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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
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2-04

 人を刺さる時まず、金属にアレルギーがあるかを聞くべきだ!04


「聖魔法で“治癒”を直接かけるしかないですね」と言い、ウルバニは詠唱を始めた。海唯を中心に魔法陣が形成され、淡い光が彼を包んだ――が、その光と共に魔法陣にひびが入り、破片となって消えてしまった。まるで空気でできたガラスを割ったかのように、きれいな音を立てて散らばった。


 ウルバニの顔色が急に真っ青になり、海唯の目線を避けた。


 彼は心の中で思った。海唯は魔人なのではないかと――先ほどのティグレマの異変、自分の魔力をあっさり消し去った力、さらには聖魔法すら抹消できるなんて、魔人にしかできるはずがない……。


「……失礼ですが、魔法を使って見せてもらえますか?できれば聖魔法を」と、ウルバニは真剣な表情で海唯に向き直った。


「……何か怪しまれてるね~」とニコニコ笑いながら、海唯は心の中で『前言撤回!真面目で慎重な奴だ。使えねー』とウルバニの名前を“使えるリスト”から消した。


 その時、ドアが開き、


「っお!カストロノヴォ主任、ここにいらっしゃったのですか?」


 クレインが国王から受け取った命状を差し出した。


「お~クレイン、待ってたよ~」海唯は手を振りながら、『ちょうどいいタイミングだ!デカしたぞ、クレイン~』と心の中でクレインの名前に“使えるリスト”のプラスマークをつけた。


「クレイン王子!?」ウルバニは最初は驚いた表情だったが、命状の内容を読み進めるうちに、何かを理解したような顔になった。


 クレインも自分の記憶について、大まかなことをウルバニに伝えた。


「そうですか、分かりました。クレイン様の件はすぐに調査の手配をします。そして、君は……」


「私、役に立つよ~。これ、いくらでも作れるし、その手に持ってる紙に何か書いたのか知らないけど、穢を消せるのも書いてあっただろ?」


 ウルバニが話を終える前に、海唯はテーブルに数本の紫色のポーションを置いた。先ほどの実験の残りだ。残しておいて正解だったと感じていた。


 これまでの流れから察するに、「聖魔法が使える」というのが最も有効な逃げ口上だった。


 海唯は「魔法が使えない」とは言えない。かといって、ここで何か証拠を見せなければ、ウルバニの疑いは晴れない。その命状があったとしても、一度生じた疑いの穴は塞がなければ、どんどん広がり、最悪の場合、最も悪いタイミングで爆発することになる。


「そうですよ!こいつの魔法量と魔力はとんでもなく強いんです!俺も何度も助けられましたしな」と、クレインは明らかに友達自慢をしていた。


「はは、陛下のご判断とクレイン様のお言葉は信じていますよ。この子に我が魔法科への出入りを許可しましょう。先ほどは君を魔人だと疑い、申し訳ありませんでした」


 どんな系統の魔法でもポーションを作ることはできる。しかし紫のポーションは聖魔法でしか作れず、この国で聖魔法によるポーション製造ができる者はわずか三人。そのうち黒髪の者は一人だけであり、海唯は確かにアデレード王国にとって必要な人材だ。何より、魔人であれば穢れを受け入れることも消すこともできない。


「いいよ~気にしないから~」


「貴様、言葉遣いには気をつけろよ」


「へいへい~クレイン王子サマ~」


「そういえば命状にも君の名前は書いてないな。伺っても?」


 ウルバニの問いに、海唯は指を折りながら言った。


「アデリーナ・フラーキ……モリ・イームズ……ベアトリーチェ・ツィーゲ……エルヴィーラ・リヴァノフ、カロリーネ・ラミー、黒崎沙耶さやりん雨桐ユートン、パクソヨン、ポン……」


「ふざけてるのか?」


「え~本当だよ?信じてよ。パスポートでも見る?たくさん持ってるよ~」


「パスポ…?ふざけてるのか?」


「二回言った~!まーそれより、“三角みかどの目”と“白塵しろちりの血”あるよね?貸して」


「魔法科から魔道具を少しだけ拝借しよう」とクラマーに言われていたが、海唯は文字が読めず、この方法が一番効率的だと思っていた。何しろ、王から直々の許可ももらっているからな。それでもやっぱり、海唯はクラマーのことを狸バアバだと思っていた。


 同時刻、東棟のある部屋。


 偉そうな人々がテーブルを囲み、激しく議論を交わしていた。窓から差し込む光を背に、王は静かにその白熱した討論を聞きながら、散らかった論点をどうまとめるか考えている。


「黒髪の者が持つ無限の魔力量は周知の事実だ。これを我々アデレード王国が手に入れるのだ!」と魔政院の院長が声を上げる。


「その魔力量だけでなく、純度も高いと評価されている。魔道具の品質向上や新商品の開発に役立つと考えている」と財政部の部長。


「得体の知れない者を囲むなど、不謹慎すぎる!陛下への侮辱的態度も見たではないか!我々アデレード王国に諸刃の剣は必要ない!」と内政院の院長が反発する。


「諸刃の剣という点では同意する。しかし利用できるものは徹底的に利用すべきだ。あの穢れの中で泰然自若と振る舞う様子を皆さんは見ている」と騎士紋章局の副長が述べた。


 穢れの話題が出ると一瞬静まり返った。先ほどの出来事とあの心に沁みる歌声が蘇ったかのように、言葉を失うほどの空気だった。


「……お言葉ですが陛下、あの子は我々がどうにかできる相手ではありません。端的に言えば、ストロ・ダースより危険です」と静寂を破ったのは第三騎士団長リヒル・ダーテオ。


「……続けろ」と王は言った。彼は先ほどの取引がやや乱暴だったことを理解している。しかし今の地位に至ったからこそ分かる。敵か味方か、あるいはどちらでもないか。永遠の敵も味方も存在しない。だからこそ危険なのだ。


 ただ、どちらでもない存在は幾分安全に見える。


 王は会話や仕草、表情、目線から察した。海唯は絶対に味方にはならず、敵にもなれないタイプだ。問題は、どうやって下の者に受け入れさせるかだ。


「広場での戦いぶり、異質な動き、相手の恐怖心を弄ぶ戦略、何より穢れへの対策を持っていること……考えられる可能性は二つしかありません」とリヒル。


「魔王か聖女か」と第二騎士団団長アキレス・ザックウェーバーがリヒルに代わって話を繋げた。


 この言葉で議論は再びざわついた。


「男が聖女様なわけないでしょう!聖女様は東雲しののめかおる様です!あなたを死に際に救ったのも東雲様です!」と魔痕調査局の局長が激しく言った。


 彼女はあの時、混乱状態の聖女を追い医務室に向かった。目の前で奇跡とも言える治癒を目撃し、ネーフェの目録にある『彷徨う者を呼び返す』と一致することをすぐ理解した。


「可能性の二つを挙げただけです。穢れを消したものは聖魔法なので、魔族の可能性は低い。怪異森林ミステリオーゾの変異を考慮すると、高純度の聖魔法を受け入れられる人間の出現もあり得る、つまり聖女だと言っただけです」と冷静にアキレスが陛下を見つめた。


「ネーフェの目録では『浄化』と『消す』は全く違う意味を持ちます」と魔痕調査局の局長。


「穢れを消せるほど純度の高い聖魔法は人にとって毒でしかない。触れた瞬間に死に至る。穢れを受け入れるよりありえない話だ」と内政院の院長。


「怪異森林の変異の正体は興味深いが、この世界の人間が高純度の聖魔法を受け入れられないことは実験で判明しているぞ、ザックウェーバー団長殿」と魔政院の院長。


「その点では自重してほしい。『狐狼護衛団シャッカーロの反発を制御するのは大変だ、クソじいじい!』と局長からの伝言です」と騎士紋章局の副長。


「リヒル・ダーテオ」と陛下が呼ぶと、場は静まり返り、言い争っていた家臣たちは息を呑み、その圧に耐えた。


「はっ!」


「君の経験から、あれは魔族か?」王は最終確認をした。国で最強と称される男に。


「穢れを消せるなら魔王ではないと考えます。それに現在確認できているどの魔人にも該当しません」とリヒルは半ば言いかけた。アキレスが“魔王”と言いかけた瞬間、陛下の凄まじい圧を感じたのだ。陛下は「魔人ではない」という口実を望んでおり、『敵になれば恐らく魔王より手ごわい』ことを飲み込んだリヒルだった。


「ああ、分かった。皆さんは各々の立場から国を思う意見をありがとう。来歴不明や諸刃の剣であることは理解した上で取引した。魔人の可能性があっても、利用したいという由々しき事態であることを理解してほしい」


 王は完璧な言葉選びと間の取り方で続けた。


「危険性を承知で王宮に閉じ込めることも考えたが、リヒルの言葉には信頼がある。魔人の可能性がなければ、怪異森林ミステリオーゾへの調査に参加させたい。その後、北大陸への遠征も同行させる。何か言いたいことはあるか?」


 その威厳に反論できる者はおらず、陛下に良い提案を出せる者もいなかった。


「では、第二騎士団の編成が整うまで、一旦第三騎士団に入らせる。今日はこれで終わり」


「「はっ!」」


 リヒルとアキレスが敬礼し、王の命令を承った。


 廊下。


「アキレス坊~」とリヒルがアキレスを強く抱きしめようとしたが、アキレスは見事にかわした。


「何ですか?おじさんノリなら俺じゃなく、カファロに付き合わせてもらえませんか?第三騎士団副団長の仕事ですから」


「はは、酷いの~……無事でよかった、まじで……」


「……リヒルさんは見たんですか?聖女様が聖魔法を使ったのを」


「なになに~気になる?美人聖女に助けられて身を任せるのか?」


 おっさんのわざとらしい声と動きは、見るに耐えなかった。


「え~無視?子供の頃はそんなに可愛かったのにな~あ、はい、分かった、真面目な話しよう」とその言葉で、遠ざけていたアキレスを止めさせた。


「俺が着いた時、聖女様は既に床に倒れて気絶していた。でも、確かにアキレス坊を中心に展開した魔法陣が傷を治していた。腕まで再生したなら間違いなく聖女の魔力だと思う」


「……無意識に魔力を使い、それに耐えられず倒れたのだろう」


「何を疑っているか知らないが、確かな証拠がなければ口を慎め」とリヒルはアキレスの頭を撫でながら言った。


「すみません、そのような意味ではなくて……」


 アキレスはそう言いながら、一本の血のついた簪を取り出した。治してくれた聖女だと知り、お礼を言おうと思って訪ねた際、壊れた椅子の残骸の中から見つけたのだ。


 魔石が取り除かれたそれは、確かに彼が持っていた簪だった。


「ん?アキレス坊のお姉ちゃんがお守りに持たせた簪じゃないか?壊したの?直すところ紹介しようか?」


 リヒルは自然に、その簪に付いた血がアキレスのものだと思っていた。


「聖女様は怪我されましたか?」


「いや、全然。むしろ、お付きの者の方が大怪我をしたと聞いたが?」


「どこにいますか?」


「うわー、勘弁してくれー!そいつのせいで陛下に無茶な命令を受けたよ。魔力もないし、顔も知らない奴を探すなんて俺でも無理だよ?分かるだろ?アキレス坊~」


 異世界の者は魔力がなければ呼ばれない。魔力がなければ魔法陣を通れないからだ。しかし、お付きの者は来た。地下牢に放り込む前に魔力量を測ったが、魔道具はまったく反応しなかった。


「逃げたのか?王宮から誰にも気づかれずに?」


 アキレスは手の簪を見つめ、自問するように呟いた。

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