4-04
第4シナリオ 職業:傭兵。種族:ペット。性格:最悪。04
白いふわふわが海唯のお腹にこもって、柔らかい肉球で踏んでいる。
「白玉!?……外出られんの?」
「あなたの魔力を借りて、仮初の姿を作りました」
穢の溜まり場-遺失物で会った、自称管理者である白い狐がまた海唯の前に現れた。
「へ~貸すとは言ってないけど?」
「"記憶"と引換えますよ」
「はい、どうぞ」
「いいえ、まず"契約"をします。あなたがまた先のような魔因子侵略を続けていたら、魂が持たれません。狂って滅びます」
「侵略…自滅……他の魔力を奪ってから自分の物になれないってか?」
「そうですよ!生物の魔因子はそれそれのルールで運転しています。外力で干渉し、ましてや、取り込むとは!自滅を及ばすほど危険な行いです!穢はそうやってー……!」
「へいへい、落ち着け~私は死なないよ」
「答えを見つけ出すまで、ですかね。そして、生きたいではなく、殺されたくない、ですね」
白い狐のその言葉を聞いて何かが分かったよう、海唯はへらへらしてた顔をやめて、いつもどおり、というより、元に戻った。無表情で、無感情で、空洞である海唯だ。
「クラマーの時、"記憶"で"記憶"を覆わせるってな、先も"記憶"と引換えるって」
「っ……そうです」
「そっか、私の記憶で覆わせたな」
「はい」
「つまり、見たな」
白い狐は海唯のその言葉を聞いて、とても苦しいそうな顔した。
「……あなたは空っぽじゃないです」
「そんなのどうでもいいよ、教えて」
「どうでもよくないです!あなたも!あの青年も!背負わされ過ぎです!今更、心をひらけなんて傲慢なことは言いません!でも、少しだけでいい!周りをー……」
「白玉、教えて」
ふわふわの白い毛が立っているほど、切実の懇願を叫んだ白い狐と相反し、海唯は異様なほど冷静で、冷たい声で再び問いた。
「いい加減、首輪を外しなさい!あの青年はもう死んだ!」
白い狐の喚声に答えるのは躊躇いのない石の道まで貫く一撃だった。
昼の激しい太陽を煌き、まっすぐ聳え立つ一本のナイフ。
「……"契約"に必要なのは"条件"です。あなたは魔力を、私は記憶を、それでいいですか?」
ナイフが白い狐の体を透き通した。刺された手応えがない。
少しつづ白玉の口をこじ開けると決めた海唯はまたニコリとした。
「わ~こいつ~正々っとシカトしやがった!はっ、そんで魔力って?」
「仮初の姿を作るためです」
「記憶って?」
「生き物の記憶です。魔力、魔法のさざなみ、魔痕などに触れれば記憶が見れます」
「この姿、他の人が見える?声聞こえる?」
「はい、ですが"記憶の内容"は契約した対象だけ聞こえますので」
「私以外誰と契約したことある?」
「いいえ、あなたほどの魔力純度の持ち主は今まで会ったことがないです。信じなければ、私の記憶を見せてあげますよ」と言いつづ、白い狐が前足を伸ばし、ふわふわの肉球を海唯の額に置いた。
その瞬間、莫大な情報が海唯の脳に襲いかかる。
無理に説明するなら、1秒で何千万本もの映画を同時に見終わったような感覚だった。
それほどの情報量──繰り返す悲劇や地獄絵図が脳に流れ込んだのに、海唯の反応は……爆笑だった。
「ははは~ひゃはははっはは~がはははは~けほっけほっがははっはは~ひゃはふあははっはは~は~笑った~いいね~やってやろうじゃねか~"聖女様"は絶対死なせないよ、白玉」
「……それは東雲薫さんのことを指していますか?」
「そだよ?絶対に死なせないよ、例え死を望んでも」
「……分かりました。とりあえずこれで納得します。私の名は白玉でよろしいですか?」
「いや、別に、どうでも~」
「そうですか。それでは、
『暗闇を分け合い、意識を共に。汚れた救済の意味を見つける日を祈って、失くした魂の欠片を築く日を願う。名付けは"白玉"、契約を基に"記憶"を提供べし。名付けは"海唯"、契約を基に"魔力"を提供べし。誓おう、喜怒哀楽を取り戻す日まで。』
これで、契約を結びました」
海唯の首に掛けているドッグタッグが突然、服の中から浮いてきて、黒く輝かく光って、白玉はそこに入った。
「ここで、何をしてる?」と尋ねている凛とした姿が影となり、草むらで寝転がっている海唯を見下ろした。
「えっと~…よ!銀髪くん~それはあれだ、昼寝的な?」
アキレスが散らかっている葉っぱを見て、上の開けた窓からのザワつきを気づき、何も言ってないでここから去った。
「ふん~そろそろ行こっか~」
「どこですか?」と、白玉は返事した。
「記憶見えるんじゃなかった?」
「いつでもどこでも記憶ばっかり見てるんじゃんないんです」
「はいはい~怒んなよ~王子ちゃまのお忍び世間体験だ」
昼。書斎から出たクレインは、頭を使いすぎたのか、こめかみを揉んでいる。クレインの空っぽな部屋とは違って、部屋の中は満面の本棚に本がぎっしり詰め込まれていた。
海唯がちらっと見回したが、やっぱり字が読めなかった。
ここ数日間に集めた情報から判断すると、魔法を使うことによってどんどんこの世界に馴染んでいくことがわかる。では、その馴染む頻度はどれほどのものだろうか?魔法の量か、あるいは質か?世界に馴染む“範囲”はどのくらいなのか?
それらをすべて実験し、もし解明できれば、古代文字で書かれた《ネーフェの目録》も読めるかもしれない。
もちろん、海唯には「解読」の手段もあるが、それだけではもったいないと思い、最終手段として取っておくことにした。
「やっと終わった~」
「クレイン、乙~」
「クレイン様、国王様の言いつけで、俺達と離さないように、です」
王宮を出て、街を歩いているクレインは、周りをチョロチョロと見回して楽しそうだ。
昼時の賑やかな街。行列を作る人気のグルメ店、路上で小物を販売する行商人、小道の中にひっそりと佇む静かな隠れ家。
「海唯に似合う服を探す」と言い訳しながら、クレインは二人を連れ回している。
「気づいた~?」と、何気なく海唯はカファロにそう聞いた。
「向かいの喫茶店、二階」と、カファロは慎重に答えた。
「まさか喫茶店とはな~」
「ちょうどいい死角の位置で、凄い奴だ」
「ああ、そうだな、凄いのがいるな~」
カファロは、先ほどから3人の後ろに誰かがついていることに気づき、海唯に確認を求めた。
それは、第三騎士団の団員寮に戻った際、団長のリヒルから「クレイン様から離れるな」という護衛任務を受け、警戒していたからだ。
しかし、まさか向こうがこんなに早く行動に移すとは思っていなかった。
「おい、海唯、これはどうだ?試着してみろうよ」と言い、クレインは両手を塞がるほど海唯への服を持って、押し付けてきた。
「また~?何着目だよ?黒のならどれでもいいって~」
「ダメだよ!服を買う時、試着は大事だよ?ショピングを一緒に楽しむのは仲を深める一環だぞ」
「お前、変な本とか見んなよ、ったく」
群れを成して食べ歩き、服を選び、喋り合い、ショッピングを楽しむ。これらは海唯にとっても、クレインにとっても、初めての経験だ。
唯一、このようなリア充体験をしたことがあるカファロも、団長に連れ回されただけで、実質的には3人とも、友達がどうあるべきかは分からない。
それでも、クレインは一緒に同じことを楽しめればそれでいいと考えている。
「あれ?カファロさんは?」
「向かいの店でお酒を買ってきた」
「カファロさんって、酒好きなのか……」
「ん~、凄いのがいるからな~」
向かいの喫茶店の二階には、目立たない看板が掛かっている。看板には、頭が三つある犬が樽を抱え、その中に唾を垂らし、真ん中にある盃が光っている絵が描かれている。
文字が読めなくても、その絵を見れば海唯はすぐに分かった。
「酒だ~!」と、あの時、海唯はそう思った。
つまり、カファロと海唯の先ほどの会話は全く噛み合っていなかった。
「それにするのか?ほぼ全身真っ黒じゃん?」
「いや~クレインのセンス信じるよ~かっこいいと思うよ~うんうん~かっこいいかっこいい!センスいっー……!?」
試着室から足を出したばかりの海唯の腕が、いきなり誰かに引っ張られ、試着室に閉じ込められた。
「アキレスさん!?」
クレインがアキレスを見かけると、すぐに犬の耳と尻尾が浮かんだように見えた。嬉しそうだ。しかし、アキレスはクレインに気づかない様子で、隣を通り過ぎていった。
アキレスの影に収まった海唯は、ただ静かに様子を見ていた。
いつもなら、怪我をしていない時でも、海唯に急接近する人がいれば、すぐに気づくはずなのに、腕を掴まれるなんてありえないことだ。
「……何の用かな?銀髪くぅー……ん?」
アキレスは海唯の腕を掴み、その手の力が強く、まるで逃げることを許さないかのようだった。彼は海唯の両手を高く壁に押し付けて、もう片手が無言で海唯の服をめくり上げようとした。




