そんなことしたら地球が滅んでしまいますよ
僕が下山していると座敷童子の童子が僕に話しかけてきた。
「……雅人さん、あまり気にしない方がいいですよ」
「なあ、童子。お前は知ってたのか? 僕がもうほとんど人間の闇そのものになってるってこと」
「……はい」
「そうか。じゃあ、何で言わなかったんだ? まさか、その程度のことで僕がおかしくなると思ったのか?」
「……いいえ」
「じゃあ、どうして言わなかったんだ!!」
僕がそう叫びながら童子の方を向くと山が怯え始めた。
「雅人さん、あなたはこの世界をどう思っていますか?」
「え? なんだよ、それ。なんで今そんなこと訊くんだよ」
「お願いします、答えてください。あなたの今後に関わることなんです」
「……待て、その前に知りたいことがある。なあ、童子。僕は今、どんな状態なんだ? 僕はいずれ『あいつ』みたいに乱暴になるのか? それともいつ死んでもおかしくないのか?」
「例の大会が終わった後、あなたの体は人間の闇を自然に受け入れるようになりました。まあ、今はもうほとんど人間の闇そのものになりつつありますが」
「それはあれか? 太陽のエネルギーを吸収していたら、いつのまにか太陽になっていたみたいな」
「まあ、そんな感じです」
「そうか」
「ところで『あいつ』というのはあなたの体を何度か乗っ取ったことがある『人間の闇そのもの』のことですか?」
「ああ、そうだ」
「そうですか。まあ、雅人さんがアレになる可能性はゼロではありませんが、もしそうなった時は私たちがなんとかします」
「そうか。なら、良かった」
「あー、それとあなたは死にませんよ。いえ、死なないと言った方がいいですね。まあ、この世から人間を消し去らない限りという条件がありますが」
「そうか。ということは僕はもう人間じゃないんだな」
「いいえ、あなたは人間です。今までもこれからも人間です。人間のまま生き続けてください」
「僕にできるかなー」
「あなたならきっとできます。この私がついているんですから。ところで雅人さんはこの世界をどう思っているんですか?」
「好きだよ。きれいなところも汚いところも全部好きだ。まあ、人間は嫌いだけど」
「そ、そうですか。なら、良かったです」
僕が好きと言っただけで赤面するのか。重症だな。
「童子ー、今の好きはそういう好きじゃないぞー」
「わ、分かっています!」
僕の体に見覚えのある黒い長髪が絡みつく。確実に夏樹(僕の実の妹)のものだ。
「愛されてますね」
「愛されすぎて困ってるよ。そろそろ兄離れさせた方がいいかな?」
「そんなことしたら地球が滅んでしまいますよ」
「そうだな。えーっと、学校に行けばいいのかな?」
僕がそう言うと黒い長髪は僕を拘束した。その後、それは僕を学校まで運んだ。




