1.誕生から4歳
ぽんぽん進みます。
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意識が覚醒すると私は目の前に飛び込んできたのは豪華なシャンデリアだった。
声を出そうとしても聞こえてくるのは赤ちゃんの泣き声だけだ。取り敢えず体を起こして周りを確認しよう。なんせ今の私には天井しか見えていないのだ。
ぐっ……………………
あれ……………?
ぐっ……!
起き上がれないな。
腕に力が入らないのか?ん、腕、、手?
私は自分の手を見た瞬間全てを理解した。
これは所謂、転生、という物だ。
つまり、私は赤ちゃんに転生した。
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転生したからと言って、今すぐ私が出来ることは何も無い。私は今ただ泣くことしか出来ない。赤ちゃんだから仕方がない。
それにしても、こんなに豪華な部屋だからきっと豪邸なんだろう。すると管理する人が必要になるよな。こういうのって大体メイドさんとか雇うんじゃないのか?
……誰も居ないんだが。
ここはポジティブに考えよう。
誰も居ないと言う事は、私が不審な動きをしてもバレないという事だ。これから早く歩けるように手や足を動かして慣らさないとな。
その日から私の奇行は始まる。
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うーん。そろそろこの世界のことが知りたくなってきたな。
ここは地球なのか?メイドさんは居たけど何も喋んないし。泣いたらオムツ確認されて、哺乳瓶突っ込まれてゲップさせられて放置。
親、居ないのかな?居たとしてもまともじゃ無いな。
…………さっきご飯貰ったけどもう1回泣いてみよう。
「あーーーーー!!!うえーーーーん!!おぐぁぎゃぁーーーーー!!」
わざと断末魔のような泣き声をあげる。最早何を言っているのかわからないな。
カチャ
「どうされまちたかぁー?ミルクでちゅかぁ?それともオムチュでちゅかぁ?」
うわぁ、痛いな。
そこには見たことの無い初老の男が黒い執事服に身を包み立っていた。顔はユルユルだ。
「おぎゃぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
面白くなってきてしまった私は気が狂ったように泣く。
「どうどう!お嬢様ぁ、寂しかったでちゅか?もう寂しくないでちゅよーじいやがおりまちゅよぉ!旦那様と奥様はお仕事がとぉーっても忙しくて来れないんでちゅよお。じいやで我慢してくだちゃいです!」
父親は仕事か。母親は出産したばかりなんだから休まなきゃ駄目だろう……。
………………取り敢えずじいやうるさい!
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歩けるようになるまでは殆ど同じことを繰り返すというつまらない毎日だった。
私は練習のかいあってか1歳の誕生日前には何も掴まらずに歩くことが出来た。
私はなんと明日で1歳になる。だが、私はまだ両親に会っていない。どれだけ仕事が忙しいのかはまだ私には分からないが、この国を担う時東ホールディングス、大企業の敏腕社長らしい。これについてはじいやが教えてくれた。というか勝手に喋りだした。
それなら両親が私の事を気に掛けられないのも頷ける。
そうだ、今世の私の名前は時東 彩湖だった。下の名前が同じなのは正直助かるし、彩湖という名前を気に入っていたので良かった。
彩湖パスってからかわれたけどね……。良い思い出だよ。いじめっ子のマリナちゃんにももう会えないんだなぁ。お父さんにも、お母さんにも。お姉ちゃんにも会えないんだ。私は、この世界で生きていくしかないんだ。
そして私はあっという間に4歳になった。
私はその間に両親にも会えた。両親は揃ってとてつもない美形で、冷たい人だった。夫婦仲は微妙で、政略結婚だったらしい。利害が一致したので結婚を決めたらしい。ドライだなあ。
そしてなんと、私には1歳年上の兄がいた。顔は私にそっくりで、違う所は身長だけだった!兄は跡継ぎとしての教育がもう既に始まっていて、私にも優しく、お菓子も分けてくれるとても優しい兄だった。
私はこの兄が大好きだった。
だが兄は、体が強くなかった。
跡継ぎの教育が本格的に始まってからはよく体調を崩すようになり、一日中ベットから出られない日もあった。その間私は兄にへばりつき、励まし、笑わせた。
だが両親は全く見舞いに来なかったのだ。
私は兄にも幸せになって欲しい。それに、前世は愛されなかったから、せっかく転生しのだ。愛して欲しい。
そして会社に突撃した。
じいやと一緒にピンクのワンピースを着て両親の居る本社に突撃し、受付をしてから社長室に向かった。
タイミングの悪い事に緊急の会議中だったので2時間ほど待ち、出てきたところを睨みつけた。他の役員は何だ何だ?と見ていたが気にせず私は両親に思いをぶちまけた。
「彩湖!?何故ここに!?」
「じい!何故ここに彩湖を連れてきたのかしら!?」
「おとうさま!おかあさま!なぜおにいさまのおみまいにこないの!?そんなにおしごといそがしいの?」
「そうだ!社長は忙しいんだ!」
「分かったら早く帰りなさい!」
「おやすみもないの?おにいさまはおかあさまたちがおにいさまのたいちょうも考えずにおべんきょうさせるから一日中べっとからおりれないんだよ!それでもおべんきょうがんばってるのになんでほめてもあげないの?」
「跡継ぎになるには、これも必要な事だ!子供が口を挟むな」
「おとうさま、それ、世間では毒親って言うんですよ」
「なっ!」
「ちがいますか?おにいさまのたいちょうも考えずにかだいをかし、いしゃもよばない。それに私にはなしかけてくれたことありましたか?私はきょう、はじめておかあさまたちとおはなししました」
「……っ!」
「おとうさま、おかあさま。私はおにいさまがきにかけてくれるからあんまりさみしくないです。でもおにいさまは…………ひとりでべんきょうして、ひとりでねこんで、だれにもほめてもらえない。でも、あとつぎだからって、がんばってるんです。おにいさまはこどくです。」
「「…………」」
「かえります。」
けっ、最後は黙りですか。
でも、響いてくれてると、いいな。
てか、私まだ4歳だったわ。
頭のいい4歳だと思ってくれないかな……。
次の日、両親は変わった。
朝はギリギリまで家にいるようになり、日が沈む前に帰ってくる。
父は兄に無理させない程度に勉強を教え、母は愛情を持って接してくれるように段々と変わっていった。
そして何より、両親は私と兄に謝罪をしてくれたのだ。
そして、本当は愛してくれていたらしい。
不器用だったと。伝わる訳がなかったと。これは言い訳だとも言っていた。だが、私はもう怒っていない。
その代わり、私は両親が大好きになった。