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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
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7-SP:《濡れ髪》

 片足は第 1 象限でy=-x^2+16x+5の形で、片足は第 4 象限で y=-2x^2+1の形をしてる SP:《濡れ髪》


 看護師の服を戻しに、海唯はまた着替え室を侵入して着替えた。

 魔素アイテムが使えないから、花瓶の水で染めていた髪を洗いながら、記憶の内容を整理している。


「みずみずしい精霊が花壇でシャワーする絵が見えるとは、今日はいい日じゃのう」


 窓の外に頭を出して髪染めの色を流していたから、外の花壇を通りかかて、杖をしてるお爺さんが海唯に話しをかけた。


「……よ~爺さん、精霊見たことあんの?」

「ええ~あれはとても美しい存在ね~背中に2対の透明の翼があって、光が流れてるような綺麗な翼でな~」


 お爺さんが杖を持ってる手が震えながら、青空に向け嘆くような懐かしい口調で述べた。


「へ~どこで見たの?」

「そうね~夢の中じゃのう~わしの若い頃に森で迷い込んだ時、現れたのう。誘惑な声で囁きわしの手を引いて森から出たのう~……そうじゃ!」


 お爺さんがいきなり大声を出したからその反射で顔を上げた。そのせいで海唯の目に水が入ってからゴシゴシした。


「わしより背が高くて綺麗な髪がサラサラでな~ありゃ妖精さんじゃのう」

「妖精?」


 髪染めの色を洗い終わって、海唯はそのまま窓から外へ飛び降りた。お爺さんの話に聞く価値があると思って、続きを聞いてた。


「ええ、別嬪さんでね~その身の振るい方と音楽のような声、魅力的で~ほほほ~思い返せたらわしは若帰りしそうじゃのう~」

「え~?妖しの森に迷い込んだのか~爺さん」


 茶化すような口調で海唯は話しを乗ってきた。


「そうね~妖精たちの森に迷い込んだのかしら?気づいたら実家の天井に向いてるじゃのう~ほほほ」

「おい~ベタの夢落ちか~」


 お爺さんの話しどうやら御伽話の成分の方が高いと思った海唯が、そろそろ次のところへ行こうとした時、隣の花園から声がした。


「お婆さんー!また1人で外を歩いでるんですか!危ないですよ!」


 看護師がそう話しながら、車椅子をF1レース如くに欠けてるお婆さんの後ろで追いかけてる。


「ほほほ~ま~た、ヤンチャやってるのう~」


 老いたハバ犬がハアーハアーしながら凄いスピードで車輪を回す絵しか見えない海唯が「Veteran(フェーテラ)~!」って言って爆笑した。


「おい~爺さん!元気にやってるかいー!」


 海唯の声で車椅子に乗ってるお婆さんがこっちに気づいて、大きく角を曲がりこっちに向いて、海唯の隣にいるお爺さんに手を振いた。

 枯れた葉のような色が髪の毛を紛れ、大きく振ってる手が枝のようにいつでも折れそうだ。それでもお婆さんは元気に挨拶してる。その笑顔は耳たぶに飾るイヤリングより輝いてる。


「お婆さんー!そっちは!」


 看護師さんの声は間に合わなかった。

 角を曲がりこっちに向いてるお婆さんは重心をなくして傾けてるところ、よりによって階段に向かってる。そのせいで更に失速し、お婆さんが車椅子と共に階段から落ちてきた。


 看護師が無意識に両手で目を覆い、見るに耐えない。

 海唯の隣にいるお爺さんがよろよろの足でその場に佇んでる。


 予想した衝撃の音の代わりに届いたのは海唯のくぐもった声。

 真正面で階段から飛び降りた車椅子に衝突したとは思えない、微弱で、海唯の腕の中に抱きしめられたお婆さんにしか聞こえない、くぐもった声だった。


 木製の車椅子の車輪が曲がり、椅子の部分もヒビが入ったというのに、それに乗ってる本人は膝に擦り傷があるぐらいで、大したことはなかった。


「……若造、礼を言うよ。あんたは大丈夫かい?」


 お婆さんの問いに海唯は返事しなかった。


「だ、大丈夫ですか?」


 慌てて階段を走って来た看護師の問いにも海唯は返事しなかった。

 看護師は手を振い払ってる海唯を見て、礼をしてから二人を連れて病院に戻った。


「詠唱が間に合わないから」


 海唯は顔も上げずに両手で脛と甲を押さえながらそう言った。


 この世界では普通は魔法を使うには詠唱が必要だ。だからこれは辻褄が合う立派な嘘だと思ってそう言ったが、向こうはそんなことを微塵も考えてないことに海唯は知らないのだ。


 アキレスはただ海唯の前にしゃがんで手を伸ばし、頬の髪を耳の後ろへ救った。

 指を吸い込むような柔らかい頬に、少し赤を滲んだ目の結膜。でも涙はなかった。

 悲しい情緒のほかに強い刺激を受けた時、人の涙腺は勝手に涙液を分密する。そう、例えば強撃で痛んでる時。でもアキレスが見たのは口を固く閉まって、足を抑えてるだけの海唯だった。


「君の行動はいつも俺の想像を越えるんだな」


 アキレスがここへ来た時、車椅子は既に海唯にぶつかった。衝撃の慣性で前へ飛び出そうとしてるお婆さんも海唯に掴まれて、しっかり頭を守られた。

 とても、先日でカンザキラで騎士と民を盾にした人が取る行動とは思えない。

 それもそうだ。あの日カンザキラにいる全員が海唯の聖魔法を実験体ということはアキレスは分かるはずがない。が、それも海唯が車椅子のお婆さんを助けた理由にはなれない。


 その理由は海唯の手の裏に隠されていて、そして、いずれ消えるだろう。


「立てないか?」

「うっせー、あれだ、日光浴だ今は」

「ふっ、昼寝の次は日光浴か?」


 アキレスは軽く笑って、海唯の隣に座った。

 階段の真下、洗石の道のど真ん中。二人は肩を並べて日光浴してるという奇妙な絵面になった。


「どこで何をするのかは私の自由だ!海に住んでるのか?お前」

「海?」

「管轄が広いってことだ」

「……うん、面白い比喩だ」


 少しの間が経ち、部下に呼ばれたアキレスが目線を後ろに向いてる間に海唯はどっかへ居なくなった。


 髪が濡れてる。


 アキレスは自分の手を見て、先のことを思い返した。

 鎖骨に残ってる白い水玉、太陽の反射だと見間違えたと思っていた髪先に残った白。加えて、魔植-銀箔(ギンハク)の薫り。


「団長?」

「っふ、今回のヘマは見逃してやろう」


 滅多に笑わない団長を見て、部下は思わずゾッとして、背筋を伸ばした。


「どうなさたんですか?」

「いいえ、別に」



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