純黒の千枚通し
ごめんね、お兄ちゃん。でも、大丈夫。今、楽にしてあげるから。
「夏樹ー! 俺の闇をくらいやが……」
「純黒の千枚通し」
「……っ!?」
私は自分の黒い長髪を束ねて千枚通しにすると、それを人間の闇に体を委ねてしまったお兄ちゃんのみぞおちに突き刺した。
「おい……この体は……お前の……実の兄の……ものなんだぞ? なんで躊躇いなくこんなこと、できるんだ?」
「実の兄だからこそできるんだよ。ほら、とっとと引っ込め。皮剥ぐぞ?」
「くそ……やっぱお前頭おかし……」
そいつは最後まで言い終わる前に意識を失った。地面とキスしそうだったお兄ちゃんを私は受け止める。
「あっ、気絶しちゃった。人間の闇のくせに貧弱だなー。お兄ちゃん、大丈夫?」
「……あ、ああ、大丈夫だ……」
あー、良かった。元に戻って。でも、お兄ちゃんの体ボロボロだなー。
「そっか。あっ、まだ酒呑童子いるかなー? うーん、いるけど完全に戦意喪失してるなー」
「そうか。あいつ、勝てたのか」
「まあ、そのあと余計なことしてたから一撃で分からせてあげたよ」
「はははは、やっぱり夏樹はすごいな。もし僕がいなくなっても大丈夫そうだ」
「冗談でもそんなこと言わないで。私、怒るよ?」
「すまない。今のは忘れてくれ」
「忘れないよ。お兄ちゃんの全部は私のものなんだから」
「そう、か。はははは、お前は本当に優秀な妹、だ……な」
お兄ちゃんはそう言うと意識を失った。お疲れ様、お兄ちゃん。本当によく頑張ったね。えらいえらい。私がお兄ちゃんの頭を撫でてあげると、お兄ちゃんは幸せそうな笑みを浮かべた。まったく、お兄ちゃん無茶しすぎだよ。でも、すっごくかっこよかったよ。またお兄ちゃんのこと好きになっちゃった。いつかお兄ちゃんと結婚できるといいなー。




