5-02
笑う門には……何だっけ?死に戻る? 02
「結界を作って身を纏え!できないのか?!」
アキレスは実際そうしているから、異質系の魔法使いならこのくらいできるだと思っていた。
でも実際、不規則の結界を作るのに、精密な魔法出力ができない人には無理だ。そして何より、ほぼ全系統の魔法が使えて、且つ、精密的に魔法のコントロールができる人はそうそういないのだ。
これも、アキレス・ザックウェーバーがこの若さで第二騎士団団長に務められた原因だ。
「ダメです!海唯!空間ごとぶ飛びます」
海唯は異質系っていうのは嘘だったが、白玉が言ったのは嘘ではない。
聖魔法でも聖域という結界まがいなことができるだが、今の海唯には魔法の出力を制御することはできない。つまり、100の力に戻った途端、この亜空間は丸ごとぶっ飛ぶのは事実で、中にいる生き物も皆、跡形もなく消滅される。
「お前、まさが忘れられた物への転送しか用がないのか?」
「……ま、魔因子が見えます」
海唯は白玉を絡みつく鱗蛇獣を4段にばらまいて、白玉の耳元で聞いていた。
「下!」
アキレスはそう言って、いきなり白玉を蹴り飛ばした。下から一気に天井まで貫通した莿木を避けさせた。
海唯は後ろに跳んで、毒蝟獣の針にぶつかりそうと思ったら氷壁に当たった。その後、氷壁が一瞬に水となり毒蝟獣の下でまた変形して、毒蝟獣を串刺した。
海唯も後ろへ跳んだ時、2本の爪を投げ出して、アキレスの後ろの壁から手の形で出した泥水のような軟体へ射し込んだ。
泥䖳獣が消されて、窓が閉じた。
アキレスは白玉を拾い、次の部屋へ進んだ。
海唯も同時に棘木を踏み台にして、移動される前に次の部屋へ跳び入った。
「ははは~この部屋も先のようなスリルだったら、面白くなるな~」
「はあー、カファロとクレイン王子は無事だと……全部が先のような部屋ではないことを望む」
「今のところは大丈夫そうですよ、クレイン・ハーディスの魔因子はまだ見えます」
「先の泥䖳獣……そっか、ありがとう、白玉」
アキレスは白玉のその一言ですぐ、窓を塞いだ泥䖳獣の魔因子の居場所を見破ったのは白玉だと理解した。
「いいえ、お互い様です。私こそ、ありがとうございます」
「いやいや、殺ったの私~」
海唯はヒビ入ったナイフをしまい、毒蝟獣の針に持ち替えて、アキレスが部屋の窓を開けるのをニヤニヤ見てた。
「白玉は魔因子が見えるよ~探させないの?攫われた女達を」
「……邪魔するじゃなかったか?」
ガッチャ。部屋がまた移動した。
今度は雑魚魔獣で、質は大したことじゃないが、量は数え切れない。
殺しても、殺しても、ウジのように湧いて来る。
「いいえ、茶番ってのはさー、クレインが女達を助けるって言ったことだよ?人助けは興味ないが、人助けする奴の邪魔なんて野暮なことはしないよ~」
「言ってることが矛盾だ」
ガッチャ。部屋がまた移動した。
海唯とアキレス、二人はおしゃべりしながら、魔獣を殺しまくってる。部屋中は魔獣の色とりどりの血で満ちていた。
白玉はタンスの上で座って、毛並みを整っている。
「矛盾じゃないよ?まっ、銀髪くんは分からないだろうね~」
灰鼠獣の群れ、最後の一匹をとどめた海唯だった。
ガッチャ。部屋がまた移動した。
「お前と話す度、頭が疲れる」
アキレスは氷塵をバラ撒いて、粉蝶獣の大軍を一気に焼き付けた。
「精霊魔法の各種をマスターして、混合な運用もできるとは、さすが第二騎士団団長です」
白玉は思わず讃頌の声を上げた。もはや完全にお芝居を観る気分だった。
「うわっ!これ火だろう?青い火~」
海唯は床の間であぐら座して、先の部屋から持ってきた一匹の灰鼠獣の屍体をバラ撒いて、青い火へ投げ込んだ。
「目が据わってるぞ」
海唯は笑ってるのに目がまったく笑ってない。何かを睨んでるように見えた。
アキレスが指で海唯の頬で垂れてる返り血を拭いてて、海唯の瞳に吸い込まれた。
真っ黒の瞳に青く揺れる火が映ってる。星空のようだ。
青く輝く火が海唯の蒼白い肌に生気を齎したよう、側から見て、橫顔の輪郭はキレイに絵描かれてる。
「な……今更なんだけどよ~窓と障子しかないから、窓か障子かを潜るって……普通そう思うのか?」
「!?……そっか……確かに……」
アキレスが海唯の言葉を聞いて、何かを思い出したよう、粉蝶獣の屍体を燃えてる床を見つめてた。
「え?何ですか?何か見つかりましたか?二人共」
白玉はまた状況外だった。
「白玉、クレインはどこだ?」
「え?あ、えっと……ここから上5つ、左7つのあたりにいます」
「よ~しっ!銀髪くん~ぶちかませ~~~!」
「っふ、お前が先に気づくとは」
「ひゃはは~褒め言葉として受け取るよ~」
「褒めてるだが?」
アキレスが竜巻を起こし、左上方向へ吹き込んだ。
ガラスが割ったようなキレイな音がした。
「わーなんだっ!びっくりした!」
そして、クレインの声も聞こえた。
カファロがクレインの前に立って警戒していて、破壊された穴から見てみようとした時……
海唯、アキレス。貫通できた通路にあるアキレスが氷で作り上げた階段を上った二人にばったり合った。
白玉はいつの間にか消えた。
「よ~この様子じゃ雑魚魔獣とやりあったばっかだね~」
海唯はクレイン達がいる部屋をざっくり覗いてて、クレインとカファロのボロ具合を見てて……
「弱っ」
って、ムカつかせるニヤ顔でクレインとカファロにそう言った。
「なっ!貴様だって、血まみれだし!それに何か臭いだし!」
クレインはムカッてきたが、カファロは気づいた。
海唯は確かに服が魔獣の血で汚されてるだが、それだけだ。傷一つもなくて、服もほぼ破れていない。
その身に付いた大量な血の跡の割に、キレイ過ぎる。そして、アキレスもそうだ。
一方、カファロは服が切られて、血が流れているし、クレインも魔法の過重使いでへとへとだ。
「はあ?臭いのは当たり前だ!一週間風呂に入ってないから!」
「そこー?!ってか、汚っ!風呂くらい入れよ!」
「うるせー!時間ないんだよー!」
「うわっ!マジで臭い!近づくんなっ!」
カファロが言い合ってる二人を引き離して、とりあえず落ち着かせた後、4人が状況と情報を交わした。
どうやら、殆どの魔獣は海唯達の方へ行ったようだ。そして、部屋の移動は一定のルールに準じてるだが、循環することが分かった。
クレイン達も貫通した莿木を見て、それに沿って登るつもりだが、見えない膜が張られて、そこからでは部屋を出られないだって分かったから、壁を壊して出ることを諦めたが、まさかアキレスが成功した。
4人は氷の階段を登って、先聞こえたガラスの割った音の正体が分かった。
結界だった。部屋だらけの空間を丸ごと覆われていた結界が、破片になってバラいていく。
出口のような結界の破口にあるのは一つ大きな檻だった。
「こりゃ……予想外だったねー」
"探す"方法を練っていたが、案外向こうから"見つける"ようにしたとは思わなかった海唯は小声で言った。
檻の中に攫われた女達が隅っこに縮めていて、泣き喚いたり、助けを叫んだり、食わされたりしてた。
魔物達も同じ檻に囲まれて、一つ一つ、少しずつ、食っている。食事と寝るのを繰り返していた。
檻の中の女の子がクレイン達に気づいたようで、皆希望が見えたよう、パンパンって檻を叩いた。「助けて」って叫んでる子のうちの1人が魔獣に後ろから腹を刺され、後ろへ引きずり込んだ。
女達の泣き声がますます惨烈になり、魔獣の食事と寝るの2パタンは変わらず続いてる。
クレインはこの光景を目にして、一瞬フレーズした。
カファロは怒涛し、必死に檻を切って、破りあげようとした。その音でクレインは正気を戻し、檻を隔てて火で魔獣達を攻撃した。
魔獣も同じく檻から出られない。牙で檻を噛んで、爪で檻を引っかかって、大叫んだ。
「ひゃっはあっは~ふはははは~」
海唯がまた笑ってる。でも彼女は今、毒がある毒蝟獣の針でアキレスの喉を指してる。一歩でも動いたら容赦なく挿し込む殺気で、笑いながらアキレスを見てる。
「貴様は何をしてるのだ?!」
クレインが海唯に向かって怒鳴った。魔法を放つことを気が散ったその一瞬で、火から開放された魔獣達はドンって檻を破り一気に外へ飛び出した……海唯とアキレスのいる方向へと。
---ほう~やっぱりか~
海唯は難なく避けていたが、魔獣達が全部アキレスの方へ行ったのを気づいて、そこでやっと、あの"通信石"の意味が分かった。
アキレスは何で魔獣達が全部自分に向かってるのは分からないが、都合いいと思った。アキレスは先の部屋へ飛び入った。貫通する穴ができたけど、部屋はまだ移動してる。
窓と障子を開けて、魔獣達を部屋の中に閉じ込められた。
"茶番に乗った"ことになるのかは知らないが、少なくとも、海唯は今"邪魔に"入ってないのだ。
魔獣をその場から引かれていたが、そんなに都合いい展開になるわけがない。
魔人が現れた。
複数の着物を着てる同じ姿の魔人が、邪魅の微笑みで女達を掴み、口から何かを吸ってるようだ。透明な流れは魔人達に吸い込まれていく。
「はぁ~恐怖の味最高でありんす~」
一直線で斬りかかっていくカファロは、一撃で壁に挾まれるほどの強打を受けた。
ずっと聞こえてる海唯の笑い声がますますカファロをイラ立たせて、カファロはよろよろで立ち直って海唯の襟を掴み上げる。
「助けを呼んでる人が見えないのか」
カファロがそう言って、海唯を睨み付いた。
彼は第三騎士団の副団長だ。どんな時でも、民の命を優先するのだ。
そしたら、海唯は当たり前のように平然と小指で耳を掘った。そう、何の返事もなかったが、その動きで返事した。
「お前は強いのに、何故強さ故の責任を放棄する!」
カファロは凄く怒ってる声で言った。が、それだけだ、海唯の前では自分は何もできないって知ってるから、余計悔しんでいる。
「第三騎士団の副団長が説教で時間を無駄にして、助ける者も助けなくなるのって、責任放棄?」
海唯はただ笑って坦々と言った。
カファロは海唯を払って、魔人に掴まれてない女の子を助けに向かった。
クレインは火で必死に魔人を隔てようとしてるが、効果はあんまり良くないようだ。
「王子様~火だけじゃ~……」
「黙れ!気が散る!」
拳を握って、クレインは海唯に構う余裕はない。火を放ち続いてるが、どんどん弱まっていた。魔力を絞り一生懸命魔人を女達から離させたクレイン。女達はクレインの後ろで縮み、震えている。
魔人達は倒れていた人から魔力を吸い続いてる。
その時、海唯の隣から突然魔人が現れて、甘い声で話しかけてきた。
「汝はどうするでありんすか?」




