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傭兵聖女  作者: 崎ノ夜
11/159

1.5-02

知らない人を付いて行くなって教えるが、知ってる人も付いて行かないでって教えたほうがいい。02


「ぶはははっは~!つまり、話が繋がってない~!でも手伝ってやるよ~」海唯は笑いながらそう言った。


「うっ、だよね、こんなむちゃくちゃな……え!いいのか?」


クレインが驚いて尋ねると、「面白そうだし~」と海唯は軽く答えた。


「よし、ではまず第三騎士団や使徒アポーストラより先にその人を探し出そうーあ!具合大丈夫か?今日は休んだほうが……」


クレインが心配そうに続ける前に、「平気平気~それより使徒アポーストラって教会の兵?」と海唯が問い返した。


クレインは頷きながら説明を始めた。


「そう、森に人が入ったって言っただろう、それはたぶん使徒だ。あの森は『アンティクゥスの森』と呼ばれ、魔法の源とされてる。普段は教会の管理下で厳密に魔力の流れを監視しているんだけど、俺たちが結界を破って入ったことで教会は慌てだした。今なら、人探しは当分邪魔されないだろう」


海唯は楽しげに答えた。「おーラッキーだな~」


「次の問題は第三騎士団だな。あいつらは基本国中をふらふらしてる連中だから、避けられるが、今はその“もう一人”を探すためにここレークラ区に集められてる。奴らが動き始める前に見つけなきゃ」


「ふん~お前、色々知ってんな~」


海唯が興味深げに言うと、クレインは慌てて弁明した。「え!?いや!そ、それは……基本だよ!そう!この国の基本知識というか、なんというか……」


「ふん~」海唯は適当に相槌を打ちながらも『第三騎士団を避ける……?』と内心考えている。


「お、俺、本とか読むの好きだから!」


クレインが言い訳のように口にしたら、「まいっか~で、どうやって?」と海唯が尋ねた。


「え?」


クレインはその問いを理解できていない様子で、間抜けな表情を浮かべながら最後の一口を飲み込んだ。預言書の内容を知り、解読中であることも理解している。


そして、第三騎士団の動向を把握し、使徒が当分動かないと推測することもできていた。しかし、どうやら感心すべきところを見落としていたようだった。


「付き物はだ~れ?性別は?身長は?顔は?髪の色は?身だしなみは?分かる?」


海唯は面白がってクレインに問い詰めた。


その言葉にやっと気づいたクレインは「そうだったー!」と、床に膝をついて頭を抱え叫んだ。


それを見た海唯はまた爆笑し、「や~うすうすそう思ったが~お前本っ当面白い奴だな~」と、笑いすぎて涙まで流した。


「どうしよう!その人の顔は見えてないよ!探すも何も王宮から逃げた時点で、誰だか分かんないよ!……」


クレインはそのまま床に向かってぶつぶつと呟き始めた。それを見て、海唯は当分それをネタに笑い続けていた。


「まあまあまあーお前の作戦を聞こうじゃないか~私をどう使いたい?先に言うけど、顔も知らない人を探す魔法なんてないからな~」


そう言いながら、また笑っている海唯は足でクレインの肩を軽く蹴った。


出会ってまだ一日も経っていないが、クレインはすでに海唯の強さを知っていた。魔法を使わずに一瞬でチンピラ3人を気絶させる身体能力、誰にも気づかれずに子供を安全な場所に移動させた速さ、詠唱も必要とせず森の結界を破れるほどの魔力。まさに完璧すぎる人選だった。


真剣な表情に戻ったクレインは、海唯に自分の作戦を告げた。


「ぶはははっはは!いひゃははははは~ゲッホ、コッホ!ひゃははっはははははは!はあーいい!それ、面白い!よくそんな硬そうな頭でそんな計画がよ~」


天真爛漫な少年が言い出す計画に、海唯はまた腹を抱えて笑った。


「問題は特定できるかどうか……」


クレインがそう呟くのを聞いて、海唯が即答した。「いいえ~それなら大丈夫だ!私に任せろ~」


「え!?顔も知らない人を?」


「いひゃははははは~お前が言うか~まぁーすぐ分かるさっ」


そう言ってニヤリと笑った海唯は、その時を心待ちにしている様子だった。


「じゃ、見つけたらこれを」クレインは懐から金色の網に包まれた水晶石を取り出し、海唯に手渡した。


「はいよ~」それを受け取った海唯は『魔法石的なやつかな?どうせ何も起きないから~』と思いながら、またこっそり笑った。


部屋を出ると思われたその瞬間、クレインは急にドアの前で立ち止まった。「……それにその質問、ちゃんと考えて答えるよ……」


「?」


「“その人は、人を殺しても何も感じない人だったら?”って話、ちゃんと考えるから」


そう言い残して、クレインは部屋を後にした。


「ふん~楽しみにしてるよ~」海唯はそう呟き、彼の背中を見送った。



***



アデレード王国、王都・レークラ区。城門付近は、聖女召喚の儀とその祭りを祝う人々で溢れていた。


若者たちは声を上げ、家族連れは子どもを肩車しながら聖女の姿を見ようと期待に胸を膨らませていた。にぎやかな通りには、祭りに便乗した屋台と商人たちの活気があふれ、街全体が祭礼の雰囲気に包まれていた。


一方、左腕に七芒星の紋章を刻む青年たち――第三騎士団の一部もまた、嫌々ながらも任務のためにレークラ区へと入っていった。彼らの目的は、魔力のない“潜在危険因子”の捕縛。その中には生け捕りを面倒がる者もいたが、命令に従い集合場所へと向かっていた。


その頃、クレインは右手の銀色のバングルを使って、レークラ区の七つの門に張られた結界の運行状況を確認していた。


商人や市民に紛れ、誰にも気づかれることなく王宮へと走っていたが、その目は鋭く、魔力の流れと記録を読み解いていた。


アデレード王国の王都には、多重結界が設置されている。一定値の魔力を持つ者が出入りすると、その“魔痕”が記録される仕組みになっており、犯罪が起きた場合には、その痕跡から当事者を特定するための追跡が可能だ。魔痕は個人識別というより、行動履歴としての役割を果たす。


つまり、魔痕が記録されていないまま王都から出た者がいれば、それは“もう一人”――召喚の儀で現れた存在である可能性が極めて高い。もしその者が魔力を持たないのであれば、結界で即座に検知されるだろう。


そして王宮。そこでは、聖女召喚の儀の成功が発表され、人々が祝福のために集まっていた。まるで召喚の成功をあらかじめ予期していたかのように、人々は準備万端で祝いの場へと押しかけていた。


この不可解な動きに、中枢の者たちは気づいていた。しかし、事態を隠蔽しようにも、それは“穢れ”の侵食を認めることになり、王国の威信を揺るがす恐れがあった。彼らは、成功しても失敗しても損のない計算の上でこの儀式を行ったのだった。


庶民にとっても、召喚はあくまで年に一度の祝祭のようなものであり、深い意味を持っている者は少なかった。年々減り続ける収穫や穢れの進行にはまだ気づいておらず、聖女の存在もまた、神話や迷信の一環に過ぎなかった。


そんな祭りの空気の中、王宮の一室では、東雲しののめと呼ばれる女性が、重厚な椅子に腰掛けながら、老いた神官と向き合っていた。


「落ち着いて聴いてください、東雲(しののめ)様」と、髭の神官は手を差し出しながら、懇願するように語りかけた。


「私は落ち着いています。あなた方が言うことをまとめては、この世界は穢という物に侵食され、破滅寸前で、私に世界を救えと申しましたよね」


「さようでございますが……どうか……」


「お断りします。帰らせてくださいませんか?」そう言って、彼女は品よく茶を啜りながら、冷静に状況を分析し始めていた。


「せめてお話だけでも……」老人は困ったように、そしてどこか媚びるような態度でそう口にした。そして隣に立つ仕女に視線を送り、目配せで「お茶に魔法をかけろ」と合図した。


東雲はゆっくりと口を開いた。


「先ほどお話を伺いましたが、次は私の話を聞いていただいてもよろしいでしょうか。まず、化学工学部の学生として、魔法なんてSF要素は胡散臭いもので、正直認めがたいです。しかし、あなた方が先ほど示した証拠に対して、今の私は反論できないので、とりあえずそれを認めると仮定しましょう。


 次に、今の私の問題点は『この世界が穢に蝕まれている』ということではありません。お分かりいただけますか?たとえ私が本当にあなた方の言う"聖女"だとしても、世界規模の脅威に対して、たった一人の大学生を頼るのはどうかと思います。


 それに、まったく無関係な異世界からの女の子に頼るしかないのだとしたら、その世界が滅びるのは必然だとは思いませんか?

 以上を持って、ご自身の世界はご自身で何とかしていただけないでしょうか」


そう言い終えると、彼女はカップを静かにテーブルの上に戻した。その仕草には、まるで期末のプレゼンを終えた直後の、教授たちの質問攻めを乗り越えた安堵としなやかさが滲んでいた。


だが、その内心は騒がしかった。心臓の鼓動は早く、音がやかましい。突然異世界に放り込まれて、平然としていられるのは、元の世界に未練のない者か、あるいは物語の中の主人公くらいだろう。


混乱し、不安定な気持ちを、先ほどの海唯とのやり取りが少しだけ発散させてくれたのかもしれない。そのおかげで彼女は、今のように理路整然と話すことができたのだ。


そのころ、王宮の廊下では――


「うわー、聖女様が美人で頭良さそうな人だが、ちょっと怖いかも……」クレインがそんな独り言を漏らしていた。


廊下を走っていた彼は、つい話の一部を耳にしてしまったが、「盗み聞きは良くないな」と我に返ると、すぐに足を止め、目指していた場所へ向かって再び走り出した。


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