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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
54/159

9-04

 笑ってる奴は叩かれないって誰が言った!?04


「出来たら第二は正当の理由でお前を保護できる」


「出来なかったら~?」


「地下牢で暮らすことになるかもしれない」


「じゃ~地下牢の方を選びま~す」


 海唯が手を上げてそう言った。どうせ牢にぶち込まされても逃げられるし、もし第二に入らせて、こいつの目下に置かれたらもう逃げられないと思った海唯は、二つ返事で後者を選んだ。


「はあー」


 海唯の信頼を得られたら部下達を治れると思ったか、アキレスは海唯の腰から担ぎ上げて臨時医療場へ向かった。


「……銀髪くんよ~担ぐ癖でもあんの?」


「ちゃんと座れ」


 アキレスは片膝で海唯の前にしゃがんで、腕を掴んでからポーションをかけてあげた。


「そのマークは?」


 海唯が手を上げた時、その皮膚を焼く烙印を見かけた。でもそれは昔ある奴隷制度下でのどの烙印でもない上、20年前でとっくに廃棄された奴隷制度の残りなら新し過ぎるし、海唯の見た目からも時間列が合ってない。アキレスは闇市場の奴隷商売とか、捕まるリスクを負っててもマークを付くのかとか。色々な状況を考えたが、結局直接訊くことにした。


 銀色のまつげの下で翡翠のような瞳を見て、海唯はアキレスの行動を理解できない。ただその男の長く骨ばる指が包帯を巻いてるのを見て、海唯はますます変と思った。それは剣を握る手には見えないほどの綺麗さだっていうのに、立ち振る舞いから見れば戦場を知ってる人だ。矛盾でしかない。


「……ん?ああ、これ?」


 海唯は自分の腕の裏にある烙印を見て、ちょっとくらい考えてるようにしたら「忘れた」っと返した。それは嘘じゃない。オークションや買主が変わるたび、違う印が付けられるから、火で元の印を消してその上に新しいのをすることもよくあるから、海唯はいちいち覚えていない。


「で、なんの真似だ?」今度は海唯が質問をする番だ。


「傷口がまだ塞いていないから、動くな」アキレスは海唯の右手の包帯を巻いてから、左手を引いて先のことをしていた。


「答えになってない」


「部下達を治してほしい」


「対等でない条件と思う」海唯はアキレスの太ももを踏んで、偉そうな視線でアキレスを見下した。でも、アキレスは海唯が何言ってるか分からない顔で返事をした。


「?……まだ条件を言ってない」


「じゃ、言ってみ~」


「俺は俺の全てを君にあげる」


 嘘偽りなく、真剣でそう言ってるアキレスを見て、海唯は逆にポカーンとした。誰かのために自分の全てを捧ぐか?頭相当イカレたのでは?そもそも、自分はいつこいつを治した?そんな記憶ないけど?でも、その前に、海唯には一番理解に及ばない疑問がある。


「これは"条件"じゃないならお前は今、何をしてる?」左手も丁寧にポーションをかけて包帯を巻いてくれたアキレスを見て、海唯はそう尋ねた。


 そして、アキレスはようやく、2人の話しが噛み合ってない原因が分かった。


「風に触れて痛そうな顔をしてるから包帯を巻いたが、後で専門の治療師に見てもらうと手配するよ」


「……っ!?」海唯はアキレスの答えを聴いてからシュッと手を引き戻した。ただ目を大きくして、何を言うべきか分からなかった。


 アキレスは完治された以上魔力量も回復された。でも、その魔法をかけてくれた人の身はボロボロで傷だらけ。ただの推定だが、まだ魔法をコントロールできていないだから、自分の傷を治せない。それにその反応では聖魔法をかけてくれたのも偶然の出来ことだって分かる。

 でも、だからなんだ?治してくれたのは事実だし、本人はそれを隠したいようだが聖魔法が使えるのも事実だ。なら、その莫大な魔力量をコントロールする方法を教え、自分の傷も治せるようにさせたいとアキレスはそう考えた。


「まずは深呼吸して、目を閉じて、心の中で願えるように唱え」


 アキレスはそう言って、海唯の両手を引いたら真っ直ぐ海唯を見つめた。


「生きたい。生かせて欲しい。痛みを取り除きたい。傷口を消して欲しい」


 波がない海のような落ち着いた声でそう言ってるアキレスを見て、何をふざけてるのか?って思ってるが、引かれていた手を海唯は払っていない。その行動は多分魔法を使うための手段の一つだと推測したが、そんなことは一度も考えてないし、考えられない海唯は"願い"なんざできる訳が無い。


「それって、詠唱?」


「いいえ、俺はそのような重傷を完治できる魔法は分からない。でも、お前ならできると思う」


「ふん~魔法の基礎ってやつか?」


「その中の一つだな」


 とりあえす"願いは魔法の原点"だと理解した。一度もしたことがないから海唯は具体的にどうするべきかは分からない。それでも、海唯は重い瞼を今だけゆくり閉じた。自分でもピックりするほど眠れそうな時、どこからか判別できない巨音がロビーを響いていた。


「ゴーン!!」


 2人が同時に目を開けてから目線が交差し、外へ駆け出した。それでも、その巨音の正体を見極める前に戻された。




『風に触れて痛そうな顔をしてるから』


 その言葉が頭をよぎった。海唯は少し袖を引いて包帯が消えた自分の腕を見たから袖を戻した。


 ちゃんと時間を測ってるつもりだが、あの一瞬、そう、あの適当に言われてるだけの言葉に、何故気が散ったのか海唯は知らない。

 それから、真っ白な光が下げ、強光による奪われた視界が戻り、もう何度も見たコスプレしてるバカ面。海唯は構ってる余裕はないから、真っ直ぐ裏道へ少年を待ち伏せしに行った。


「いや~分かるよ~何でその時点に戻るかは分かるよ~でも仕方ないだろう!今バレる訳にはいけないのも分かるけどさ~それだけは仕方ないだろう~?ああ~!私もよく分からなくなったよ!クソっ!はあー……で、名前は?」


 起きたそうそう、全身黒服の人に襟を掴まれて、何かの文句に聞かされてるクレインはポカーンとして、答えた。

 今度、また"可笑しく"なる前に海唯はクレインの手をつないで、大通りに向かってる。


「でだ、少年よ!お前は腹黒王子と知り合いか?」


 自分に名前を聞かれたばっかりなのに、"少年"呼ばわりされてたから何か馬鹿にされてると思ったクレインは海唯の手を弾いた。向こうは意外と簡単に手を離したのも思わなかったが、"クレイン・ハーディス"と言う名を聴いても認識されていないとは、この国の人ではないはずだが……


「ハラクロ…王子?えっと、アデレード王国には王子5人いるけど、その名前のはいないよ…っわ!え!?何?」


 急にしゃがんだ海唯にびっくりされて、クレインも海唯の前にしゃがんで「お腹痛いの?」って聞いた。それで、また急に凄い勢いで顔を上げた海唯にびっくりされて、後ろに倒れかけたところ海唯に手を引かれていたが、まさか2人とも倒れた。


「貴様!先から何なんだよ!危ないだろう!手、大丈夫?」


 クレインは海唯の手へ伸ばしたが、途中で止められた。海唯は傷痕が見られたくないわけじゃない。逆にどうでもいいと思ってる。ただ、目の前の少年にとって知らないほうがいい、それだけだ。


「ひゃはは~面白いなお前~何で怒ってるか全く理解できない!怒ってるのに悪意はないのも面白い~」


 クレインの頭を庇うため海唯は石道に自分の手を敷かれた。だから、無事なのに凄く怒ってるクレインを見て海唯は可笑しく笑った。


「何言ってんの?頭ぶつかった?」


 大通りの真ん中、2人のガキがそうやって対面であぐら座しておしゃべりしてる。


「よし~まだ日暮れてないし、何かお祭りやってるらしいし~時間潰しに遊ぼう?」


 いつも通り、見よう見まねな笑顔で海唯はそう言った。


 海唯は今までちゃんと大人に守られて、愛される環境で育てられた子供と触れ合ったことはないから、興味を持ったとも言えるだろう。


「っお、お友達になる?」


 何か今度は顔真っ赤になった。顔がコロコロ変わってるクレインは面白いなと思った海唯は「おトモダチになるよ~」とは言ったが、その"トモダチ"の意味はよく分からない。でも、まあー、日暮れるまでの時間潰しだし。


 広場には、色とりどりの飾り付けが施され、優雅な紙吹雪が舞い踊ってる。音楽や太鼓のリズムが響き渡り、人々は楽しさに身を委ね、笑顔を絶やせない。さまざまな屋台が立ち並び、美味しそうな食べ物の香りが漂う。

 カラフルな衣装に身を包んだ人々が、踊りやパフォーマンスを披露していて、手には光る棒や風船、眩暈するくらい熱気が集まっている。


 屋台の前では、子供たちの笑顔と興奮があふれて、大人たちも童心に帰ったようで、楽しいひとときを過ごしている。


「でもね…モグモグ…俺たちの…仕事はさ…モグモグ…民がお祭りを楽しめるためだから…モグモグ…ハメを外したらダメだぞ!野郎共ー!」


 第三騎士団長の制服を着ているにも関わらず、リヒルが両手いっぱいで食べ物を抱え、口にも肉に満たされながらそう言った。


「おー!!!」

「もちろんです!リヒル団長!」

「仕事しますよー!」


 第三騎士団たちがそう言って各々のルートで祭りを満喫、いいえ、見回りをしていく。


「ダーテオ団長」

「あ……カファロちゃ~んいたの?もちろんちゃんと探してるよ?でもね、顔も分からない人ってどうやって探すと言うっ……!?」


 リヒルが頭固いカファロにそう言いながら、ちょうと通り過ぎたクレインを見かけた。


「……クレイン王子様っ!」


「えっ!何!?」


「「ご無事でなりよりです!クレイン王子様っ!」」


 第三騎士団長リヒルと副団長カファロが同時に敬礼し、ダーテオ団長は泣きそうな顔までしてる。


「え!?ちょっ……ダーテオ団長さん、カファロ副団長さんも顔を上げてください、盗賊に拐われた時に迷惑をかけたが、アキレスさんが助けてくれて、もう大丈夫だよ?」


「「!?」」


「……お記憶が失われたのですか?……確かに体も4年前と変わらないような……」


 あの三人のごちゃごちゃより、海唯はただ大通りの真ん中に立って、何かを数えながら王宮の方へ向いてた。


「……5、4、3……」


 雲の上から巨大な赤い影を映し、それを雲を通し抜いて王宮の方へ真っ直ぐ向かった。


「……2、1」


「ゴーン!!」


 ちょうど海唯の読秒にピッタリ、大空を半分遮るほどの赤いドラゴンが現れた。


 海唯はあのドラゴンが向かう先に東雲と腹黒王子がいるのも見えた。

 祭りの人々の笑い声がドラゴンの出現により、恐怖の叫びに変わった。乱れた秩序に、パニックになった人々は一斉に逆方向へ走り出してから更なる恐慌を生み出した。


 街で見回る第三騎士団の団員達はすぐに対応できて、人々を指示し、秩序は戻ったようには見えるが……


「ゴーン!!」


 パニックの元凶は急に暴れ出して、空から落下した。

 砂嵐のように巻き起こされた瓦礫の残骸が散り、落下したドラゴンが多くな建物を破壊し、沢山の人々を下地にした。


「ひゃははは~」


 ドラゴンの背中から伝わる場違いな笑い声。海唯はいつの間にドラゴンの背中に跳び上がった。ドラゴンを落とされたのも海唯だった。


 落下した爆風で雲が吹き飛ばされ、月下で輝いてるドラゴンの赤い鱗とその反射で赤く光った海唯の瞳。黒の上に映る赤は人々に戦慄させる。


 ドラゴンの背の上で凛っと立ってる海唯の微笑みは、月下の影色で更に一層の不気味さを加えた。


 片方の翼が切り裂かれたドラゴンと戦ってる海唯は自分が作り上げたこの惨状をまったく気にせず、只管に"標的の排除"を専念してる。


『覚えとけ、ペット。笑いは時に、敵に恐怖を植え付ける』


 提示帰還(ソジェリメート エリトルノ)は何度でも時間を巻き返せるなら、"目的"を果たす前に死んだ人が死んだとは言わない。そうだろう?


「ひゃははは~ひゃははっははは~」




 笑ってる奴は叩かれないって誰が言った!? 完




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