表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
44/159

7-03

 片足は第 1 象限でy=-x^2+16x+5の形で、片足は第 4 象限で y=-2x^2+1の形をしてる 03


「さ~て、嫌な思い消してあげるから、ゲロが出るくらい怖がれよ~」


 リリは海唯の言葉の意味が理解できない顔してるが、「忘れ…られますか?」って食い気味でそう聞いてた。

 近くで見てるから分かる。目の下のクマが酷い有様だ。


「そう、頑張って思い返せば」


 優しくリリの手を持って、海唯はそう言ってたが、役に立てる情報が出ていないならそのまま置いていくつもりだ。



 目が開けるといきなり投げつけてくる酒の空瓶を避けきれずに頭を当たった。ボタボタっとゴミだらけの床に血が落ちるのを見てた途端、また急に髪が引っ張り上がれてて、「この役立たずのゴミが!」って顔を唾まみれになっちまった。

 この憎まれ口を叩く顔の向こうには、1人髪の毛がボサボサな女が座ってる。頬に殴られた青あざがあって、こっちをチラついたらどうでもよさそうな表情で振替した。



 こんなクソどうでもいい記憶を一気に何回も似たような場面を繰り返されてて、海唯はあくびまでした。



 ある日、白いローブを着てる男がこのゴミ屋敷を訪ねた。一つ小さな袋を女に渡してから、この体の持ち主が男の方へ押し付けた。

 開けたドアの隙から見た。その袋に金貨が満ちてる。そして、血に染められた。

 床に倒れたお父さんらしき人物が刀に刺され、動かなくなってても女は慌てずに溢れた金貨を拾い、暗い道へ消えてく。


「お母さんー!!」


 体の持ち主がこう叫んで、女についていこうとしてるが、腕が白いローブの男に掴まれてる。



 自分の喉から出した声ではないが、錯覚だろうか、海唯は喉が焼けたように感じた。



 顔を上げて見たのは、輪の中に回ってる正三角形と自分を見下ろしてる神職員の視線だ。

 その後、シスターに身を洗ってもらって、着替えてもらえた。


 手足には少しだけ打撲傷があるだけで、汚れが洗ったら綺麗な体に戻った。

 風呂場の水面にリリ・ハンナの顔が映り、暖かい霧に包まれる水色で光った笑顔だった。



 ---よかったな、お前はまだ裏への線を超えていない。

 海唯は心の中でそう言ってて、水面の顔を見てから、目を開けて泣きながら頭を抱えてたリリを見ていた。

 そして、また目を閉じた。



 最初の1人は年を老いた女の人だった。

「天に祈り、地に感謝し、神に仰ぎ、心静かに。心と体を清め、新たな道を歩めますようにお祈り申し上げます」

 体がベタベタに触れて、意味の分からない言葉を言われながら、指にこじ開けられた。


 次はお腹が大き中年の男の人だった。

「ああ、なんという罪深さだ。清められた心と体で、魂の平安と安定を得ますようにお祈りいたします」

 手足が縛られ、頬が叩かれて、また意味の分からない言葉を言われながら、体がその揺れに従えせざるを得なかった。


 何回か繰り返す日々、メガネをした青年がドアを開いた。

 体の持ち主は隅に膝を抱えて、「心身を清め、純粋な存在に!心身を清め、純粋な存在に!……」と作り笑顔をしながら唱え続いた。

 それを見て青年はペンダントを持ち出し、輪の中の正三角形がまた回り始めた。そしたら、青年に首を締め付けられて、そのまま持ち上げられた。


 体の持ち主の意識が朦朧になりつづでも、青年はただひんやりしてる顔で見てた。


「……この体はいいか?」


 この場には、体の持ち主とメガネの青年しかいないのに、その問いはどうも体の持ち主に聞いてるには見えない。

 質問の最後の音が落ち、何もないところで黒い粉が集まり、そこから出てきたのは金色の瞳をしてる男子だった。



 そろそろ、長いな~めんどくさって思い始めた海唯。やっと、役に立てそうな情報が出てきて、つまらなさそうな顔がニヤリっと笑った。

 そんな海唯を見た白玉は「……やはり、(わたくし)には結末を変えられないみたい……」と俯いてて呟いた。



「いい、実にいい表情だ~」


 やけに身だしなみのいい男子は満足そうに唇を舐め、体の持ち主から透明な流れを引き出し、吸い込んだ。


「?!……ハアー、不味い!凄く不味い味が混ざってるね~」


 男子はゲーって舌を出して、一袋の金貨を床に捨ててから黒い粉の中で消えた。


 意識が途絶えたところに、画面が変わった。


 話し声が聞こえる。でも、遠くてよく聞き分けない。幼い声だった。

 目隠しされてるが、光の揺らりは見える。裸足で塵一つもない石階を下り歩いてるのを感じれる。

 誰かに掴まれてる感覚はないし、背中が押されてる感覚もない。


 体の持ち主が自分の意思で歩いている。


 道の付きに木のドアを押し開いたら、繊細の手が自分で目隠しを取った。

 丸い部屋の真ん中の台に登り、上向けで体が横になった。


 地下なのに天井ではステンドグラスが満ちてて、そこから太陽の日差しのような眩しい光が白服に色つける。

 直視できかねるので、すぐに瞼を閉じたから、ステンドグラスの絵がはっきり見えない。


「ごめんね、リリ・ハンナ」


 幼い女の子の声がした。それから瞼の裏は真っ黒になり、鼻の元に熱い息が襲ってきて、柔らかいモノが口につけた。

 口をこじ開けるような動きが舌を絡み、何か暖かいモノが段々喉を通し、滑り込んだ。


 暫くしたら口に触れる柔らかいモノが離れ、熱いよだれの糸が未練爛れて引かれてる。


「うん、終わりだよ。苦しい思いは消してあげられないが、傷痕を癒すくらいなら……。ごめんね」幼い女の子が手でリリの目を覆いながらそう言った。


 再び目を開けて、そこにはもう誰もいない。

 繊細の手が再び目隠しをして、来た道でここから出た。入った時と違ったのは、体に刻印してた爪痕が薄くなり、太ももの内側から流してた血が止まっていたとこだった。



「……うわ~百合だな~」海唯の手がリリの頭の前に置いて、中指だけ少し眉間に触れてる。


「ユリ?」

「はっはっはっ~気にすんな~。で、確認しとくけど、本人が"覚えてるかどうか"は関係なく、"五感で感じたこと"が記憶として再現するよな?」

「はい、なので本人が自分の記憶を改竄しても、貴方は"本当に起きたこと"を見られます」


 海唯は目を閉じたまま白玉と会話しながら、リリの記憶を見ている。



 また同じ繰り返す日々が過ぎ、今度あの奇妙な幼い女の子との密会の後、目隠しのまま、体が歩き出して、何も見えない筈だが、人や物にぶつかったことなく街に出た。

 手の感触からには子供を引いて歩いてる。


 始めは赤子1人。


「銅貨15枚です」ってどこか聞いたことのある声がした。そして、赤子が渡された。


 次はあの時のリリと同い年くらいの子2人。


「銅貨20枚です」って前と同じ声がしたから、子供達が渡された。


 何回かの取引で、体の持ち主は教会から6人の子を連れ出して、売った。

 でも、妙なことは売りに出された子達は、誰でも声を出したことはなかった。暴れるのも、逃げようとするのもなかった。それところか、売り渡された後、体の持ち主を抱きしめてた。


「これで全員?」って聞かれて、体の持ち主は頷いた。


「じゃこの子は?体、返さないおつもりです?」どこか悪戯を混ざった声がそう聞いてて、体の持ち主は何の反応もなく、銅貨をもらって教会へ発った。


「御用があれば、いつでも歓迎致しますよ~」


 この日を境に、体の持ち主は教会に戻ったことはなかった。

 百枚も足らなかった銅貨の袋をぶら下がって、町に歩いたら、奴隷商に目付けられただろう。

 目隠しのままだから何も見えないが、この体の反応からしては違和感がある。


 つばり、走るのが早い。


 息一つも荒いことなく、どこにもぶつからずに道を曲がったり、跳んだりしてる。やがて、この町の生まれって言っても誰でも信じないくらい、自分で自分を行き止まりに追い詰めた。


 栄養不良な女の子が壮漢に囲まれ、横から見れば掴まれるだろうって思ったところ、目隠しが下がられ、視線が一気に壮漢へ近づき、思い切り顔面を殴った。

 目隠しの布を握る拳に視界が止まり、画面の背景になってた壮漢がこの一発で白泡吹いて倒れた。


 体の右側から違和感が蔓延し、拳を握る指の血管が内出血して、右腕の骨が折れた。


 最後は急に電源が切れたように真正面で地にぶづかった。意識がちゃんとあるが、腕でカバする動作すらない。


 それからの記憶は蒔花閣(じんかかく)での働きとか、魔人の花魁に攫われて、魔獣の噛みつき棒にされたとか、大した情報が得られなかった。


 そこで、記憶の再放送が終わった。



 リリにとっての"嫌な記憶"の内容は概ね海唯が予想した通りだった。

 白玉が病院のベッドで顔を覆い泣いてるリリを前足で涙を拭いてあげた。


「おいおい、これじゃ私が悪いことしたようだな~」


 海唯は第三騎士団の訓練を見に来てやったのは、リヒルに見せた取引名簿に引っかかるとこがあるからだ。

 人身売買の取引名簿なんてありふれた物に、海唯は飽きるほど見てきたし、関わってきたが、売り手と商品が同じ人とは見たことがない。

 それに、リリの記憶で見た。体の制御本能を外してまでの殴り、"リリ・ハンナ"がそんなことできる訳がない。


「悪いこと?いいえ。それは傲慢です。辛いことを思い出したくないのは当たり前です。忘れたくても勝手に浮かんでいて、前へ進むことができない人もいます」

「ふぁっ!自分のことを言ってるみたいだな?白玉~」

「……誰でも貴方のように強くはないです」


 "正しいこと"を言ってて、自分に咎める視線を向けた白玉を見て、海唯はわざとらしく肩をすくめる。


「それより、魔獣って肉食動物の範疇に入れる?追われて、噛まれて、ひっかかれるっていいよな?」

「……はい、そういうことになります」

「へ~つまり"同質"でいいよな?ちなみにだけど、魔人とかなら?」

「主体ではなく、……"経験"です」

「よ~しっ、上出来ぃ~」


 そう言いながら、海唯が椅子をベッドの隣に引いて座り、リリの顔を無理やりに自分を向けた。


「『白玉、覆え』」って命じた海唯はリリに聖魔法を流し始めた。それで発生したさざなみが白玉の方へ流れ、唱えの文字へと変わってリリの周りを包んだ。


「『忘却の影、變わる幻、混沌せん記憶の波乱。未来を葬り去りし闇に告ぐ、過去の面影を覆い、新たなる未来へと変貌せよ!』」


 海唯の魔力で白玉の魔法を形成する。

 こういう形なら、海唯の記憶もリリの記憶も白玉は見ずに済むから、海唯はそうしたのだろう。その行動はどっちを守ってるのかは知るようがないけど、少なくとも海唯は自分の"過去"を知られても何とも思わない人。


 だって、海唯はちゃんと理解してる。自分には"それ"しかないってことを。


「……どうしたんですか?海唯」ベッドの前に立ち止まって、ぐっすり眠っていたリリを見つめていた海唯に、白玉はそう聞いた。


 リリには"子供を生んだ記憶"がない。でも、"妹"と自称した6才のガキが確かに来たし、名簿にも『子供が1人』って書いてあった。


 なら、その答えを知る人は……。


 そうフリーズして考え込んだ海唯。

 廊下から声が届いてきた。


「お疲れ様です!アキレス団長!」


 アキレスは医者と一緒にリリの病室へ向かってる。


「傷の具合もそうですが、リリ・ハンナの精神状態は非常に不安定な様子です。話しを長く伸ばさないでください」

「ああ、ありがとうございます。先生」


 医者がそう言いつけしながらドアを開けた。

 そしたら、窓から入り込んだ風が一気にアキレスと医者の顔へ吹いた。


「あら?包帯を替えられたのですね」医者がリリの具合を見ながらそう言った。

「先ほど、医療バッグを持っている看護師さんが入ったんです。その人が替えたでしょう」門衛をしてる騎士が答えた。


「ん~窓も看護師さんが開けたのかしら?リリ・ハンナはまだベッドから降りれる体では……?!……なんという奇跡か!?真皮までの裂傷も、折れた骨も、治っていたなんて!」


 医者がぐちゃぐちゃに巻いてる包帯を巻き直してると、包帯の下の皮膚を見て驚いた。

 その声のせいで起こされたリリの反応も、前とは別人のように落ち着いてて、明るくなってて、更にびっくりした医者だった。

 でも、その代わりに……


「よくあることです。このような場合は無理やり思い出されるのはよくないです。団長さんの立場上、捜査にはお困りになるでしょうが、医者として患者さんを守るのは私の責任です」

「……日を改めます」

「はい、ご理解いただき感謝いたします。アキレス団長様」


 今まで起きたことは全部忘れたみたいで、リリは自分がどうして病院にいるかすら分からなくなって、事件に関することは何も聞き出せないのだ。


「いつ離れた?」


 アキレスは病室のドアを閉まり、第二の団員に訊いてた。そして、自分が来る少し前だって知った後、早足で病院の職員室に向かってた。

 離れる前に一個、命令を残したが、団員にはその意図が理解できない。


「リリ・ハンナを部屋替えさせて、魔痕調査局にこの病室の調査依頼を出しとけ」

「?…はい」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ