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文車妖妃

 僕をこの世界に呼んだやつは図書室にいた。


「ねえ、君。どうして僕をここに呼んだの?」


 着物を着ている小柄な少女の周りには本が積み上げられている。その子は僕の顔をじーっと見つめている。僕の顔に何かついてるのかな?


「お兄さん」


「なんだ?」


「お兄さんは本、好き?」


「うーんと、好きと嫌いの二択じゃないといけないのか?」


「別にどうでもいいよ」


「そうか。なら、僕の答えはこうだ。どちらでもない」


「どういうこと?」


「本にはいろんなことが書かれているけど、その本を読むのに必要な情報はその本には書かれてないんだよ」


「ふむふむ、それで?」


「まあ、要するに良くも悪くも本っていうのは文字を読まないとどんなことが書いてあるのか分からないし、そこに書いてあることを理解しようとするとその本にはない情報や知識が必要になるし、そこに至るまでの過程がそこそこ長いから僕は本というものは好きでも嫌いでもないんだよ」


「ふーん、そうなんだ。ということは、お兄さんは本読むの遅いんだね」


「まあな。でも、まあ、何回読んでもその本に何が書かれてあったのか全然覚えてないんだけどな」


「そういうものだよ。それに本は内容を覚えてほしいだなんて思ってないよ。本は自分を読んでいる読者のことを知りたいだけなんだから」


「そうなのか?」


「うん、そうだよ」


「そうか。ところで君はここで何をしているんだ?」


「私は本の整理をしているんだよ。まあ、整理より読書している時間の方が長いけど」


「そうか。でも、ずっと一人は嫌だから僕を呼んだんだな?」


「うん」


「そうか。まあ、なんだ。僕にできることが言ってよ。できる限りのことはするから」


「……じゃあ、ずっと私のそばにいて」


「え? ずっと?」


「うん、ずっと」


「ずっとかー。ずっとはさすがに無理だなー」


「どうして?」


「それは僕がいないと困る人たちがいるからだよ」


「そう。じゃあ、消そう」


「え?」


「その人たちがいなくなれば、お兄さんは私のそばにずっといてくれるんでしょ?」


「うーん、そんな子のそばにずっといたいとは思わないなー」


「大丈夫だよ。私が書き加えるから」


「書き加える?」


「うん、そうだよ。例えば、私がお兄さんについて書かれている本にお兄さんは私の言う通りにするって書き加えたら、お兄さんはその通りになるよ」


「はぁ……この世界に来た時からなんとなく分かってたけど、君妖怪だな?」


「うん、そうだよ。私は文車妖妃ふぐるまようび。付喪神の一種だよ」


「なるほど。だから、君はずっと本のそばにいるんだね」


「うん、そうしないと体を維持できないから」


「そうか。ということは、君を倒すには本を攻撃すればいいんだね」


「や、やめて! 私はどうなってもいいから本を傷つけるのはやめて!!」


「僕はそんなひどいことはしないよ。そう、僕はね」


「え? それってどういう……」


「ねえ、お兄ちゃん。この部屋ぶっ壊していい?」


夏樹なつき、その言い方だと悪役みたいになるぞ。せめてこの部屋で遊んでいい? と言え」


「あー、そうだね。たしかにそっちの方がいいかもね」


「や、やめて! 本をいじめないで! いじめるなら私だけにして!!」


「はぁ? あんた、私のお兄ちゃんを私物化しようとしてたわよね? いい? 寝取っていいのは寝取られる覚悟のあるやつだけなのよ!!」


「わ、私そんなことするつもり」


「うるさい! 黙れ! さっさとくたばれ!!」


 ど、どうしよう。本が怯えてる。早くなんとかしないと私死んじゃう。でも、この子の攻撃より先に攻撃できる自信がない。ど、どうしよう、このままだと私死んじゃうよ。


「ごめん、なさい」


「あぁん?」


「ごめんなさい……許してください。私、死にたくない」


「はぁ? 私のお兄ちゃんに手を出そうとした時点であんたの死は確定して」


夏樹なつき


「なあに? お兄ちゃん♡」


「少し彼女と話をさせてくれ」


「うん、分かった♡」


「ありがとう」


 僕は彼女の目の前まで歩くとその場に座り込んだ。その後、僕は彼女の黒い長髪を撫でながら彼女をギュッと抱きしめた。


「ごめんよ。僕はただ、君の本音が聞きたかっただけなんだ。許してくれ」


「私の、本音?」


「君はさっき僕とずっと一緒にいたいと言っていたけど、君の本音を聞いた時、僕は君には生きたいという欲があることに気づいたんだよ」


「生きたい?」


「うん。それでね、君が僕をここに呼んだのは誰かと一緒に生きてみたいんじゃないかと思ったんだ。こんな誰もいない世界じゃなくて、人やら妖怪やら神やらがウジャウジャいる騒がしいあの世界で」


「そう、なのかな?」


「別に強制はしない。けど、その気があるのなら僕の部屋に来てくれ。いつでもいるわけじゃないけど、タイミングが合えばお話しできるだろうから」


「そこにはおいしいものある?」


「あるぞ。ありすぎて食べ切れないくらいだ」


「そっか。じゃあ、行く」


「別に今すぐ来る必要はないぞ」


「ううん、行く。今、行きたいの」


「そうか。じゃあ、行こうか」


「うん」


「よし、じゃあ、帰るか。夏樹なつき、帰るぞー」


「はーい♡」

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