白いカチューチャ
腹ごしらえを終えた『下北 紗良』はゆっくり立ち上がる。
「先輩、こっち向いてください」
「ああ、分かった」
僕が彼女の方に体を向けると彼女は少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「これから何を見ても笑わないでくださいね」
「なんだ? 一発芸でもやるつもりなのか?」
「いえ、違います」
「じゃあ、何をするつもりなんだ?」
「それはすぐに分かります」
彼女は頭につけている白いカチューチャをゆっくり外した。すると、人間にはないはずの黒い猫耳がその姿を見せた。
「あー、なるほど。君はもうすでに猫になりかけているんだな」
「そうなんですよー! どうにかしてください! 先輩!!」
「うーん、これはアレだな。おそらく君は人と猫、どちらか片方の生き方をしたくないんだよ」
「それって一生このままってことですか?」
「それは今後の君次第で決まる。まあ、君がさっさとこれからどう生きていくのかを決めればいいだけのことだ」
「う、うーん、猫になったら先輩とお話ししたりイチャイチャできなくなっちゃいますし、人のままだとずっと不幸なままですね。あー! どうしよう! 私、どっちにもなりたくないです! いいとこ取りしたいです!!」
「欲張りだなー。なら、そのままでいいんじゃないか?」
「え? いいんですか?」
「ああ、それも一つの生き方だからな。あー、あと多分意識を集中させれば猫と会話できるぞ」
「で、でも、こんなのがあったら彼氏できませんよー」
「世の中にはいろんな人がいるからきっと猫耳が好きな男だっているさ」
「そうなんでしょうか? 前の彼氏はヤらせてくれないからっていう理由で別れちゃいましたけど」
「なるほど。前の彼氏は性欲モンスターだったのか。でも、良かったな、襲われずに済んで」
「はい! おかげで素敵な人と出会えました!!」
なあんだ、もう彼氏候補見つかってたのか。
「そうか。それは良かったな。じゃあ、僕はこれで」
「あ、あのー、先輩今私の話聞いてました?」
「ああ、聞いてたぞ。素敵な人と出会えたんだろ? なら、あとはその人に告白すればいいだけじゃないか。あっ、もしかして練習相手が欲しいのか?」
「違います! あー! もうー! ホント鈍いですねー! 先輩は!! いいですか? 素敵な人っていうのは先輩のことです!!」
「……え?」




