器用だなー
僕が夏樹(僕の実の妹)の髪を洗っていると夏樹はこんなことを言った。
「ねえ、お兄ちゃん。どうして指震えてるの?」
「え? 震えてたか?」
「うん、震えてるよ。少しだけだけど」
「うーん、心当たりはあるけど、どれが原因なのか分からないな」
「そっか。なら、ただ単に疲れてるだけだね」
「うーん、そうなのかな……」
「お兄ちゃんは一応まだ人間なんだから無理しちゃダメだよ」
「いや、お前もまだ人間だろ」
「ううん、違うよ。私は生まれた時から後頭部に口がもう一つあったし髪の毛自由に動かせてたから妖怪だよ」
「いや、でも一応人間の血が流れてるだろ?」
「うん、まあ、ほんの少しだけど一応流れてるね。でも、髪を手足みたいに動かせる時点で人間じゃない存在なんだってことは分かるでしょ?」
「それはまあ、そうだけど……」
「あー、でも、私はこの髪結構気に入ってるよ。お兄ちゃんが今どこで何をしているのかいつでも分かるし、万物を豆腐みたいにスパスパ切れるから」
「便利すぎて逆に怖くないか?」
「怖くないよ。私にとってはそれが当たり前だから」
そうか。僕が日々強くなっていくのはそういう体質なんだと思えばいいのか。
「そっか。ありがとう、夏樹。お前のおかげでなんかスッキリしたよ」
「そう。良かった」
夏樹はそう言うと僕の指を一本一本髪で洗い始めた。器用だなー、というか見えてないよな? すごいな。




