下北 紗良
僕が自室のベッドから夕日を見ていると夏樹(僕の実の妹)がやってきた。
「お兄ちゃーん! お兄ちゃん宛てに手紙来てたよー!」
「手紙? 誰からだ?」
「えーっとー、『下北 紗良』さんからだよー」
「うーん、聞いたことないな。うちの高校の生徒かな? まあ、いいや。とりあえず中身を見てみよう」
夏樹が僕に手渡した封筒の表には『山本先輩へ』と書かれており、裏には『下北 紗良より』と書かれている。ラブレターかな? 僕は一瞬そう思ったが、もしそうだとしたらそれはおそらく僕のところまで届いていないだろう。なぜなら、夏樹にとって自分以外の女性は全て敵だからだ。
「はじめまして。私は一年の下北 紗良といいます。突然ですが、先輩は猫になりたいと思ったことはありますか? 私はあります! 何度もあります! まあ、正直人間の暮らしに疲れちゃったんですよね。最近は特にひどいです。彼氏が百股してることが発覚したり、父親が女作って出ていったり、そのショックで病んじゃった母親に殺されそうになったり、女友達に『私、実は紗良ちゃんのこと好きなの! お願い、私と付き合って!』って言われたり、もう本当わけわかんないです。ということで、猫になれる方法があったら教えてください!! よろしくお願いします!! か……」
「な、なんというか、色恋沙汰が多いね」
「そうだな。けど、この子は多分猫になりたいんじゃなくて精神的に苦しい状況だから少し休みたいんだと思うよ」
「そっかー。でも、それで解決するのかなー?」
「さて、どうだろうな。えーっと、この子の電話番号は」
手紙の最後の文章の下部に彼女の携帯の電話番号が書かれている。僕は枕元に置いてある携帯を手に取るとその番号に電話した。
「は、はい! もしもし!!」
あっ、なんか今取り込み中だな。
「あー、すみません。番号間違えました。それでは失礼します」
「待ってください! もしかして山本先輩ですか?」
「え? あー、まあ、そうだけど」
「へえ、これが先輩の生声かー。あっ、正確には先輩の生声っぽい音声ですよね」
「うん、まあ、そうだね。それで? 君、猫になりたいんだって?」
「あっ、はい! そうです! うち、猫飼ってるので毎日幸せそうにしてる猫見てるとすっごくうらやましくなるんですよねー」
「そっかー。でも、猫になったら猫のお世話できなくなるよ?」
「えーっと、そこは自分の意思でどうにかできる系でよろしくお願いします」
強欲だなー、というか猫と戯れながら話してるな。
「うーん、まあ、ないことはないけど、できるようになるかは君次第だよ」
「大丈夫です! 私、根性だけはありますから!!」
根性ねー。
「そうか。あー、えーっと、明日学校来れそう? というか、警察に相談した?」
「はい、大丈夫です。えっと、一応、警察に電話しましたけど、なんかそういうのは頼れる人に相談した方がいいですよって言われました」
それで僕に手紙を出したのか。まあ、別に不正解ではないけど、正解かどうかは分からないぞ。
「そっか。えっと、じゃあ、待ち合わせ場所はうちのクラスでいいかな?」
「えっと、朝ですか?」
「あー、別にいつでもいいよ」
「そうですか。じゃあ、明日の昼休み、屋上で待ってますね」
それを聞いた夏樹の目からハイライトが消える。
「えーっと、なんで屋上なのかな?」
「理由は明日分かります。あっ、監視役は何人連れてきてもいいので一人で来てくださいね。それじゃあ、失礼しまーす」
通話終了。
「ねえ、お兄ちゃん」
「お前が言いたいことは分かってる。監視役やりたいんだろ?」
「うん」
「そうか。なら、頼む」
「分かった! あっ、邪魔者がいたら排除していい?」
「それはお前に任せる」
「分かった!!」
その直後、猫の鳴き声が聞こえた。まさか……な。




