ヒュミリウム
僕が自室のベッドに横になると女の子の泣き声が聞こえてきた。空耳かな? それとも幻聴かな? いや、違う。これはたしかに女の子の泣き声だ。でも、いったいどこから……。僕は上体を起こすとカーテンの方に向かって歩き始めた。僕がカーテンを開けると真っ赤な月光が僕を照らした。真っ赤な月だなー。吸血鬼が結界を展開しているのかな? 僕がそんなことを考えていると女の子の泣き声が家の近くにある公園の方から聞こえてきていることに気づいた。
「……ちょっと行ってみるか」
僕が家を出ると赤い月が一瞬光ったような気がした。気のせい、かな? 僕が公園に向かうとそこに人の気配はなかったが人ではない何かが公園のベンチに座っていた。
「ねえ、君。こんな夜中に一人でいたら危ないよ」
「……お兄さん、だれ?」
「この近くに住んでる学生だよ」
「がくせい?」
「えーっと、学生というのは学校という色んなことを学べる場所に通っている人のことをいうんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
ぱっと見小学生くらいの幼女は白い光を常時放っている白い服を着ており、彼女の周囲には銀色の粉のようなものが舞っている。
「ねえ、君。お父さんとかお母さんはいないの?」
「いるけど私迷子になっちゃったから多分もう会えない」
「そんなことないよ。きっと君の帰りを待っているはずだよ」
「でも、宇宙船壊れちゃったから……」
「宇宙船? それはどこにあるの?」
「あっち」
彼女が指差した方を見ると滑り台があった。一瞬、宇宙船が滑り台に擬態しているのかと思ったが、滑り台の下に見慣れない乗り物があったため、それが彼女の宇宙船だと分かった。
「なるほど。あれが君の宇宙船か。ねえ、あの宇宙船どこか壊れてるの?」
「どこも壊れてないよ。でもね、エネルギーが足りないの」
「エネルギー? 燃料ってこと?」
「うん」
「それってこの星にあるのかな?」
「あるけど、手に入れるのは難しいよ」
「そっか。それでそのエネルギーの名前はなんていうの?」
「ヒュミリウム」
「え?」
彼女は自分の両手で白い長髪を輪っかにするとその穴を通して僕を見た。
「私たちの星にある機械はそれがないと動かない。だから、私たちは人間を放置してるんだよ。勝手に脱走して勝手に増殖した種族だけど、自分たちが私たちの生活に必要なエネルギーの塊だってことを誰一人知らない。あっ、お兄さん。このことはみんなには内緒だよ?」
「わ、分かった」
えっと、なんか人類の秘密を知ってしまったけど、これ誰かに話したらどうなるんだろう。彼女は自分の髪で作った輪っかから手を離すと僕の顔をじーっと見つめながらこう言った。
「大丈夫だよ。お兄さんはエネルギー管理者だから誰かに言っても殺したりしないよ」
「そうか、なら良かった。えっと、これからどうする? そのエネルギーがこの星のどこにあるのか分かれば今晩中に回収できると思うんだけど」
「お兄さん。お兄さんはそのエネルギーの管理者だから今すぐ集められるよ」
「え? そうなの?」
「うん、そうだよ。だって、ヒュミリウムはヒューマンヤミリウムの略称でそれはこの星にある人間の闇なんだから」
「え? そうなの? というか、それならそうと早く言ってくれればいいのに」
「早めに言ったらお兄さんとの会話がすぐ終わっちゃうでしょ?」
「なるほどな。えっと、じゃあ、そろそろ帰る準備しようか」
「……やだ」
「え?」
「私、実は家出してきたの。だから、今日からお兄さんの家に住まわせて」
「え? そうなの?」
「うん、そうだよ。あっ、お兄さん。私のとなりに座って」
「え? あー、分かった」
僕が彼女のとなりに座ると彼女は僕と向かい合うように僕の膝の上に座った。ちょ、これって対○座位……うーん、まあ、いいか。
「お兄さん。目、閉じて」
彼女は水色の瞳で僕をじっと見つめている。
「……分かった」
僕が目を閉じると彼女は僕にこう言いながら僕の額にキスをした。
「これからよろしくね、お兄さん♡」




