黒髪サイドテール
しばらくすると座敷童子の童子ちゃんが私の体になるマネキンのようなものと共に戻ってきた。
「わーい! 私の体だー! ふむふむ、なんか今にも動き出しそうだねー」
「まあ、今さっきまで動いていたものなので」
「え? 今何か言った?」
「いえ、なんでもありません」
まあ、彼女が印をつけた体を片っ端からコピーしてきただけですが。
「そうなの? なら、いいけど。じゃあ、入るね」
「はい」
私がその体に入ると今まで私が入っていた体が視界に入った。
「ふぅ……やっと会話できるな」
「あー、そう、だね。え、えーっと、その……ごめんね。急に体乗っ取ったりして」
「へえ、そうなのか。というか、それならそうと言ってくれよ」
「あー、まあ、そうだね。ごめん。完全に忘れてた」
「そうか。まあ、別にいいけど」
「え、えっと、これから雅人って呼んでいいかな?」
「ああ、いいぞ。えーっと、君の名前は……」
「私、零! 零番だから零だよ!」
「そうか。分かった。あー、あとその体に違和感とかないか? その、思ったより幼児体型だから」
「違和感? そんなの全然ないよー。あー、身軽な体っていいなー。おっ! この黒髪サイドテールもいいねー。私の理想通りだよー。あっ、そうだ。ねえ、雅人」
「なんだ?」
「私のスペアボディになってほしいんだけど、いいかな?」
「えーっと、それってその体のメンテナンスをしてる時とか、何らかのトラブルが発生した時とかに入れる体が欲しいってことか?」
「うん、そうだよー。ダメかな?」
「いや、僕は別に構わないんだが……その、お前はいいのか? 僕は一応男なんだが」
「え? 何が?」
「いや、だから僕の体に入ってる時はお前にはないものがあるわけで」
「そんなの気にしないよ。私にとっては服みたいなものだから」
「そうか。なら、いいんだが」
「あっ、ちなみに雅人がアレすると私もアレしちゃうから始める前に一声かけてね」
「一声かければしていいのか……?」
「うん、いいよ♡」
「いいのか……。まあ、とにかく理想の体が手に入って良かったな」
「うん!!」
「よし、これで一件落着だな。あっ、そういえば、文車妖妃との約束があるな。じゃあ、またあとでな、零」
「え? あー、うん」
あれ? おかしいな……。なんか胸が苦しい……。この体、私に合ってないのかな? ううん、違う。これは多分、雅人が私のそばから離れようとしてるからだ。それと初めて憑依したのが雅人だったからだ。
「ま、待って!!」
「ん? なんだ?」
「あー、その、えーっと、今日が終わるまででいいから雅人のそばにいていいかな?」
「今日だけでいいのか?」
「え?」
「お前はそれで満足するのか?」
「うーん、多分、しないと思う」
「そうか。だったら、ずっと僕のそばにいればいいじゃないか」
「……っ!!」
い、今のなんか胸がキュンとした!! 何これ! 何これ!
「おい、どうした? なんか顔赤いぞ?」
「そ、そんなことないよ! 普通だよ!!」
「そうか。なら、いいんだが」
なんかこの家に女の子が多い理由、分かった気がする。
「ねえ、雅人」
「なんだ?」
「ずっとそばにいてもいい?」
「お前がそうしたいのならそうすればいいさ」
「うん! そうする!!」
はぁ……やれやれ、これでようやく休めま……す。




