木下巡査
妖怪課の木下巡査は話が通じない妖怪と遭遇すると僕を呼ぶ。平日だと昼休みに。休日だと夕方ごろに着信音が鳴る。うーん、もうそろそろかな。三、二、一……。ほら、鳴った。
「雅人くん! お願い!! 今うちの交番、家鳴たちのおもちゃにされてるの!! 今すぐ来て!」
「分かりました。すぐ行きます」
「ありがとう! やっぱり君は頼りになるね!!」
「はぁ……僕がこの町にずっといる保証はないんですが」
「ダメだよ! 君がいなくなったら誰がこの町守るの!」
「うーん……警察官、ですかね?」
「あのねー、警察官は人間なんだよ! というか、まともに妖怪の相手できるのは君だけなんだよ! あー、それから退治屋とか祓い屋にろくなのいないよ!! マジで!!」
「あー、はいはい、分かりました。今そっちに向かってますからそれまでやつらをあまり刺激しないようにしてください」
「分かった!! 部長! もうすぐ雅人くん来ますよ!!」
はぁ……やれやれ、早く警察だけで対処できるようにしてほしいなー。まあ、それは当分無理だろうな。
「おい、家鳴ども。消されたくなかったらとっとと失せろ」
「ひゃー! 雅人だー!」
「逃げろー!」
「やめてー! いじめないでー!!」
やつらはそう言いながらその場から去っていった。
「ありがとう! 雅人くん! おかげで助かったよ!!」
「いや、僕はただ警告しただけですよ」
「あのねー、あいつら私たちが何回言っても聞かないんだよ。でも、君が言うと一発でしょ? はぁ……いったいいつになったら妖怪用の装備支給されるんだろう。というか、妖怪ってホント害悪だよねー」
「全ての妖怪が害悪だったらとっくにこの世は滅んでいます。そうなっていないのはそうならないように努力している妖怪たちがいるおかげです」
「まあ、そうだよねー。というか、たまに私たち人間のせいで事件起きてるよね? あれはどうしてなのかな?」
「木下さん、あなたは一応警察官なんですからそれくらい把握しておいてください」
「いやあ、私体力くらいしか長所ないからそういうのよく分からないんだよねー」
あなたの胸部が偽乳でなければ長所の一つなんですけどね。
「そんなに難しい話ではありません。腹が立つようなことをされた、もしくは言われたからつい手を出してしまった。お互いの利害が一致したから共犯者になった。動機なんて人間とそんなに大差ありませんよ」
「そっかー。そういうものかー。まあ、とりあえず何か奢るよ。何がいい?」
「いえ、妹がそろそろ痺れを切らしていると思うので僕はそろそろ学校に戻ります」
「そっかー。じゃあ、これ渡しておくね」
彼女が僕に手渡したのは彼女の部屋の合鍵だった。
「どういうつもりですか?」
「私ね、もうすぐお見合いさせられるんだよ。両親が勝手に決めた相手と」
「はぁ……」
「それでね、良かったら」
「彼氏のふりをしてほしい……ですか?」
「うん……。あっ、でも、嫌だったら断ってもいいよ! 完全に私の問題だから!! でも、私この仕事やめたくないんだよ。色々大変だけど私にとっては天職だから」
「そうですか……分かりました」
「えっ? それってオーケーってこと!?」
「はい」
「あ、ありがとう! でも、君、高校生だよね? お酒飲めないよね?」
「その時はいとこと入れ替わります」
「いとこ……。ねえ、君のいとこってもしかして絡新婦だったりする?」
「虎姉と会ったことあるんですか?」
「うん、居酒屋で何回か会ったことあるよ。そっかー。あの時話してたかわいい弟っていうのは君のことだったんだねー」
「そうですか。あの、妹の話してませんでした?」
「君の妹さんの話?」
「はい、そうです」
「うーんと、たしか、あの子はかわいい妹でありライバルでもあるって言ってたような気がするなー」
「そうですか。ライバルですか。ありがとうございます。では、お見合いの日程が分かり次第、連絡してください」
「うん! 分かった!! じゃあ、気をつけてね!!」
「はい」
ごめんね、雅人くん……。




