表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
30/159

4-05

職業:傭兵。種族:ペット。性格:最悪。05



「何だ?こいつ……怒ってる?」そう思った海唯はただただ困惑している。


ひと握りで折られそうな細い腕に、明確なラインをしてるくびれ。ほぼ全身に包帯で巻かれた体から少し滲み出る血の跡がもう乾いた。怪我は治ってない、でも痛みは感じないようだ。


「何か用?」


第三騎士団の訓練場で見かけた時、折れてる左腕はもうくっついたようだが、カンザキラで突然のように現れた腹のところにある傷は……


「もしも~し、聞こえる?」


アキレスが触れようとした時、海唯に避けられたから、まだ完全に治ってないと分かった。


「あそこで何をしてた?」

「これが物事を尋ねる姿勢か?」

「俺の手を払わないのか?」

「お前の目的によるだが?」


第二騎士団の重症者達の病室にほんのわずか、海唯の魔力のさざなみの匂いが残ってる。

聖女の東雲薫がそこに倒れているから、また"聖女様が齎した奇跡だ"とか周りが騒いてるんだが、開けっ放しの窓の真下に海唯が"昼寝"してる。

カンザキラでの色々な妙なできことを加えて、海唯は絶対に何か知ってる、あるいは、何かしているだと考えたアキレスだった。


「聖女様とは知り合いか?」

「この国に聖女様を知らない人いるのか?」

「質問に質問で返すのはお前の逃げ方か?」

「……はあー、銀髪くんよ~私だって時間が大事にしたいんだよ?無駄ことと面倒ことなんてマジで避けたいんだよ?言いたいことははっきり言ってよ~」


アキレスは海唯を掴む手を離したが、出口を塞いた。


「……聖魔法は使えるか?」

「いいえ」


海唯は話の続きをさせないよう、まっすぐではっきり否定な答えを出した。


「確かに魔因子によって幾つの系統の魔法を使える者はたまにいるが、あいにく、私は異質魔法しか使えないんだ」

「カンザキラで俺の魔法は消されたが、どう説明するか?」

「"無から有るに"とは異質魔法だろ?。だから精確に言えば"消した"じゃなく、結界を作って"魔法の結果"を閉じ込めて、"移動させた"の方が合ってるかな。結界の応用の一つだよ」


一度疑われたら疑いの苗が抜かれきれないから、海唯はアキレスに魔法を出せと言って、目の前でその魔法を"移動させた"。消したのをバレないように、アキレスが氷を放つ瞬間ではなく、形になった後で消したのだ。


「交換条件としたポーションは?」

「聖女様が作った」

「どうやって手に入れた?」

「盗んだ」

「王宮から?」

「セキュリティ強化したほうがいいよ」


聖魔法の使い手だと疑ってると言っても、流石に失くした目や切られた手足をポーションだけで元通りに戻すのは無理あるだ。が、それは聖女様が作ったポーションなら、話が違うのだ。

だから、今は泥棒だと思われてる方が聖魔法の使い手だと疑われるより都合がいい。

そして何より、黒を持つ者の"評判"は基本よくないから、曲者に思われた方が逃れやすいかもしれない。

っと、海唯はこれを基に咄嗟で嘘話を紡ぎ上げた。


やっぱり、情報は大事だっと密かに思って、海唯はニコニコとアキレスの質問に二つ返事で答えた。


「確かに私はその部屋の窓から落ちたが、それも聖女様とバタッり会って逃げようとしたからだ。何で、聖魔法が使えるって思ってんのかは知らんが、そもそも、私は誰かを助けると思う?」

「ずいぶん正直者になったな」

「正直に言わないと離されるつもりないくせに~」

「っふ」


海唯が知らないのは、アキレスが疑ってるのはその聖女様と一緒にこの世界に召喚された"付き物"だ。

異質魔法の線はとっくに思い付いて、友である魔法科科長-ウルバニ・カストロノヴォに調べさせ済みだ。海唯の魔力は検知できない分、はっきり断定できないんだが、今のところ"付き物"の特徴とだいたい合ってるのだ。


167くらいの細身。双黒なのに魔力が不明。王宮を見つかれずに出入りできる。全身傷だらけ。


「……以上、銀髪くんの質問タイムもういい?じゃ解散~」


アキレスは黙り込んだのを見て、そろそろ逃げようと考えた海唯はニコニコ笑いながら、アキレスの手を退かし、出ていた。



「嘘をつくの上手ですね」


耳の側から声が響き、白玉がポンっとタッグから出てきて、海唯の肩で巻いた。


「お前の記憶に感謝だな~なにせ、情報がないと"交渉"ができないからな~」

「うぅっー…"全部"を見せるつもりはなかったんですが、貴方の魔力を甘く見た私の落ち度です……」

「んで、銀髪くんの記憶見れんの?魔法使ったろ?」

「貴方が消したじゃないですか?」

「"結果"を消しただけだと思うが……まっいいかっ」


海唯は白玉を掴んで、ジーっと見つめてからポイ捨てた。

白玉はまたポンって消えた。



「盗み聞きとはいい趣味だな~」

「わっ!びっくりした!…盗み聞きしてないし!聞こえないし!」


海唯は角に隠れてるクレインの後ろから肩を組んでニヤニヤ笑ってた。


「海唯、貴様また何かやらかしたのか?団長さん相手にいい度胸だな」

「え~何でやらかしたのが前提なんだよ~心外だな~うえっ!」

「失礼しました。クレイン王子様」


アキレスが海唯の襟を引き上げ、クレインから離させた。



「いやー!離して!私は悪くないの!!」


突然の尖った大声に3人とも視線が引かれ、カファロが6歳くらいの女の子を掴んで、服屋へ連れてきた。


「え?!その子は……」

「クレイン様の知り合いですか?」

「ううん、昨日の道裏でチンピラ達に絡まれた子で、海唯が助けてくれたんだ」

「いやいや、覚えにない、誰?」


女の子は足をフラフラし、暴れながら子供の可愛い声で、海唯に指さして……


「その黒のお兄ちゃんはマジンなの!」


魔人だと訴えた。

幼稚な声で店中だけでなく、外まで響いた。


「だから?」


子供は嘘をつかない。人々の視線を感じた海唯は刺々しい目に浴びれるのを慣れたよう、その子にニコニコと微笑みをかけていた。


「えっと…とりあえず、場所を変えよう」


第二騎士団の団長と第三騎士団の副団長が揃っているところに魔人だと訴えられた海唯。その本人がこの状況を面白がって、更に状況を悪化させないよう、クレインはそう提案した。




宿-浮き雲。(海唯はまだ字が読めない)


クレインが先陣を切って皆を連れてきたところは、海唯が宿代を払ったがまた一晩でも住んでない部屋だった。

宿の女将さん、ティーナが海唯たちを見かけた時、美男美少年の勢揃いで大喜びしてて、沢山の料理を部屋まで運んできたのだ。


「それでは、ごっゆくりお休み下さいませ。何かご要望がございましたら、いつでも声をおかけしてください」


顔面偏差値の高さはともかくとして、第二騎士団団長に、第三騎士団副団長、並んで立つのも目立つなのに、自分が経営してる宿の部屋にいるとは、一介の宿の女将さんとして一生考えられない光景だ。



「何でこいつが魔人だと言った?」


先に声を出したのはアキレスだった。


「え、えっと…あのね……お姉ちゃんセイロウに売られて、キレイなキラキラの……お姉ちゃんかえれるって言って……その……」


女の子が指を擦ったり、服を弄ったり、怯えながら声を出したが、全然アキレスの問いに答えてなかった。


「へ~その"キレイなキラキラの"って、私の右手にあるルビーか?それとも、左手にあるアメシストか?」


海唯は見せびらかして、女の子の耳元からマジックのようにその二つを出した。


「え!?アメシスト、いつの間に!?」

「そうで~す、昨日クレインのポケットに入ってたアメシストだよ。ちなみに、ルビーはチンピラたちのね~」

「海唯。盗みはダメだ」

「そうだ!返せ!」


カファロは真顔で海唯に説教して、クレインはアメシストを取り戻した。


「というわけで、私暇じゃないからはっきり言えよ、ガキ」


そのルビーといい、アメシストといい、海唯が盗んだのは事実だ。でも、どれでも、クレインやチンピラたちではなく、目の前にいる女の子から盗んだ物だった。


「っち!綺麗な顔して、やることは汚いね、黒のお兄ちゃん」


クレインもカファロも、女の子の暴言に驚いた。海唯は面白がって二人の肩を叩いた。


「子供の悪意は純粋すぎて気付きにくいから、ドンマイ」

「黒のお兄ちゃんだって、マジンなのに人の姿に化けてたでしょう?私、見たよ、このお兄ちゃんと一緒に森に入る時、目が金色になったのを」


女の子はクレインを指して言った。


「証拠は?」


意外に、それを聞いたのもアキレスだった。


「み、見たの!見たの!本当だもん!」

「急にガキに戻ったな、おい」

「6歳だもん!」

「へいへい~とりあえず、この三人は誰だか分かるか?ガキ」


女の子は戸惑って、海唯が何を言いたいのかは分からないようだ。

それから、話は早い。騎士団の団長、副団長、王子だと知り、女の子は大人しくなった。


「アメシストがあればお姉ちゃんおうちにかえれるから……ごめんなさい、王子さま」

「……ごめんな、このアメシストは俺の大事な物で、あげられなくて……」

「ぺっ!こんくらいくれよ!ミンシュウのゼイキンのくせに」


女の子の先ほどの可憐な姿と潤んだ瞳がまた消えたのだ。


「お前のギャップえぐいわ~でもそれなら私、魔人かどうか関係なくない?」

「あのね……ヤカタヌシがね、マジンだって言いふらして、アキス……アレ…ザック……バー……って人が黒のお兄ちゃんを殺したら、お姉ちゃんを返すって言ってたの……でも、人をきずつけちゃダメってお姉ちゃん言ってたから……お姉ちゃんが、お姉ちゃんがーー!!」

「ぶあははは~ははは~やばっ~ちょうおもしれ~ひゃははは~で?どうする?銀髪くん?ふはは~反抗はするけど~殺していいよ?」


女の子が泣いてる。海唯が笑いすぎてベットを叩いてる。

一方、クレインはアキレスの前に立って真剣な顔で、「待ってください」って言った。

カファロはアキレスの剣を抑え、「民間人に被害を広がる」って言った。


「しない。面白がるな」


アキレスは目を細めて不機嫌に海唯を見つめた。


「おねがい、お姉ちゃん助けて!」

「いやいや、警さっ、第三騎士団に頼めや」


海唯がカファロの方に指して、カファロも頷いた。


「キシダンに言っちゃだめだって……」

「?……言ったじゃん?先」

「……わー黒のお兄ちゃんのせいだーー!!」


女の子はまた泣き始めた。


「だ、大丈夫だ!俺が必ず助けてあげるよ!」

「アメシストくれるの?」

「…それは……」


女の子は更に大きい声で泣き始めた。


「君のお姉ちゃんを返してもらうよう、その館主に直接話に行く」

「……本当?」

「うん!だから大丈夫だ!」


クレインが胸を叩き、そう宣言した。


「任せろ」


カファロも助けると女の子の頭をなでて言った。


「ありがとう、お兄ちゃん達」


そうして、女の子にその青楼の場所を聞き、女の子を宿の女将-ティーナさんに預けた。


「え~じゃ私行かなくてもー……」


そしたら、アキレスが問答無用で海唯を担ぎ上げ、皆仲良く青楼へ向かった。……?


「待て待て待て、お前ら、青楼街に行っていいのか?つうか、騎士団が王子様を連れて青楼街に行っていいのか?ていうか、クレイン、お前青楼って意味分かるのか?」


アキレスとカファロが目を合わせてから、不思議そうな顔で海唯を見た。概ね、"こいつ妙なところに思いやりってもんがあんだな"みたいなことを考えたのだろう。


「何言ってるのか海唯、青楼って名前の街だろ?」

「「「…………」」」


笑うのを我慢した海唯はアキレスの手からすり抜けて、いきなりクレインを引っ張って、ベットに押し倒した。まさしく、壁ドンのベッドバージョン。ベッドドンだ。


「何っ!ー…」


海唯はクレインの唇のラインをなぞって、人差し指でクレインの言葉を抑えた。優しげな笑顔でゆっくりクレインに寄せて、お互いの吐息を感じれる距離まできた。片手を服の布を隔てて、ちょっぴり力を入れながら胸のところまで滑り上げ……


「うわっ!」


アキレスが片手で後ろから海唯の腰を回し、抱き上げて、クレインから離させた。


「子供に見せるのもではない」


カファロが空になったお皿をしまいにきた宿の息子の目を覆った。


「海唯…そういう趣味あんのか?いや大丈夫、偏見はないんだ!個人の自由っというか、アイデンティティっというか……」


確かに海唯の顔はとても綺麗だ。そして、海唯からも妙な魅力を感じてて、思わず目を惹かれるほど付いて行きたいのだ。

……が、クレインはちょっぴり引いた。怖いとも言える。その綺麗な黒い瞳に見つめられた時、吸い込まれるように、無性に怯えた。


「お前ら、本当面白いな~まー精々頑張ってね~」


海唯はクレインとカファロの反応を見てて、へらへらしてそう言った。


「助けると約束したからな!」


クレインはアメシストを強く握ってそう誓った。


「騎士の役目は人々を守ることだ」


カファロは凜然とした顔でそう主張した。


「んじゃ青楼って名前の街、行くか~……あと銀髪くんよ、そろそろ下ろしてくんない?」

「お前は勝手に行動するな」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ