人間の闇そのもの
ふーん、こいつが酒呑童子か……。
「おい! 小僧!! 死にたくなかったから今すぐ回れ右しろ!!」
「悪いな、僕は先輩の代わりにお前を倒さないといけないんだ。だから、それはできない」
「そうか。では、一撃で終わらせてやろう。死んでも俺を恨むなよ!!」
太鼓の音が聞こえる。あー、そうか。とうとう始まってしまったのか。どちらかが確実に死ぬ戦いが……。
「死ね! 小僧!! 万物壊滅拳!!」
僕は体長五メートルほどの酒呑童子の攻撃をもろにくらった。僕は地下闘技場の壁まで吹っ飛び、壁にめり込んだ。今のやつの攻撃と同じ威力を出すには大型トラックが必要だな。まあ、当然猛スピードで突っ込む必要があるが。
「お、おい、今の攻撃マジで殺す気満々だったぞ」
「か、かわいそう。でも、この子ちょっとかわいいから試合が終わったらお持ち帰りしたいわ」
あー、なんでだろう。全然痛くないや。
「ほう、どうやら少しは楽しめそうだな」
「はぁ……殺したら負けになるっていうルールがなければ全力で戦えるんだけどなー」
僕は壁から出てやつがいる場所まで歩いて向かった。
「良かったな、小僧。戦意がある限り勝敗が決まらないルールで」
「ああ、そうだな」
「小僧、俺が怖いか?」
「いや、人間の方が怖いよ」
「そうか。では、そろそろ二発目を放つとしようか!!」
僕はやつの拳を躱すと、やつの足の指を自分の足で踏んだ。
「今、何かしたか? そいっ!!」
「……っ!!」
やつの拳が僕の腹に命中する。やつは僕を天井まで吹っ飛ばすと、天井に刺さった僕の腹めがけて頭突きした。そんな攻撃、当然回避なんかできないわけだから僕はもろにくらってしまった。ここが地下で良かった。そうじゃなかったら今頃僕は空を飛んでいただろう。僕が床とキスをすると、やつは僕を仰向けの状態にした。
「連続! 万物壊滅拳!!」
あー、やっぱり全然痛くないや。ありがとう、夏樹。昨日、お前の黒髪に蜂の巣にされて本当に良かったよ。じゃなきゃ、僕はとっくに死んでたよ。
「お、おい、あいつもう死んでるんじゃないか?」
「やめて! これ以上私の雅人を傷付けないで!」
うるさいなー、ちょっと意識が朦朧としてるんだから静かにしてくれよ。はぁ……痛みはなくてもダメージはあるから結構体重いなー。
僕がそんなことを考えていると、アナウンスが流れてきた。
「えー、本大会から決勝戦のみ、相手を殺害しても敗北にはならず殺害した者の勝利というルールが追加されます。繰り返します、本大会から決勝戦のみ、相手を殺害しても敗北にはならず殺害した者の勝利というルールが追加されます。なお、そうなる前に相手が戦意を喪失した場合も戦意を喪失させた側の勝利となります。以上です」
「ほう、そうか。では、さっそく殺してやろう」
「殺す? 誰が誰を殺すんだ?」
「そんなの決まっているだろう。俺がお前を」
「……その前に僕がお前を殺す」
「なに?」
「死んでも恨むなよ、酒呑童子」
「調子に……乗るなああああああああああああああああ!!」
僕が人間の闇を使い始めると、やつがものすごく弱くなったように感じられた。
「闇の剣山」
「な、なんだ! これは!! 闇でできた針が小僧の全身を覆っているせいでどこを狙っても針が刺さってしまうではないか!!」
「どうした? 攻撃しないのか?」
「その必要はない! お前の四肢を捥げばお前の勝機は完全になくなるのだから!!」
「それはどうかな」
「な、なんだ! これは!! 地面が闇そのものになっていくぞ!!」
「これでお前はここから逃げることはできない。さぁ、僕と戦え。酒呑童子!!」
「殺してやる……絶対に殺してやる!!」
「やれるものならやってみろ。僕は全力でそれを阻止する」
「阻止する? 阻止するだと!? ふざけるな! とっとと地獄に落ちろ! 小僧!! 万物壊滅拳・極!!」
「闇の手甲」
「なっ! なぜ俺の拳をガードできているんだ!? 小僧! その力、どこで手に入れた!!」
「手に入れたんじゃない、受け継いだんだ。無限に生み出される闇を制御する役目を」
「よこせ! その力を俺によこせ!!」
「お前には無理だ。なぜなら、闇を恐れているからだ」
「黙れええええええええええ!! 秘技! 地獄の業火!!」
これはさすがに防げないな。よし、ちょっと闇に任せてみよう。
「……やったか!?」
「……まったく、最初から俺に任せてくれればもう少しマシな戦いができるってのになんでそうしないかなー? まあ、いいや。さっさと終わらせちまおう」
「な、なんだ! お前は!! もしや人間の闇そのものか?」
「おー、大当たりー。さぁ、楽しい楽しい殺戮ショーの始まりだー!!」




