いいお芝居でしたよ
僕たちが帰宅すると、やつれた男性が僕に話しかけてきた。
「なあ、お前が雅人か?」
「ああ」
「そうか! なら、今すぐ俺を安全な場所まで案内してくれ!」
「わけありなのか。分かった。おい、童子。いるか?」
「はい、ここに」
「うわっ! なんだ!? こいつ!! もしかして座敷童子か?」
「はい、そうです」
あれなんか童子怒ってる?
「なあ、童子。今すぐこの人を安全な場所まで案内してくれないか?」
「それはできません」
「なんでだ?」
「それはこの人がクズだからです」
「クズ?」
「はい、そうです。この男は自分の借金を肩代わりしてくれそうな女性を売り飛ばしているクズです」
「ち、違う! 俺はそんなことしてない!!」
「しました。そしてあなたは今、その罰を受けています」
「俺はただ! 幸福になりたかっただけなんだ! それなのにどうしてあいつは死んでも俺の前に現れるんだ!!」
「そんなのあなたのことが好きだからですよ。良かったですね、あなたのようなクズを愛してくれる人が見つかって」
「あいつは人間じゃない! 化け物だ!!」
彼がそう言うと魔法少女プリンセスサミーのお面をつけている女性が現れた。
「まーくん! なんで逃げるの!? 私、何か悪いことした?」
「う、うるさい! 黙れ! 早く成仏しろ!!」
「いやだよ……。だって、せっかく死なない体を手に入れたんだもん。成仏なんかできないよ」
「頼むからもう俺の前に現れないでくれ! おい! 早く俺を安全な場所まで案内してくれ!!」
「なあ……あんた、この人とちゃんと話したのか?」
「はぁ? そんなことするわけないだろ! こんな化け物と!」
「化け物ねぇ……。僕には人間の方が化け物に見えるよ」
「ガキが! 人間を化け物呼ばわりするな!!」
僕は彼の言葉を無視して彼女の目の前に立つ。
「あなたの素顔を見せていただけませんか?」
「いいですけど、私もう人間じゃないですよ?」
「大丈夫です。僕もそうですから」
「分かりました。じゃあ、外しますね」
彼女がお面を外すとそこには骨しかなかった。
「なるほど。あなたは骨女になったんですね」
「はい」
「そうですか。でも、あれは相当なクズですよ?」
「知ってます。でも、好きなんです」
「そうですか。では、こうしましょう。今から彼の頭を少し改造します。それが済めば、あなたは一生彼と暮らせます」
「本当ですか!」
「はい、本当です。ただ、これからは座敷家系列の宿泊施設で住み込みで働いてもらうことになります。それでもよければ今すぐ」
「全然大丈夫です! よろしくお願いします!」
「分かりました。……童子」
「はい」
「今日中にできそうか?」
「はい」
「そうか。なら、あとのことはお前に任せる」
「おい! 勝手に話を進めるな!!」
僕は彼の体内にある人間の闇を操り、彼を気絶させた。
「雅人さん」
「なんだ?」
「いいお芝居でしたよ」
「え? ああ、そうか。ありがとう」
「穂乃果様、おめでとうございます。あと数秒であなたは幸せになります」
「ん? なんで私の名前知ってるんですか?」
「それは私が座敷童子だからです」
「は、はぁ……」
チン! とレンジが止まった時に鳴るような音が鳴ると彼は自力で立ち上がった。
「穂乃果様、末永くお幸せに」
「はい! 私、幸せになります!!」
そのあとのことは童子に任せた。こういうのはあいつに任せた方がうまくいくからだ。
「なあ、童子」
「何ですか?」
「あのクズと出会う少し前に俺に渡した台本、いつ作ったんだ?」
「台本? なんのことですか?」
「いや、なんでもない。さてと、晩ごはん作るか」
「私も手伝います」
「ありがとう、助かるよ」
「いえいえ、どういたしまして」




