスを見つめている。まるで、次の瞬間で喉を噛み千切れるような視線だった。


「自分の価値を示してくれ」


 そんな視線に見つめられるアキレスは、手を離すことなく逆に血が滲み出るくらい強く握り、自分から離れさせない。


「……こっちのセリフだ」


 海唯はやっと寝ぼけた状態から気を戻したが、目覚めの一声がその脅しのような発言とは、あいからわず今回も最悪な日になるなっと思った。


「王宮への侵入は死罪だがら、君が俺を治してくれたのなら……」


 怪我させるつもりはなかったのに、色白のせいなのか腕がすぐ赤くなった。少し手を緩めたが、それでもアキレスは手を離していない。

 記憶の中のぼやばやを払いたいと思ってしまったのか、アキレスはまた海唯に手を伸ばし、そのマスクを取った。


 目が離せられないほどの甘い微笑み。薄い唇が程よい角度で笑い、八重歯も見える。腕が傷だらけの代わりに首から上はかすり傷一つもない。夜空のような瞳が更にその神秘の美しさを出してる。


「証拠がないでも?」


 海唯は軽く笑って、アキレスの足を蹴り、ベッドに押し返してた。それでも掴まれたままの腕を見て、顔には出していないがちょっとイラッとした。


「そうだな。証拠がなくても」


 首の近くから刃物に当てられてる感触がしたが、アキレスは避けることなく逆に海唯をもっと寄せるように、掴む腕を自分の方へ引っ張った。

 海唯の整った顔がアキレスを見下ろして、ナイフをしまった。今ここでこんな無意味なやり取りをする場合じゃないってことを二人とも分かってる。目的は違うんだが、同じ結果に至った。


「聖女は月の下で殺される」


 海唯はただ淡々とそう言った。


 この一言でたくさんの情報を含んでいた。

 聖女って言ったので、召喚ノ儀が成功したこと。

 月の下ってことは夜で、そして、王宮の外で殺されること。でも、聖女が護衛なしに王宮を出させるはずがない。なら、月の下でも外ではない場所は、城の外壁と繋がってるバルコニーだけだ。

 そこへの転移陣は王族と第一の騎士団長だけ使える……


「……空から何が来る?」


 アキレスは海唯の腕を掴んだままそう聞いた。


「ふん~」


 少し目を細めて、アキレスの思考の速さに海唯は賞賛をあげた。


「お前の番だよ?自分の価値を示せ」


「"聖女様"を守ろうとしてるのか?」


「いや?そこまでじゃないが、死なせたら困るかな~」


「分かった」


 アキレスは海唯の下ろした髪を耳の後ろにすくんであげて、手を離した。


「いいのか?」


「俺は暇じゃないから」


 アキレスはそう言って、手を振ってから医務室を離した。

 廊下で医務室に向かってるウルバニと出合わしたアキレスは、向こうの激動と相反して、ただ「医務室の方を頼んだ。首席魔法治療師なら簡単だろ?」って言って、部下に聖女様のいるところへ案内させた。


 一方。


「うわーこっちが暇そうに言ってんな~ムカつく~」


 そうは言ってるが海唯はニヤニヤしながら、廊下の反対方向へ向かい、クレインを探し出した。


「ふあぁ~まだ眠いんだよな~あの死体くん、どっかへ運ばされて埋葬されたのか……うん……バイバイ」




 今回、海唯が裏道に来た時、先客がいたのを気づいた。少年は幼女を庇ってチンピラ達と衝突した。

 なんか面白そうから、ことの流れを見てみたい気分だが、今はそんな暇がない。海唯は少年を背後にして、チンピラ達へ歩き出した。

 少年の「危ない!」って叫びと、いかにも悪人面してるチンピラ達のセクハラを無視して、歩き出して、そのまま通した。


「えっ!?」


 少年は不思議、というか、理解できなさそうな顔で、思わず声を出した。

 海唯はただチンピラ達の間を通り越していたにしか見えないだが、三人の男が倒れて、気絶した。


「ね、お前、名前は?」


 海唯は満面の笑みで振り向かえて、今度また少年の方へ歩き出した。


「ク、クレインっ!……」


 急に襲ってきた激痛でクレインは頭を抱えてしゃがんだが、海唯に頭をわしゃわしゃしたら、頭痛が嘘のように消えた。


「それでは少年よ~神話になれ!」


「…はあっ?」


「いや、冗談だ。お祭りに行こう~遊ぼう~」


 海唯はクレインの襟を引っ張って、思い切りお祭りを楽しんだ。少なくとも表面上は楽しそうに見えてる。だって、そうしないと、クレインに警戒されるだろう?

 クレインも色んな屋台を回して、両手いっぱいで戦利品を持って、凄く楽しそうで海唯にこの国の名物や、"聖女様のためのお祭り"を紹介してくれた。


 空が暮れて、東雲色の空が太陽の暖かさと月の緩やかな光を収めていた。

 どこかの屋台を通り過ぎたら、男二人が急に敬礼していた。


「「ご無事でなりよりです!クレイン王子様っ!」」


 おっさんの方は泣きそうな顔すらしていて、ビンゴって海唯はそう思った。それもそうか、人の顔をいちいち覚えられるか!王子を連れ回して、向こうが勝手に名乗ってくれるなら好都合だ。


「え!?ちょっ……ダーテオ団長さん、カファロ副団長さんも顔を上げ…ぶあっ!?」


 クレインの話の途中で海唯が割り切って、クレインの頭を押し下げてから、リヒルへ話かけた。


「もうすぐドラゴンが来る」


 リヒルは真剣そうな顔をしてる海唯を見て、嘘には見えないが、目的は他にあると直感した。


「全員、広場に集合しろ」


 団長が命を下す前にカファロは通信石にそう伝えて、第三騎士団を呼び戻した。

 普段は団長、団長って呼んでいたのに、実は全く尊敬されていないだろうっとリヒルのおっさんの心が少し傷ついたのだ。


「カファロちゃん、国王の直々の命令もあるよ……」


「団長は探す気ありませんって顔をしています」


「そりゃ~…ありますよ、もちろん~」


「ドラゴンですよ!強いのはずです!ドラゴンと仲良くなって、手合わせお願いしたいです!」


 表情はあんまり変わっていないが、カファロの目がキラキラしてた。


「はーちょっと待ってろ!お前もな、(あん)ちゃん!知ってること全部言えよ」


「はいはい~」


「な!ドラゴンが来るって本当?何で貴様は知ってるの?すっげー!俺ドラゴン見るの初めてだ!」


 戦う気満々なカファロ。何故かはしゃいでるクレイン王子。ニヤニヤしてる何処の馬の骨も知らないガキ。

 リヒルがこの三人を見て、問題児が集まってきた感が半端なかった。


『……ローゼが暇だと思ってます?』


「いや、だから。万が一っていうか、聖女様を表に出さないだけでいいんだよ」


『情報が漏らされた挙句!お祭りなんざも盛り上げられましたわ!こっちは大変忙しいですわ!んなダミ情報やいたずら情報をいちいち調べたらキリがないですわよ!そんで、何?10代くらいの双黒の子ですと?お付き物は多分そいつですよ!出くわしたならついでに王宮まで連れてきなさい!こっちは大変忙しいですわ!!!』


「……あ、はい。すんません。ローゼ様、お疲れさまです」


『フン!』


 通信が切れて、リヒルは広場で集めていた第三の野郎共を見た。


「もうすぐドラゴンが来る。動線管制と言って、お祭りに来た人々をなるべく広場に近づけないように伝えろ」


「「「はい!」」」


 噴水池の前に立ってるカファロが凛っとして第三を指揮してるが、リヒルには分かる。それは早くドラゴンと手合わせてみたいとウキウキしてる目だ。


「緊急時に備え、避難ルートを作れ。一般人に傷つかせるな」


「「「はい!」」」


 そして、カファロの傍に座ってるクレインも目をキラキラして、海唯にドラゴンの生態と歴史を紹介してて、まったく怖じけないのだ。


「ドラゴンは世界の始まりを告げた古代種で、人に知恵を授けたと言われる神々しい存在で…………」


 と、その横で真剣そうにクレインの話してる物語を聴いてる海唯。完全に面白がってる目付きだった。


 そんな問題児のような三人と、第三のバカ面達を見て、リヒルはもう一度大きく嘆いた。




「コルフ」


「……よう、アキレスくん。相変わらず王子を呼び捨てにしてる度胸を褒めてやろう」


 コルフは爽やかな笑顔で周りに他の人がいないことを確認した後、立派に中指を立てて、アキレスに構おうとしなかった。


 アキレスはそんなコルフを気にせず自分勝手に話を進めてるから、コルフがもっと不機嫌になってる。

 こんなにも邪険な雰囲気を見てハラハラしてる第二騎士団員が魔法医療師の手伝いに戻るって言って、この場から逃げるように離した。


「聖女様に頼んで第二の奴らも治してくれっと伝えてくれるか?」


「何言ってんのお前?あのクソあま、部屋に閉じ込んで、泣いったり騒いたりしてて、本っ当……」


 普通に自分の隣で歩いてるアキレスをもっと気に食わなかったコルフはそのまま無視しようとしてるが、使い人達が向こうから歩いてきたので、仕方なく愛想を尽くしてやった。


「ってか、お前、死んだと思ったけど、元気そうで残念だね」


 使い人達に微笑んでいたが、アキレスに対しては容赦なくの毒舌だ。


「……そういうことか、ありがとうな」


「自然の息吹を我に宿し、其の者に茨の祝福を」


 そう言って、何か知らんが、鎌かけられたように感じたコルフは素早く呪文を唱え、彼のズボンの袖から茨の蔓がアキレスの足元へ襲いかかっていく。


「霜、来たれ」


 たったの一言。アキレスの足元へ伸びてきた蔓が霜が降りて、動かなくなったところ、粉々な破片となって散っていた。


「っち!言っとくけど王宮内だから、加減したんだよ」


「"聖女様"から離れるな。空から来る者を警戒しろ」


 アキレスはそれを言ってから離れたので、コルフはまた中指を立った。


 コルフは賢い。アキレスの言葉をすぐ理解した。それでも、彼は聖女様を"表に出す"。

 王族は権力の頂点と言われていたが、コルフははっきり分かってる。今、この時点で"聖女様を表に出す"ことは、民に希望の象徴を与えるためじゃない。なぜなら、彼らは絶望を知る機会はないから、希望を求める必要もない。

 この行為は全て、教会を抑制するためだ。だから、王族はただの権力の奴隷だ。国民を愚民で居られ続けるための、権力の奴隷に過ぎないのだ。


 そんなモノなんて、くだらなさ過ぎてクソ喰らえともコルフは思っているが、権力の奴隷になることでクレインが心置きなく暮らせる国を作れるなら、そんなモンいくらでもなってやるよ!


「今回は何度目かは知らないが、クレインが戻る前に聖女様は"死なない"んだよ、アキレスくん」





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