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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
41/159

6-04

話が見えない喋り方はインテリっぽいと思わない?04


「……な…し……はな……」

「ま……お……」


 瞼は開いてるのに何も見えない。どこから喋り声が流れてきてるが、よく聞き取れない。体は重い、手足も動けない。

 体が柔らかいものに包まれてが、何だか蒸し暑くなってきたクレインはもがきながら腰を捻じ、手足をドタバタしてた。


「何してるんだ!さっさと離せ!海唯さんー」

「まーまー、だから落ち着けって~」


 海唯の手がカファロに縛られて、2人が言い争ってる……いいえ、海唯はただ遊んでるクソガキのような笑顔をしてる。

 やっと見えるようになってから一番に目に入ったのは海唯の顔ってことが何だかデジャブに感じたクレイン。だが、そんなことを考えてる場合ではなかった。それは、海唯はクレインに袴って座ってて、両手も海唯に踏まれてるから動けないのだ。

 そのクソガキに遊ばれてるのはまさにクレインだった。


「……何……いや、マジで何してんの?……」


 カファロは海唯の両腕をかかえて、クレインの上から引きずってる。海唯の手が黒い布を持ってるようだ……目開いても見えない原因がそれか!って心の中で叫んでるクレインはそう訊いた。


「あ~ほら目覚めたじゃん~」


 海唯は残念そうにカファロに文句言ってながらソファーに置かれた。


「クレイン様すみません、こいついきなりクレイン様の足を縛って、目も隠せようとしてまして……」


 カファロがそう言いながら、クレインの足の縛りを解けてる。


「まーいい!クライン、私は誰だ?」

「は?海唯…だろう?」


 海唯の質問に変と思ったが、素直に応えたクレインだった。


「じゃ、こいつは?」

「??カファロだろう?」


 クレインはベッドを下りて、自分で着替えながら海唯の質問に答えてる。それを見てなんだか思うことがあるカファロだが、やっぱり表情筋は死んでる。


「寝込んだ前にどこ行った?」

「街を回ってるだろう?貴様の服も買ってやった。あっ、お金払ったのはアキレス団長だが……だから先から何?」


 クレインは屏風の後ろから頭を傾けて海唯とカファロを見てた。その返事を聞いて、カファロが微妙な目線で海唯を見る。


「何故寝込んでたの?」

「そりゃ貴様が蒔花閣(じんかかく)で………え……」


 返事を止まったクレインを海唯はまっすぐ見ている。そしたらクレインは目線をそらし、屏風の後ろに頭を引っ込む。

 服のボタンをしてる手を見て、必死に記憶を呼び戻そうとしてるだが、クレインは何も覚えていない。蒔花閣(じんかかく)に行ったのは覚えてる。女の子のお姉さんを助けたい気持ち、青楼の女子への憐憫、青楼の主のスピリトへの怒り、は覚えてる。のに、蒔花閣(じんかかく)で何が遭ったのかだけは覚えていない。


 ドアノックの音がその思考を割り込んだ。


「クレイン様、よろしいでしょうか?」

「ああ、どうぞ」


 部屋に入ったのは魔法科の主任-ウルバニ・カストロノヴォだった。彼が部屋に入る途端、海唯もここにいるのを見て表情が変わったがすぐ何もないのように戻した。

 海唯はそんなことを見逃すわけはない。一瞬の表情変化、そして、何もなかったのようにクレインの体調を検査すると言って人払いをしてるウルバニ、こいつ絶対何か知ってるって海唯はそう思った。



「どこか具合の悪いところはありませんか?」


 指でクレインの手首を置いて、聖魔法でクレインの魔力循環を検査しながらウルバニはそう聞いた。魔因子は通常運転で、魔力欠乏も緩和しつづある。それなのにウルバニはそう聞いた。


「大丈夫です。ありがとう、カストロノヴォさん」

「そうですか……近頃はあまり魔法を使わないでくださいよ」


 ウルバニは淡い笑顔で微笑んだ。

 騎士団員は魔力耐性の訓練を受けているから、魔物や魔人の魔法に自分の魔因子を守れるが、クレインはそんな訓練を受けていない。なのに魔人の魔法に入って、何の防具もなく直接魔人の魔力を接触した後も魔因子は何の異変もない。

 今のところまだ謎の多い海唯はともかくとして、少なくとも"クレイン・ハーディスには"ありえないことだ。


「うん、分かりました」

「では、失礼します」


 クレイン様は戻ってからどこかおかしいだと考えてるウルバニ、その一方、クレインも周りの変化を薄々と感じていた。周囲から自分に対しての反応が何か変だと思った。

 周りの人にとって4年も姿を無くした王子様だが、クレインにとってはただ昨日の今日の出来こと。見慣れている場所のはずなのに新しい環境に放り込まれた感覚、クレインはどうしたらいいのかを分からないが……


「よう~もう出かけていいのか?」


 ウルバニがドアを開けたらすぐ頭を突っ込んでくる海唯の笑顔、そして、その隣で自分を待ってるカファロ。

 クレインが自分でも分からないが、なんか、ホットした感じがする。


「できません。クレイン様は今は安静しなくては」

「はいはい~」


 海唯のチャラチャラした返事にため息をしてるウルバニだが、第三騎士団の副団長も付いてるから大丈夫だろうと測ったウルバニはクレインに礼をしてここから出ていた。


「そんじゃ行こうか~」

「何処に?」


 先ほど注意されたばかりなのに、海唯からの誘いをそのまま乗ったクレインだった。どうせ、海唯のことだ。言っても話聞かないし、それにこの、3人が一緒にいる雰囲気は気楽で、座る心地がいいから。


「王立国家大図書館です」


 ほら、やっぱりカファロも乗った。そう思って嬉しそうに頭を縦に振ったクレインは2人を引っ張って、昔偶然見つかったガーデンにある裏道から王宮を出た。


「やるじゃん~」新たの情報を手に入れて、ニヤニヤしてる海唯。

「こんなところに空け穴があるとは」感嘆してるカファロがクレインの服に付いてる葉っぱを弾いてる。




 周りの店はその他大勢に分類されるような、立派に立ち上がってる途方もなく大き建物。その華麗さは王宮にも負けていない。

 鏡のように透き通ってる方形の池を周り歩く、半円形の階段に上り図書館のロビーについた。ロビーからでもはっきり見える。ここの蔵書は天井まで昇る階段のように、視界に収まるのはとにかく本だ。


「な、読み放題か?無料で?」

「もちろんです」


 海唯は全身前かがりで受付のお爺さんにそう聞いて、肯定の答えを得た後あっという間にいっぱい本を持ってきて席に付いた。


「うわー…絵本から魔法書…哲学に言語学……うわー」


 見た目に依らず読書趣味があるとはって隠せずに驚いたクレインだが、文字の解読に忙しい海唯はその失礼な目線を無視した。

 カファロはそんな真剣な顔で何を読んでるだろうと好奇心満々のクレインがこっそり覗いていたが、お笑い漫画を読んでる。


「……うわー」って小さく感想を示したから、クレインも適当に一冊の本を持ってきて読み始めた。


 天井の窓から落としてる光。本の匂い。この区域にいるのはクレイン達だけで、3人は会話してないが気まずくはない。

 横から僅かな息の声にクレインが気づいた。カファロは漫画を開いたまま机に伏せて寝ていた。笑い漫画を見てるのもギャップが凄いのに、そんなの見てても寝れるんだって笑うのを耐えていたクレインだった。


「おい、海唯、見てっ……」


 カファロが寝てたのを教えようと思ってたクレインは向かいに座ってる海唯の方へ話をかけたが、話の音が止まった。黙って紙で文字を書き並んでる海唯が急に遠く感じた。

 クレインは海唯の隣に移動して、机に伏せて覗き見のようにその書き込みを見てる。綺麗に書かれていた一つ一つの文字や単語が列に並んでて、でも何してるのかは分からないクレインは見てるうちにそのまま寝込んでいた。

 海唯が執筆を止め、自分の周りで寝てる2人を見てから、筆を置いた。


 穢の影響や魔族の侵害は遠い話のように、ここにいる人々は誰もが気ままに、いつも通りに暮らしてる。

 そんな簡単に見知らぬ奴を優しくして、素性の知らない奴を友達と呼んでいて、悪者を知らない顔で寝ている。


「……『当たり前のように持っているクズ共を見ると反吐が出る』…か……」


 海唯はクレインとカファロを見ていて、閑靜な図書館を見ていながらも、あの男(マスター)の声が脳に根付く。


「……そんなの、欲に出たからそう思うようになるんじゃない?」


 鼻で笑って、もうこの世界の文字の序列や文法の規則は大体把握した海唯は本を畳んで、本棚に戻していく。本棚の間を歩いて、螺旋階段を登っていて、本棚にかかってるはしごに座って頬を支えながら下の方へ見ていた。


「私はマスターと違って、見るだけだから大丈夫だ、うん」


 ふいと、白いモノが海唯の視線を遮った。


「貴方はもう少し人間味を覚えたらいいと思いますが……」


 海唯の言うことは本気でそう思っていて実現していたし、これからもそうしていくことが変わらないから、やれやれの口調で白玉がそう言った。


「出来たから私の前に現したんだな?クレインの記憶を見せろ」海唯は白玉を無視して、淡々とそう言った。


 この前、白玉にアキレスの記憶を求めた時は"海唯の聖魔法がアキレスの魔法を消したから見えない"とか言い逃がれたが、契約した時は白玉の記憶を見たからそのことをチャラにしてやった。でも、白玉はもし今度もそうやって逃げようとしたなら、契約解消のついでに口封じもしようと考えた海唯。

 白玉が前足を海唯の額に伸ばして……パッって海唯に引き離された。


「記憶を渡すだけですから、大丈夫ですよ海唯」白玉はふわふわの尻尾で海唯の手を掠って、子供を慰めるように言った。


 海唯はそんな白玉を見て、暫く瞼を瞬きしてから白玉の前足を握って、自分の額に軽く置いた。肉球の感触だ。



 それはクレインが戻った最初の日の出来ことだ。

 国王が微笑んでクレインの頭を揉みながら、両腕で強く抱きしめていた。


 本当に抱きしめられていた訳じゃないが、第一人称でこの記憶を見ていた海唯は凄く気分が悪い。


 他の人が見れば心微笑ましい親子団欒である場面は、国王の後ろに立ってる第1王子-コルフ・ハーディスが憎くて、冷たい視線で見ていた。

 視界が段々コルフに近づいて、飛んでた。クレインがコルフへ飛んで抱きしめたのだろう。


 こいつ、人の顔色読むの下手すぎだろって海唯は本気にそう思った。


「おかえり、クレイン」なんとコルフは笑ってそう言った。


 そして、夜。晩餐会で国王、コルフ、クレイン。3人が時々会話を挟んで食事をした。

 クレインの記憶を見てるだけで本当に食べてる訳じゃないが、口元に運ばされた肉が目前にしてると、海唯が両手で口を塞いて、吐き気を催す音を抑えていた。白玉は海唯の隣で座り、肉球で軽く彼女の太ももを叩くことしかできない。


 クレインの部屋にノックなしに入った人が居る。視界がもう一度飛び上げってる、でも、今度は突き落とされた。


「絶対、戻に戻してやるから、おとなしくしてろ」コルフが怒りを抑えてる声で睨んできた。

「コルフ兄?……どうなされましたか?」


 クレインの声が震えてる。まるで始めてそんな兄を見たよう、後ろに引き下がってる。


「とぼけるな!人の弟の魂と入れ替わったクソ魔人め!」


 視線が高くなっていた。コルフが襟を掴んで引き上がったからだ。


「この体に毛の一本でも傷付けてみろ!絶対殺してやる!」


 そして、ソファーへ投げられた視線が天井に止めた。またコルフの後ろへ付いてきたが、コルフが振り返ずにドアを閉じて出ていた。


「……あの時、本当にコルフ兄なのか……何で?……」


 クレインがボソつく声が聞こえた海唯は、クレインが誘拐された事があるって言ってたことを思い出した。


 翌日、国王の態度や家庭教師の先生の態度も変わった。一変してまったく違った訳ではない、悪態度にされた訳でもないが、明らかにどこか違和感を感じた。


 記憶はそこで終わった。



 もし、あの誘拐は本当に第1王子が企んでたのなら、あの時から既にクレインの魂が入れ替われたのか?……それを確かめるために、まずあの時一緒にいたお友達を探さなきゃって考えた海唯だった。


 ---確か……エカ、ロカ……シオセと…ライナだっけ……あの腹黒王子め!仕事増やすんじゃねーよ!ハアー…


「寝てる時間を除いて7時間くらいが限界です」白玉がそう言って、頬で海唯の手のひらをスリスリした。


「魂を入れ替るって可能なのか?」

(わたくし)は実物を見たことがないですが、古事記では生霊ノ母と呼ばれてる神木から咲いた花はそういったことができます」

「古事記って……」


 ここは異世界というより、ただ魔法が科学を取り替えて立ち上がったパラレルワールド、そうでなければ、どの世界でも"頭はお花畑な人が大半を占めてる"ということが証明しただけだって思っていた海唯だった。


「でも、その神木が花を咲いたことは見たことないから、(わたくし)からは何とも言えません」

「どこにあんの?その木」

「北大陸に向かとその途中には白銀大森林があります。その中に最も大きい木がそうです」


 ---はあー…次から次へと~~~銀髪くんに聞いても変に疑われるよな~ああ~めんどくさそう~



「すみません、図書館に契約魔獣の持ち込みは禁止ですわ」


 はしごの下から柔らかい声が届いてきた。


「ん?」




 話が見えない喋り方はインテリっぽいと思わない? 完


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