文、一人で外に出るなよ
文車妖妃を口説……じゃなくて説得してなんとか元の世界に帰還した僕たち。まあ、帰還というより学校の図書室から僕の部屋まで瞬時に移動したような感じだが。
「お兄さん、帰ったらこの本読んで」
文車妖妃(黒髪ロングの美少女)が僕に手渡した本は『赤ちゃんが欲しくなったら読む本』だった。
「あー、えーっと、君にはまだ早いんじゃないかな?」
「私は付喪神の一種だからお兄さんよりかは年上だよ」
「いや、年齢じゃなくて見た目というか肉体的にだな」
「妖怪は基本的に体の大きさとか声色変えられるから問題ない」
「それはまあ、そうだが。ちなみに今の君のモデルは誰なんだ?」
「本が大好きな女の子だよ。まあ、火事に巻き込まれて死んじゃったんだけどね。あっ、ちなみにその火事は人為的なもので犯人はその子の両親だよ」
「そうか。ちなみにその子はその場から逃げなかったのか?」
「夢の中で本を読んでいたから逃げてないよ。まあ、私はその間にその子の体内に侵入したんだけどね」
「そうか。ということは今でもその子は生きてるんだな」
「書類上は死んだことになってるけど私のおかげで生きながらえてるね」
「そうか。いいことしたな」
「ちょうど良さそうな体がちょうどいい時に見つかっただけだよ」
「そうか。それは良かったな」
「うん、良かった。本当に良かった」
彼女がニッコリ笑う。うん、いい笑顔だ。よし、そろそろ身支度するか。
「うんうん、良かった良かった。それじゃあ、僕はこれで」
「待って、お兄さん。今日、帰ったら私の目の前でこの本読むって約束して」
「嫌だと言ったら?」
「お兄さんのことが書かれてる本にこう書き加える。お兄さんは今日、私と子作りするって」
「あんた、今すぐ死にたいの?」
夏樹(僕の実の妹)が殺意を剥き出しにしながらそう言うと彼女はキョトンとした表情を浮かべた。
「死にたくない。私はお兄さんと一緒に生きていきたいからここに来た。あと二人の愛の結晶である子どもがいれば今よりずっとお兄さんと一緒にいたくなる可能性が高いから私はお兄さんと子作りしたいんだよ」
「それ、お兄ちゃんじゃないとダメなの?」
「ダメ」
「ふーん、そうなんだ。童子ちゃん! 至急! この星にいる人間のオスの画像集めて!!」
「こんなこともあろうかと、もう集めてあります」
どこからともなく現れた座敷童子の童子が夏樹にタブレットを手渡す。
「ありがとう。さぁ! 今すぐこの中からあんた好みのオスを見つけなさい!! さぁ! 早く!!」
「分かった。うーん……どれもいまいち。なんか胸がキュンとしない」
「そっかー、やっぱりそうなるかー」
「やっぱり?」
「あー、今のは独り言だから気にしなくていいよ。あと、おめでとう! あんたはもう、お兄ちゃんの虜よ!」
「そう、なの?」
「うん、そうだよ」
「そっか。じゃあ、今からお兄さんと子作りしてもいい?」
「それはダメ。お兄ちゃんの初めては私のものだから」
「そう。でも、お兄さんにその本読んでほしい」
「それはいいけど、実技はしちゃダメだよ」
「うん、分かった。約束する」
「よろしい! じゃあ、この話終わり! お兄ちゃん! 早くしないと遅刻しちゃうよ!!」
「え? あー、もうそんな時間なのか。じゃあな、文車妖妃」
「文って呼んで」
「分かった。文、一人で外に出るなよ」
「うん、分かった。学校頑張ってね」
「ああ!」
僕は例の本を机の上に置くと制服に着替えた。今日も忙しくなりそうだ。




