金庫の中身
ここに犯人がいるんだな。僕は夏樹(僕の実の妹)と座敷童子の童子と舞(女の子の幽霊)と共に舞の家の中に入った。
「なあ、舞。金庫はどこにあるんだ?」
「地下室です」
「そうか。じゃあ、そこまで案内してくれ」
「はい、分かりました」
地下室。
「なるほど。これが例の金庫が入っている人喰い花か」
「そうみたいですね」
人喰い花の口が少し開いている。おそらくこの中に犯人がいるのだろう。
「舞、パスワードは分かるか?」
「はい。あっ、でも、私死んでるので私がしゃべっても多分金庫は認識できないと思います」
「いいか? 舞。妖怪や神様が絡むと人間の常識なんてものは通じなくなるんだよ。だから、妖怪が作った金庫に人間の常識は通用しない。そして金庫を開けるのに必要なのは生死問わず君の口から発せられたパスワードなんだよ」
「そ、そういうものなんでしょうか」
「それは今から分かる。さぁ、一緒に金庫を開けよう」
「は、はい!!」
やっぱりメスの顔になってる。まあ、お兄ちゃんと関わった女はみんなこうなる可能性があるからね。仕方ないね。でも、お兄ちゃんは渡さないよ。どこの誰だろうと、ね。
「おじゃまします」
「お、おじゃまします!」
「あー、そこの君、すまないが今すぐ助けてくれないか? 金庫の様子を見に来たらいきなり人喰い花の触手が私を拘束したんだよ。どうしてだろうね」
「どうして? どうしてだと? それはあんたが舞の両親と舞の死に関わっているからだろ?」
「……そうか。バレてしまったのか。だが、おかしいな。インスタント幽霊を認識できる存在はそんなにいないはずだが」
「僕の知人に全てを見通せる目を持ってるやつがいるんだよ。まあ、ほとんど私利私欲のために使ってるだけどな。それで? あんたはどうしてこんなことをしたんだ? やっぱり金庫の中身が目当てなのか?」
「ああ、そうだ。だから、私は兄さんとその妻と娘をインスタント幽霊を使って殺したんだよ。金庫さえ手に入れれば金の力でなんとかできるからね」
「あんたは欲望に忠実なんだな。でも、残念だったな。この中に入っているのはあんたが想像しているようなものは入ってないよ」
「な、何? なぜお前にそんなことが分かる? 私より年下のお前に!!」
「は? 今、年齢は関係ないだろ。脳みそ腐ってんのか?」
「な、なんだと!! もう一度言ってみろ! おい! 聞いているのか!!」
僕はやつの言葉を無視しつつ舞に手を差し伸べる。
「あの中には君の両親が君のために保管しておいたものが入っている。だから、ここから先は君一人で行くんだ」
「そ、そんな! 私、不安です! 怖いです! 一緒についてきてください!!」
「本来、この人喰い花は部外者を殺すように育てられるんだけど、これはちょこっと改造されてるから僕とあいつはここにいられるんだよ。でも、ここから先はダメだ。じゃないと僕もあいつみたいになっちゃうよ」
「そ、そうですか。分かりました。では、いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「はい!!」
「おい! お前はいったい誰と話しているんだ! まさか舞がそこにいるのか!!」
「うるさいな。警察が来るまで少し黙ってろ!!」
僕はそう言いながら、やつの口めがけて人間の闇を放った。即席のガムテープのようなものだから死にはしない。
「……えーっと、パスワードは……桜の花びらが舞い散るあの日、あの時、あの場所を私たちは一生忘れない」
金庫が開く音が聞こえる。中身は……まあ、多分アレだろう。
「……こ、これは! もう、なんでこんなのまだあるんですか。さっさと捨てればいいのに……」
「あー、えーっと、すまないが泣くのは帰ってからにしてくれ。もうすぐ警察が来るから」
「はい……分かり、ました」
「さてと、じゃあ、帰るか。あっ、一応言っておくが助けは来ないぞ。人間だろうと妖怪だろうと僕は僕の家族に危害を加えようとする存在を生かしておかない主義だから」
「んー! んー!!」
足音が聞こえる。やれやれ、ようやくおでましか。
「証拠は揃ってるからあんたに勝ち目はない。まあ、死んでも地獄行き確定だからどっちにしろあんたは終わってるがな」
「んー! んー! んー!!」
その後、僕たちは一瞬でその場から離れた。座敷童子の童子が呼んだ特殊な警察を舞に見せたくなかったからだ。
帰宅後、僕の部屋にやってきた舞は僕にだけ金庫の中身を見せてくれた。それは彼女の体の一部……だったものだった。うーん、彼女と両親の『絆』と言ってもいいかもしれないな。
「君の両親は君を一人にするつもりはなかったんだな」
「そうですね。でも、死ぬ前に言ってほしかったです」
「だな。それでどうする? これがあれば君の肉体を作ることができるけど」
「いえ、私はこのままでいいです。もう誰かに殺されたくないので」
「そうか。分かった」
今回の事件のようなことが今も起こってるっていうのが現状だけど、いつかそれを限りなくゼロにできたらいいな。




