く、くくく、口移し!?
昼休みになると、僕の教室に『下北 紗良』がやってきた。
「先輩! お昼ごはん一緒に食べましょう!!」
「えっと、君は誰だ?」
「ちょ、先輩私のこと覚えてないんですか? ほら、今も私の頭に生えているこの猫耳がチャームポイントのー」
「あー、下北 紗良か」
「はい! そうです! 下北 紗良です!」
「それ、チャームポイントになったんだな」
「はい、この耳は一応私の体の一部なのでチャームポイントにしました」
「そうか。もうコンプレックスじゃないんだな」
「はい!」
「えっと、お昼はどこで食べるんだ?」
「それはもちろん先輩の席です!!」
「え? 僕の膝の上に座るのか?」
「ち、違いますよ! 何言ってるんですか! 先輩の向かいに座るんですよ!!」
「そうか。まあ、座れよ」
「はーい」
クラスメイトたちの視線を感じる。なんだよ、後輩と昼ごはん食べたらダメなのか?
「お兄ちゃん! 一緒にお昼食べよう!!」
「ああ、いいぞ」
「あっ! 先輩の妹さんじゃないですか! 私のとなり空いてますよ」
「あー、えーっと、私の席はお兄ちゃんの膝の上なんだよ」
「へ、へえ、そうなんですかー。でも、それだと先輩が食べづらくないですか?」
「大丈夫。私が口移しするから。ねえ? お兄ちゃん」
「く、くくく、口移し!?」
「いや、夏樹の髪が持ってる箸で食べさせてもらうから口移しなんかしないよ」
「そ、そうですか。あー、びっくりしたー」
「紗良ちゃんはいつもお弁当自分で作ってるの?」
「え? あー、まあ」
「そっかー。ちなみにお兄ちゃんをおかずにしたことある?」
「ちょ! なんで今そんなこと訊くんですか! しかも本人の前で!!」
「大丈夫、お兄ちゃんは気にしないから。ねえ? お兄ちゃん」
「毎日実の妹におかずにされてるからな。もう慣れたよ」
「ええ……な、なんですか、それ。普通嫌いになりません?」
「なんでだ? 他の男をおかずにされるよりマシだろ?」
「お、お二人は本当に変わってますね。こんな兄妹、多分どこにもいませんよ」
「そうかな? 多分、僕たちより上はいると思うぞ」
「そうですかねー?」
「どうなんだろうなー」
「紗良ちゃん、私まださっきの質問の答え聞いてないんだけど」
「え? い、今言うんですか!?」
「あー、いいよ。今の反応で察したから」
「ちょ! 誤解です! 今のはちょっとびっくりしただけです!」
「本当は?」
「うっ……! し、しました」
「したんだ……」
「ちょ! なんでドン引きするんですか! 私たち同類じゃないですか!!」
「いや、同類じゃないよ。私のはミサだから」
「ミサって、先輩は神様なんですか?」
「私にとっては神様みたいなものだよ。お兄ちゃんは私の全てだから」
「は、はぁ……」
「おいおい、僕はそんなに高位な存在じゃないぞ」
「えー? そうかなー?」
「お二人って兄妹というよりパートナーですよね」
「パートナー……か」
「なれるといいなー」
「え? 結婚する気あるんですか?」
「事実婚ならできるけど、正式な結婚はできないからなー」
「だねー」
「あー、そうですか。だったら、この国から離れるかこの国を変えるしかありませんね」
「だなー」
「だねー」
それにしてもこの二人の心の距離、すごく近いですね。何をしたらこうなるんでしょう。




